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鵬、天を駈る  作者: 吉野
3章、『○○○○○○○』
43/248

第42話 銭を獲るのは、容易くない

事業計画書をだせ、簡単にと言われましても…


この話はある意味、予定調和。



「はい、やり直し」


「うがあぁーっ!!」




ひどく悔しげに


板の間を両の手でバンバンと叩く様子を尻目に、


紙をくるくると丸めて三郎さまに軽く投げ渡す。






最初は毎日勢い込んで来ていたものの、


次第に日が空く様になって来た。


煮詰まって来たかね?








「えぇい!


キサマ、本当に"計画書"を通す気があるのか?!」




却下され続けはや8回。


腹立ち(まぎ)れに自棄になったかの様に吠える。





まあ案の時、銭を獲るために始めたことが……



何時の間にやら最近では、企画を通して首を


縦に振らせる事――その物が目的になりつつある。




本末転倒極まりなし。


()()()()()()()()()()()()()()()






もう少し、頭を使うがいい。


政も戦も、正面からぶつかるだけでは勝てぬのだ。




この連中にも『考える頭』を会得して


もらわなければ困る。


考える習慣を身につけて頂かないとな。





兜を乗せるだけの、


他人に獲られるだけの頭など必要ない。






そんな物、床の間にでも飾っておけ。













「三郎さまの計画ですが、


まず、費用が掛かりすぎます。



多少の事なら無理は効きましょうが、


これでは『穴の空いた大鍋』です。


出費が大きすぎて長期運用に向いていません。」






武家の丼勘定にも程がある。


際限のない出費が生まれる運用など


いくら織田家が資金面で余裕がある……


といってもモノには限度と言うものがある。




もう少しばかり鍋の穴を小さくする努力をして


頂かないとどうにもならない。


短期的ならともかく、長期的には無理だ。






「ついでに言いますと、


多大な費用に対して効果が薄すぎます。


少なくとも運用面で『厚み』を出さないと


全く実用に足りませんね。」





形を造っただけで終わりでない。


造り上げたなら、それを使いこなさなければ


意味などない。


ただの無駄遣いだ。






造りました。


出来ました。


――――――以上です。


………では困るのだよ。





造ったものは使わなければ意味がない。


『田舎町村のハコモノ』では無いのだから。






維持費のかかるゴミを造る余裕などない。








「そんなことを言われても、今の我等に


斯様(かよう)な事が解る訳がないでしょうが?!」



「――――――そんなこと、


 () () () () () () () 。」




又左の坊の吠え声に間髪入れずに返してやる。



(ろく)に経験もない小僧にこんな上級政務が


最初から出来る訳が無いでしょうが。


つい最近まで遊び呆けていた連中に。





むしろ出来たら腰を間抜かすわ。




「この事業計画書の作成は最初から、


大人達に頼ることが前提なのですよ?」









「―――――――してもよかったのか。」



………………そこからか~い。












「ああ、


あくまで自分達の手で行え……と思っていたと。」





すっかりと小さく成ってしまった小僧達を眺める。


―――あくまで自分達でするつもりだったらしい。




なんだかなぁ。


―――――幼いながらに


変な所で誇りなんぞ持ち出しよって。










「先に、あれほどに人を……大人を頼れと


――――言って居ったでしょうに。



城から予算をとり殿の決裁がかかる事柄ですよ?


素人が出来るはずがないでしょうが。」






軍に、兵に関わるなら"柴田"なり"林"なりにでも。


商いに関わるなら"生駒"や"大橋"にでも。


政に関わるならわが父にでも。





頼るところはいくらでも有りましょう。



「そして身近に、"平手"様が居られましょう?」



それこそ、


あの御仁ならほぼ万能でしょうが。



頼りにしてみるといい。


心底に喜びますよ。





「―――しかしな、


織田の棟梁になろう者が……………」


三郎さまが渋る。


そういう話か。


『軽々しく頭を下げるな』…か。





――――――やれやれ。






「今だからこそ、頭の下げ所です。


いずれ下げられなくなる今だからこそ。



そういう御身分の若君に頭を下げられた。


頼られた。



それが家臣達の自負となります。


その自負が未来に若君の下支えとなりましょう。」






何より、未来に向かって動く三郎さまに


『頼り甲斐』を感じる。



この事業計画書を完成させれば


『織田の若君』ではなく、


『三郎様』に実績が生まれるのだ。




"殿の子"でなく三郎さまが支持をされる。


()()()()()()()()()()()()()








「方々に頭を下げて、助言を請うといいでしょう。


今より、はるかに良いものが生まれますよ?」
















――――――――なに?




そういえば三郎さまの計画書の内容が


……………どの様なものかを聞いていない?


それは計画書が形になった時、教えてあげよう。






いずれ、な。

そういえば、今日で連載一月になります。



今回の話、


別に三郎さまへの意趣返しではないですよ?


"それだけ"では。





最後の一言は藤吉郎くんの疑問への返答です。






マメ知識




『考える頭』


将来のために、論理的な戦略・戦術の設計が


出来るように頭の体操をさせている。


根性論で国家運営をされる程、迷惑な話はない。





『田舎町村のハコモノ』



とかくお役所というやつはの、ザルな収支計算で


安易に意味不明な建物をポコポコ建てるといった


ダメンズな傾向がある。



昭和の好景気な時代に、政府が地方自治体に


『好きに使え』と言って数億を渡したところ……


その(ほとん)どが用のないハコモノを建ててしまった。


維持管理費のかかるソレを物置小屋どころか


現在では老朽化が進み解体の費用で悩んでいる。


数億がゴミ以下になった、と言う


『笑えない笑い話』は比較的有名な話。



戦国時代で政権担当者が『こんなの』だと、


実に困る。




『解る訳がないでしょうが?!』



又左の坊のセリフ。


少し前なら、


『わかるワケねぇだろうが!!』となる。



地味に成長している。





『事業計画書を書かせるワケ』



①銭の大切さを知らしめる


②政策の基礎を学ばせる、経験を与える


③少しは忍耐つけろよ、短気なんだから


④頭を使え、脳筋ども


⑤今まで"難なく"やってきた三郎様の"挫折"


⑥家臣との協調を学ばせる


⑦明らかに高々難易度の事業という"実績"


⑧頭を下げることの大切さ


⑨未来の孤高の棟梁、という立場を解消させる。



簡単に言ってもこれだけある。


待っているだけで三郎さまを鍛えられる。



そんな楽な仕事です。


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