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鵬、天を駈る  作者: 吉野
3章、『○○○○○○○』
36/248

第36話 空に、詰める(後編)

前後編に分けたのに、


それでも3000字を越える。


本作品中、最大の長さです。

「――――――――――――――なら、」


(うつむ)いていた若君が(うな)る様に(つぶや)く。




狼が、犬が唸るように。






「なら、どうしろというのだ!!


どいつもこいつも常識! 伝統!! 武家らしく!!!


古くさいモノばかり押し付けてくる!



何かを勝手にすれば文句ばかり!!


人もなければ銭もない!!


無い無い尽くしだ!!!



これで!


――――何をしろと言う!!!!」







それは悲鳴だ。



そもそも、織田信長という人間はこの時代に


適応できていなかったとも言われる。





基本的に頭の回転が人より回りすぎるがために、


周りの者を置き去りにする。





好奇心が強すぎ、新しい物を願いすぎるがために、


出過ぎたクギのようになる。





(かび)の生え、(こけ)むし朽ちかけた伝統なんぞ


望みもしないし、


見苦しくて思わず『煤払(すすはら)い』でもしたくなる。






何をしても文句を言われ、


何をしても否定され、


何をしてもケチをつけられる。






『なら、どうしろと?!』


とでも言いたくもなるだろう。







「………………若君…」






供回りたちの(いたわ)る声が聞こえる。



自分たちの家で『恥かきっ子』とまでいわれる


末の子の彼等は、ある意味信長の同類だ。





家から邪険にされ、ついでのように扱われる。


主の叫びに思うところがあるのだろう。






――せめて、人並みに。




その願いは共通だ。











しかし、な……










そ れ は 甘 え だ 。










「傅役の平手さまに是非をききましたか?


教えを受ける沢彦和尚に良し悪しを尋ねましたか?


周辺の武将に確認を取りましたか?


殿に、お父上に許可を得ましたか?


内政方、我ら…村井に銭の無心をしましたか?





――――どれか一つでもされましたか?」






若君だからといって、何でも出来るわけではない。


何をしても許されるわけではない。


全てが難なくこなせるわけではない。


誰かが代わりにやってくれる訳でもない。





自分ひとりでは。
















――――――その沈黙が答えだ。








若 君 、




()()()()()()()()()()()()








だから出来ないのだ。







「結局のところ、


『人間、一人では何も出来ない』のですよ。



若君には米を作れません。


――――屋敷を建てることが出来ません。


――――メシを作ることも出来ません。


――――1人で戦をすることも。





早々に諦めて、皆を頼りにすれば良かったのです。


―――子供に頼られれば、大人というのは


悪い気はしないものです。



喜んで受け入れてくれるものなのです。」










 こちらは仔猫の様に頼った。






人を集めることも、


彼等を自身と共に教育することも、


頭を下げ、銭を借りて回ることも


今風に合わぬ近代の商いを合う様にと()り合わせも


初めての店の立ち上げから軌道に乗るまでも









頭をさげて、頼りっぱなしだよ。










それが、『うつけ』と『数寄者』の結果の違いだ。











「だが、所詮(しょせん)


…………今更だ。」




顔を伏せたまま、弱々しく呟くように言われる。









あん?





今まで抗い続けたものに、


負けて折れてしまったように。






ハァ……………





諦めるのか?


ここまで来て?




ここまで足掻いておいて?






………つまらないな。





こういう時こそ足の踏みしめ処だ。


踏ん張り処だろう。






そこで折れてどうする?



そんな様だから『うつけ』と呼ばれるのだ。












「格好、悪いですね。」




俯いていた若君が"ピクリ"と小さく震える。







そうだろうな、若君。



それは貴方が大嫌いな、


――――そんな言葉のハズだ。





ゆっくりと顔が上げられる。




『それだけは許さん』


………とでも言うように。







 結 構 。









『 敦 盛 』 の ひ と つ で も 、



―――――― 舞 っ て 魅 せ ろ よ 。







「人に尋ねなされ。


…人に頼りなされ。


是非も、良し悪しも。」






元服したから何だ?





跡目を継いでもいない若君なぞ、


所詮『お試し』だろうが。





ヒヨッコ風情が何をしても半端になるだろう。



それが今の若君だ。






頼って、


当たり前なんだよ。










「常識なんぞ、


伝統なんぞ、


そして武家らしさなぞ、


そんなものは利用するだけ利用すればよろしい。



利用した上で、好き勝手してやればいい。


『枠の内で』華麗に舞い踊ってやればいいのです。」







常識なぞ、伝統なぞ


たかが生活のガイドラインだろう。






そんなものに振り回されてどうする?




ガイドラインなんて、あくまで参考だ。


参考にするだけで良い。





参考にしたうえで、


その中で暴れまわってしまえ。





――昔から、『婆娑羅(ばさら)』な武家


……なんてものもいたのだぞ?




若君程度なぞ、


鼻で笑われるような『ヒャッハー』が。







どうしても文句を言われるなら


御高名なかの御仁らの名前を出してやれ。









「温故知新。


古くさいならば、それを万全に使いこなした上で


じわりじわりと新しくに侵食してやればいい。


―――怒られないギリギリを狙ってやればいい。




そしていつか、内から食い破ってしまえばいい。」








古くさい、というのは歴史の重みだ。





とはいえ、




それは太古の時代から完全な形で継承など


されてはいない。




世の流れ、流行で


簡単にねじ曲げられてしまう




――――結局は、その程度のものでしかない。





平仮名・片仮名だって、



()()()()()()()()()()()()()のだぞ?






ならば、



流 行 に 乗 せ て し ま え ば


こ ち ら の 勝 ち だ ろ う が 。










「勝手にすれば怒られるというのなら、


言質を取りなされ。甘えてしまいなされ。


『勝手でなければ』よいのですよ。


『許しは得た!』と切り返してやればいい。」






今の私達は、若輩。



ならばその"(あなど)りの心の(すき)"を


突いてやればいい。




甘く見るなら、遠慮なく攻めてやればよいのだ。




心の隙を突けとは、


かの孫子も言っている。





――――まぁ、先々に自分がされないようにな?








「足りないと言うのならば、


人をあてにされなされ。


義理が、貸しが嫌だと言うなら、


いつか熨斗(のし)を付けて何倍にもして


返す準備をすればよろしい。


いつか山盛りの御礼を叩きつけて、


吠え面をかかせればよろしい。」






何も持ってないくせに、


誇りなんぞで構えてもムダだろう?




今は頭を下げてでも人を頼れ。




物でもいい、心でもいい。



抱え込んだ『恩』をいつか溢れんばかりに


返してやれ。








「『足りぬ』と足踏みをするよりも、


先ずは一歩……踏み出しなされ。


今なら失敗なぞ………いくらでも、何度でも


取り戻せます。




失敗が怖いのなら、


今のうちに


何度だってしてしまえばいい。



それこそ、転ぶことに恐れを抱かぬほどに。





家を継いでからでは、遅いのですよ。」







不満をわめき散らし駄々をこねて、


一歩も踏み出さないくらいなら




いっそのこと無様なほどに


走り回って転げ回ればいい。







親を頼るのも、失敗するのも。


そいつは子供の特権だ。




子供で居れる内に、経験を積めばいい。







大人になって、織田を継いでからでは


最早取り返しが効かんぞ?









ぽかん………とした顔の若君に


ニヤリ、と笑いかける。




「『良い格好をしろ』、なんて言いませんよ。


格好(かっこう)良う』生きなされ。




自分たちの満足だけに留まらず、


尾張の国中の者共が憧れ、肖りたいと願う程に。




猪や山犬などではなく、


天を駆る大鷹になりなされ。」




禽獣(きんじゅう)どもの様に地面で轉回(のたうつ)のではなく、


全てを見おろし颯爽(さっそう)(そら)を飛び回れ。







 力を、光を失くしていた若君の目に火が灯る。





ギラギラとした輝きが燃え盛る。




再び煮えたぎるような気配を放つ若君に、


落ち込んでいた供回りたちも力を取り戻す。





それぞれに気合いを入れ直している。








ふふふ…………



案外、人望あるではないか。









「さて、若君。




ここに500貫ございます。


支度金としてお渡ししましょう。



どうぞご自由に。


『格好良く』使って見せて下さいな?」





言い放ってやる。




やり方は問わない。


好きにすれば良いさ。






その代わり、




『尾張一の色男』


『尾張の大鷹』


―――にでもアダ名を塗り替えてしまうがいい。







さて、





『 空 の 器 』 な ら ば、


ど れ だ け 詰 め 込 む こ と が



―――――出 来 よ う か ?







(うつけ) の 器 の


魅 せ ど こ ろ だ ぞ ?















「ああ、そうそう。


『無様』を晒すようなら、


キッチリと取立てに行くつもりですので





――――――そのおつもりで。」





供回りが


ビクッ、と肩を跳ねさせた。





対ノッブ様、


叩き落としてから上げる


やり方がエグいなぁ。





マメ知識




『冷や飯喰らいの四男・五男』



"長男の予備"ですらない彼等は、


家で召し使い扱いされるか、新しく家を興すしか


生きる道がない。


ゆえにノッブ様の苛烈な光について行く。






『"枠の内で"華麗に舞い踊る』



これをやった代表が、


『藤原道長』や『平清盛』。


逆に、"枠の外で"誰も文句が言えぬほどに


華麗に舞い踊ったのが『前田慶次』となる。


どちらが良いとも悪いとも言えない。


タイミングの話なので、『枠の外』で踊るのは


今のノッブ様には合わないだけ。





『婆娑羅な武家』



この"婆娑羅"は、戦国の"(かぶ)く"の類義語。


室町時代、成立初期の言葉。


高師直、土岐頼遠、佐々木道誉らが有名。




一度調べてみてください。


こいつら、ホントに無茶苦茶です。


ガチの"ヒャッハー"ですよ。





『温故知新』




この話で語っていることは、


まだ存在しないが千利休の


『守破離』の教えに相当する。


『型を完全な形で会得し、


その上で型から外れた試みを行い、


やがて一つの流派として大成し、別れる』


それを目指せ、という教え。


ただし、物事の本質は忘れるなよ?


と、利休も釘をさしている。


例えば茶の湯がダンスになったら意味がない。





『禽獣』




"禽"が鳥の事を、"獣"はケモノを意味する言葉。


動物全般のことをさす。


野生の動物は本能だけで生きているから、


仁義も道徳もない。


そのことから、外道の極みの人物のことを


『禽獣にも劣る』と表現する。




ここでは禽獣を『野生化・凶暴化した戦国武将』


に例えている。






『空に詰める』



実は"空"は『うつけ』とも読める。


中身が無いならいくらでも入る。


また、"詰める"には『厳しく説教する』と言った


意味もあり、『うつけに説教!』


と言う意味も掛けている。





ふと、書いている途中に○ラゴンボールの


オープニング曲の歌詞にそっくりだと思った。




※あくまで物語のプロットの方が先ですよ?




気になる方は『○ラゴンボール 頭カラッポ』


で、調べてみてください。





『500貫の支度金』




ついさっきまで脅されていた金額と同額。


そりゃ、ビクビクもするよね?

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― 新着の感想 ―
[良い点] >茶の湯がダンスに どっかのダンサー芸人が踊ってましたね。 「茶の湯~♪」ってww
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