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鵬、天を駈る  作者: 吉野
4章、『○○○○○○○』
51/248

第50話 三河仕置、草案

草案は議題の下書きレベルです。


じきに完成します。




「――――では、


ひとたび(まと)めましょう。」







しばらく話をすすめた所で一区切りをつける。


この辺りで段落をつけておこう。










……………………だから、


言った途端に人を寄越すのは止めてくれるか?



―――――――藤吉郎。








……今度は小腹に入れる程度の"香の物"か。














「先ずは、


岡崎・松平家の嫡男(ちゃくなん)である竹千代どのを


家に戻す。


―――――無償で。




その後、銭での(あつ)い支援により


竹千代どのを華々しく元服させる。


……申し出が有れば烏帽子親を受けても良い。」




これによって松平家を今川と完全に縁を切らせる。


内々に巡らされた謀の糸も含めて全てだ。




一時は棟梁を失い今川に頭を下げたが、


竹千代若君の晴れ姿を見れば独立・自立の


気運がムクムクと立ち上がるだろう。


……………由緒(ゆいしょ)のある名家らしいからな。



――――これを利用して、


今川とは絶縁してもらう。





せいぜいに頑張って下さいね。


()()()()()()()()()()()()()()()



よほどに強いお願いが無ければ


――――――烏帽子親のお願いも断る方向で。



まあ後はお好きな様にどうぞ?









「岡崎の松平家は長年の戦で大変傷付いているため


織田弾正忠家から、毎年3500貫の支援を出す。



使い方は松平家に放任。


また同時に安祥と岡崎を(また)矢作川(やはぎがわ)を境に


西を織田が、東を松平が差配するように取決めを


行い、お互いの政に口を挟まない事と定める。



……仮に『矢作川盟約』とでも称しましょうか。」







さすがに5000貫はムチャ過ぎたらしい。




まあ、確かに


『何で田舎武家よりウチが少ないのだ』と、


確実に都からクレームが来るからだ。




それは大変によろしくありません。






と言うわけで減額されたが、


3500貫でも目の色を変えて喜ぶであろう。





初年度の大金を目の前に積み上げて矢作川の盟約を


()し崩しに決めさせる。








田舎の貧乏武家に、目の前にある大金の誘惑を


()ね付けることは出来ないであろう。


そのために交渉には松平家側にワザと


多人数を指定する。





欲に目を(くら)ませて舟を山に座礁(ざしょう)


させてしまえばいい。








そして松平家は3500貫をもって暴走をして頂く。


贅沢(ぜいたく)をした上に


周囲の国人と無駄に衝突を繰り返し、


今川と喰い潰し合ってもらう。







頑張って今川に対する


『 生 き た (たて) 』になってくれ。







「矢作川の盟約により権限を得た三河西部に、


まずは我ら村田や大橋などの大商人を誘致する。



この地を織田商圏の中に呑み込むことで、


西部を完全に織田の影響下に置く。」






三河西部に尾張から多くの商人(あきんど)を呼び込む。



そうなれば三河には大量の物資が流入して、


三 河 そ の 物 が 豊 か に な る 。




同時に、三河には商人が


『 便() () 』を持ち込む。




これは一般の民だけでなく、


地侍も、国人も、そして松平も恩恵を得る。







思い浮かべてみるがいい。



商人が持ち込むのは、


―――日々の暮らしの(かて)だけではない。




今までよりも便利な道具も、


今までよりも便利な施設も、


今までよりも便利な人手も持ってくるのだ。




うまく使えば、


1日かかっていた仕事が半日で済む。


10日かかっていた仕事が5日で済む。




余った時間で()()()()が出来るのだ。


今よりもはるかに三河は豊かになるぞ。




民たちも、その上の武家も。







特に松平家については、


村田屋のダミー商家達を常に張り付かせて


松平の行いの全てを代行してやるつもりだ。







サービス価格で誤魔化して、


3500貫の全てを吸い尽くしてやるつもりだよ。




そして岡崎松平家は、


―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()





…………人殺し以外はな。



()()()()()()()()()()()()()()








ついでに言うとな、


織田弾正忠家に敵対する地域には


商人を一切近付けないし近付けさせない。




これは後になって我らに敵対した者達もだ。


荷留(にどめ)』というヤツだな。



そして、止まるのは従来の様に


米や塩だけではない。




与えられていた『サービス』その物だ。









こうすることで彼等は周りの者達が手にした


『便利』も『豊かさ』も得ることが出来ない。





(たちま)ちの内に恐ろしいまでの不満が()まり


民に(そむ)かれる事となる。


――――――半年持てばいい方だろうよ。








 (あきない) と は 怖 い ぞ ?


 兵 糧 攻 め よ り も 酷 い ぞ ?













そうそう、


下知さえあれば、


美濃でも伊勢でも


何時(いつ)でも仕掛けさせて頂きますよ?











―――――――ああ。





そういえば、津島の周りで鬱陶(うっとお)しい


――――服部の(なにがし)には


独断で既に策の準備が完了して()りまして。








一言、頂けましたら


すぐにでも追い落としが出来ますよ?





御下知はいつでも。















「こちら、"議事録"になります。」







―――――――― コ イ ツ 、 エ グ い て 。




部屋を出る時に差し出された書面に、


4人そろって顔面をひきつらせた。












天分18年 11月末、



織田弾正忠家と安祥松平家(もしくは岡崎松平家)

との間で正式な和平が結ばれる。


この和平は

松平家嫡男の竹千代の無償返還に

松平家への多額の資金援助と、

当時有利であった筈の織田家から切り出した

物としては異常な程に松平家に有利な物であった。


代償として、織田家は矢作川より西の権益を

手に入れる。


この和平が"いかなるものを目的としたか"

それが判明するのはしばらくの時を必要とする。


後に『矢作川盟約』と呼ばれた。
















翌 12月、



荷之上城主である服部 友貞が住民の反乱により

城を追われた。


織田信秀は住民の求めに応じて城を接収する。

織田家はここを直轄(ちょっかつ)とした。



実のところ、


外で控えている藤吉郎は会話を聴きながら。


香の物を持たせた者をしばらく外で待たせ、


指でカウントダウンしながらタイミングを


計っていたりする。


()(よん)(さん)()(いち)、……今っ。』


などとハンドサインで。


想像するとちょっと笑える。映画監督か?




筆記して、伝達とかもやってます。


勝手に書記をさせてたりも。




次に話し合いが有るときは部屋にに入ることを


許されるのではないかな?






そして、………じわりと世界は動き始めます。


物語が、三河から始まる。






マメ知識




『原案・素案・草案』



それぞれ"げんあん"、"そあん"、"そうあん"。


原案が、会議に持ち込む段階の議題。叩き台とも。


素案は、会議でまとまった大まかな題材。


草案は、下書きレベルまでまとまった議題をさす。


完成すると"成案"となる。





『香の物』



"漬物"の別名として使われる。


いくつか説がある。


①昔、香り高い味噌のことを『香』と表現しており、


味噌漬けのことを『香の物』と呼んだ。


"香"から出来た物だから。



②香木のかおりを楽しむ集まり等で、


()ぎすぎてバカになった鼻を、


大根の(ぬか)味噌漬けで休ませたことから。


聞香(ぶんこう)というお香遊びに欠かせぬ物だから。




時代の流れと共に漬物全般をさすようになる。





『嫡男』



長男ではない。


家を継ぐ男子を指す。正統後継者。






『元服と烏帽子親』



当時は成人の証しとして、


堂上家(御所に昇殿する資格を持った家柄)は冠を、


それ以外は烏帽子を初めてかぶる


……という儀式をもって大人の仲間入りとした。


烏帽子親はそれを被せる役柄の人。


通例的に、その人物は元服した子供の


身元後見人として成人後の教育や


困ったときの面倒などの支援を行う。


だいたい自家の上役である


"寄親"や主君に頼むことが多い。






『織田は口を出さない』



松平家に、"織田に押された"と言う


言い訳をさせないため。


また、そうして自分達のみで決めさせて


『暴走を助長させる』のが目的。






『盾と楯』




いわゆる"シールド"全般を指すのが『盾』となる。


『楯』は字の通り、"木製の盾"。


戦国時代の絵巻やドラマで、


『陣地に置かれた木製の大型の立て板』


………これが『楯』のことを指す。




何故かは知らないが日本人は盾を使わない


ファンキーな戦闘民族である。






『便利を持ち込む』




商業が盛んに成ることの最大の恩恵。


村田屋はこのサービスに特化した部門がある。


完全な新規事業であるため、既得権益組織である


『座』の利権と接触しないからやりたい放題。


現在"座"が入り込めないシステムの構築中。





『ダミー商家』



現代でいうところのダミー企業。


当時としての名称は『模擬商家』


名前と担当が違うだけで、中身は"村田"。






『松平家の末路』




どこが口を出さないだ?


もっとタチの悪い傀儡行為じゃないですか!!


ヤダー!?







『下知』



"げち・げぢ・げじ"と読む。どれでもいい。


上司からの命令のこと。


先に触れた"仕置"同様に、


古い表現として『裁判の判決』という意味がある。


おそらく、庶民がそこしか見ることが出来ないため






『服部の某』




津島の町の南、荷之上城の城主である


服部友貞のこと。




この御仁、徹底的に織田にケンカを売り続けたため


あらゆる織田弾正忠家を描いた物語において


某『台所のG』のように


蛇蝎(だかつ)如くに嫌われる。


今までコイツが味方になった話は聞いたことがない。



歴史の合間についで扱いで追放される。





『エグいて』




もしくは『エグいてぇ』と延ばして言われる。


『とあるチューバーのドッキリ目録』で流行した。


"ヤベェ"とか"マジか"、"あた(まが)おか(しい)"


などで表現される…………感嘆詞?





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