表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鵬、天を駈る  作者: 吉野
4章、『○○○○○○○』
54/248

第53話 その程度では、覚めません

それで、結局何が有ったのやら。


(ロクでもないことです)






甚兵衛どのが言うことには。




どうやら、各々が


『独自に琉球との交易をやってみないか?』


という新しい稼ぎ口に大層に魅了されたそうだ。




一応、交渉にあたって


『大嵐に巻き込まれれば全滅』と


リスクが有ることは説明したらしいのだが。




それぞれの勢力は既存の航路から外れており、


大規模交易航路から締め出されて


チマチマとした(かせ)ぎしか出せない日々に



――――嫌気が差していた様だ。





むしろ



『危険は上等!一発逆転のぞむところ!!』


とばかりに逆に火が着いたらしい。




結果として九鬼家で22人・雑賀衆が37人・


長宗我部家で19人、そして島津家から49人。


出発時の25人を合わせると152人の


大所帯となったそうな。




交渉のために(まと)まった銭を持ち合わせていたものの、


ほとんど使用しないまま島津まで


トントン拍子で進み、




『このまま琉球へひともうけに行くぞ!!』


と一同が調子に乗って島津家から大船を


調達して荷を積み込み出発したそうな。




途中で何度か時化(しけ)に見舞われるも、


急拵(きゅうごしら)えながら抜群のチームワークで


無事に乗り切り琉球へ。




日本とは違う異国情緒の漂う琉球に、


テンションが上がりながら交易の許可の為に


いざ、首里の(ぐすく)へ。






交易の許可を得るため王に謁見を願ったところ、


―――――どうも低く見られたらしく


一部がキレかけて()めそうになったものの


ウチの村田の交渉役が何とかフォローする。








売り言葉に買い言葉で、担当した役人から



『なら、倭冦(わこう)の一つでも討ち取って来い!!』


とカマされたらしいのだが………




カ マ し た 相 手 が 悪 か っ た 。






何せ連中は


日本有数の戦闘蛮族たる島津


水軍であると共に国内屈指の鉄砲傭兵たる雑賀、


一度ゼロから再興した水陸両用の長宗我部に


そして船の運用なら日常茶飯事の佐治と九鬼。


情報収集のプロたる(伊賀付き)村田屋。




それぞれ半ギレの猛テンションで


――――(たちま)ちの内に城下で情報を仕入れるや。





火が着く様な勢いのままに


即座に準備を整えた後に、






――――その日の内に出港。


そのまま夜更けに強襲を行う。







結果は倭冦をひとつ、



 () () () () () () () () () 。





これに肝を潰したのは、


吹っ掛けた当の琉球の役人。




戦が出来るほどのデタラメ過ぎる武力と


ちょっと常識はずれの大きな戦果の前に、



――――首を縦に振るしかなく。





果たして交易は成り立つ。





さて、本来ならここで意気揚々(いきようよう)と帰国する所だが


混じっているのは商魂逞(しょうこんたくま)しい村田の交渉員。





(ついで)ですので、ガッポリと荒稼ぎして


金銀財宝を(かつ)いで故郷に(にしき)を飾りましょう!』




―――と一同をまとめあげ、煽り立て。


琉球で多くの船乗りを雇って、



倭 冦 か ら 分 捕(ぶんど) っ た 船 団 で 交 易 を 始 め る 。





そして、小国が買える程のひと財産を築いて


それぞれが大手を振って凱旋(がいせん)



各地の郷里で諸手(もろて)を挙げ万々歳の大歓迎となる。




熱田へは交易団の代表として、


大型ジャンク船四隻を持ち帰ったらしい。





現在も交易は続行中。





担当としてそれぞれから数名が残り


船団を組んで東南アジア圏で


交易の舵取(かじと)りを行っているようだ。










織田への割り当てはまさかの三万貫。


各勢力が均等に配分してこの額らしい。









ゴ メ ン 、



――― お 前 ら 頭 可 笑(おか) し い ぞ ?


(褒め言葉?)








聞いていた全員……殿も千秋さまも含めて


アゴが外れんばかりに驚き、呆れた。





―――――これがいわゆる、


『現場が暴走する』と言うヤツか…………






良く考えれば"雑賀"と"島津"とか、


『混ぜるなキケン』だよな。









持ち帰った結果そのものは、歓迎すべきなのだが。







――――――――良い意味で、


戦略を叩き壊してくれたな。




まったく。

超蛮族たる島津と跳ねっ返りの雑賀、


不死鳥の長宗我部に


後は海賊衆とついでに伊賀。



もうこうなるのは当たり前、


どこに出しても恥ずかしい狂暴な戦闘集団となる。



ひたすらに"食い合わせ"が悪かった。






マメ知識



『首里の城』



琉球王朝では、城を"ぐすく"と呼ぶ。



かつて北山・中山・南山と勢力争いをしていたが、


1429年に統一を果たし国家となる。


明の冊封(さくほう)となり、交易で財をなす。


江戸時代に薩摩藩が武力侵攻して支配下とする。




※冊封


大陸の国家に"封建的な"従属をして


朝貢(ちょうこう)をする間柄。



儀礼上、朝貢には返礼がついてくるために


これを利用(もしくは悪用)して貿易をおこなった。


これを朝貢貿易という。


日本の"勘合貿易"もこの一種。






『倭冦』




"わこう"。


当時、大陸沿岸では


武装商人や海賊(強盗系)などが密貿易や襲撃などを


繰り返していた。


大陸側で彼等を罵った言葉。


"倭"冦と言っているが、


別に日本人だけでなく中国人や東南アジア系など


内容はバラバラ。



今回カチコミを食らったのは大陸系。


町レベルの海賊集落が一夜で消し飛んだ。


当然、船どころか財宝も全没収。





『不死鳥の長宗我部』



長宗我部家は1508年に完全滅亡。


後の長宗我部国親が体ひとつで隣の一条家に


落ち延びたが、10年後に無事再興を果たす。


後は知っての通り、四国の雄となる強者。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ