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鵬、天を駈る  作者: 吉野
1章、『◯◯◯◯◯◯』
3/248

第3話 深き夜に、燃ゆるモノ

キリの良いところまで書いたら


長くなってしまった………


 ……………何が………起きている…………?







 今は夜も深き丑の刻…3つ時(3:00から3:30頃)あたりであろうか?

辺りはとうに夜の(とばり)の内、見回せどまともに見えぬ。


 明るく見えるのは炎の灯りのみ。



すなわち足軽どもの持つ松明(たいまつ)と――








()()




()()()()()()()()……()()()()()…………







 何が起きている…?!









 ―――援軍に向かう折、殿(織田信秀)に『村井のところの小倅(こせがれ)を連れてゆくこと・()ずは一度(ひとたび)、今川勢に全力を(もっ)て攻め掛かること』とだけ告げられ。


軍を退いた後 かの孺子に「早めに休むように」と言われ、何かするのであろうとは察しておったが……



確かあの山は


今川の……本陣で




  火計か




なるほどな。


現状をようやく理解し、手早く鎧兜を着込む。


兵達にも急ぎ手配を進めさせた。








「流石は、平手様。まさに機を見て敏なりですな。」


陣幕をくぐって()()が顔を見せる。




 昼と変わらぬ姿…襟元(えりもと)から袖口(そでぐち)にかけて(あお)から白へととやわらかな階調グラデーションが鮮やかな小袖(こそで)を着こなしている。


髪は禿(かむろ)にするわけでもなく前髪はやや雑にかきあげ、腰あたりまで伸ばした髪を組紐(くみひも)で飾り結びに結んでている。


全体的に小さっぱりと、小綺麗に、やや小洒落た様であろうか。


寒さのためか上から無地の羽織を着込んでおる。


白の足袋に皮の浅沓(あさぐつ)()いてさくさくと歩み寄る小僧に声をかける。






つくづく戦に向かう格好でないな。





「無論、追い討ちをかけるかの?」


「ええ。昼の内に安祥城へ矢文を送っております。



『未明に合図の()()()()を灯しますゆえ

 押し込められた鬱屈(うっくつ)、存分に晴らしたまえ』と。



じき三郎五郎(織田信広)様が今川方へ押し寄せましょう。


大将と仰ぎ指揮に従う、という体で共に向かうと良いかと。」








………三郎五郎殿の心情・面目も(おもんぱか)るか。




「さて、相手は親からはぐれた(かも)(ひな)の様なもの……手柄の取り放題ですな。」


 けしかけてくる小僧を背に、馬に(また)がる。


「うむ。では者共!出るぞ!!」








 信じられるかね………?




()()()()()()()()()()()()










 三郎五郎殿と合流し散々に蹴散らしてやったのち。



「大勝利、おめでとうございます。

これならば最近は押されていた三郎五郎様も喜んだことでしょう。」



小僧とその一向がやってくる。



確かに先程見かけた三郎五郎殿もひどく晴れやかな顔で笑っておられた。


これまで、かなり厳しかったようだ。





それはよいが、



「昼から思うておったのだがな。」


「はい?」




ひとつ、訊いておこう。






「なぜ沢彦宗恩(たくげんそうおん)和尚がここに()られるのだ?」



()()()()用などないはずだが。




「……」


何ともいえぬ顔をされる和尚。…はて?





小僧がからからと笑う。



「兵たちのためですよ。」


……足軽らの?








「たとえ長年の敵といえ太原雪斎を、『坊主を殺す』――これは重きことにございます。中には御佛(みほとけ)のお怒りを恐れるものもおりましょう。」





……あぁ、確かにな。


「ならばかの坊主は討たれた今川の将兵と共々、ここでこのまま沢彦和尚に



荼毘(だび)()して(火葬にして)』



頂こうかと。


ここで丁重(ていちょう)に彼らを(とむら)(まつ)るなら兵らも恐れることもありますまい。」





――――なんとも、まあ。




()しもの沢彦の和尚も何ともひきつったような顔をしておられる。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()










「では和尚、お願い致します。」


小僧が頭を下げる。




「…………うむ。」

和尚も気を取り直して、大声で告げられる。






『これより、この者たちを荼毘に付さん


  たとえ ひとたび(かたき)として(まみえ)ども


   死すれば敵も味方もあらず


    等しく御佛(みほとけ)となり(たも)


     祈りを捧げ供養を願え


    友のため、隣人のために


   たとえそれが敵であろうとも


  彼らが(まど)い現世に彷徨(さまよ)わぬ様に』










 朗々と和尚が御経を詠まれる。


しばらくして小僧の声がそれに続き、


やがて兵達の声が重なりゆく。








 響き渡る誦経(ずきょう)を背に、しばし目を伏せ念じた。





 散々に我等に(あだ)なした雪斎坊主よ


 恨むなとはいわん 憎むなともな


 だが 其は清浄仏土へ持って行け


 死してのち現世に仇なすことなか










 読経は、夜空が白むまで続いた。













 天文18年………後に第3次安祥合戦と呼ばれる戦いにおいて今川軍は織田軍の火計により大敗を喫した。

『雪斎、死す』との知らせを聞いた今川義元は立ち尽くし、声にならぬ慟哭(どうこく)をしたという。

 この戦いで三河において前面に立つ松平家の武将、後方から援護する今川家の三河方面担当の武将、なにより今川の柱石たる太原雪斎を失ったことで今川家の三河戦略は大幅に後退することとなる。



平手のじい様の想いは各自で漢詩、7文字4行の


"七言絶句"に変換してお楽しみください。



5字の五言絶句では少し難しいと思いますので。




なお、本文はあくまで『口語訳』ですので


漢字や文法を変えてもOKですよ?




なお、背景の変更は『夜のため』です。





マメ知識


『丑の刻、3つ時』



いわゆる『草木も眠る丑三つ時』のこと。


昔は24時間を12の『刻』で割り、さらにその刻を


4分割して1つのマスの間を『時』として表現した。


つまり"2+0.5✕3"で3:00~3:30となる。




この時間が不吉といわれるのは、


時計盤に十二支を書いた場合、この時間が


方角的にヤバイとされる『(うしとら)


とされるため。





禿(かむろ)



ハゲではない。


①幼い子供にさせる髪型。前髪を目の上で


パッツンに、後ろを耳下あたりでこれまた


パッツンに切る。


『座敷童子 イラスト』で調べると分かりやすい。



②平清盛が①のカッコさせたチビ


(大人・子供問わず)共を京の都にバラまいた、


いわゆるスパイ。



浅沓(あさぐつ)


文字どおり、『浅いクツ』。公家が履いていた


スリッパの親戚みたいな漆塗りされた黒い


木製のクツ。


古くは革製の物もあり、主人公が


履いているのはこちら。


ただし足のサイズに合わせたオーダーメイドの上に


性能を極限まで高く試作した


ハイエンドカスタム品であり、


後に織田家中で普段履きとして流行ったりする。





誦経(ずきょう)



経典を読みながら唱えるのが『読経(どきょう)』、


暗記して(そらん)じて唱えるのが『誦経』という。





『慟哭』



大声で激しく嘆き泣くこと。


分かりやすくいうと『(大人の)ギャン泣き』。


ただしテストで書くと怒られる。

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