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鵬、天を駈る  作者: 吉野
2章、『◯◯◯◯◯◯』
26/248

第26話 村田の、黎明

村田の夜明け、


村田のはじまり。

 なんだろう。



何かひさびさにスッキリと起きた気がする。





「うー……」


両の腕をあげて伸びをする。


からだがポキポキというのが心地よい。





「ぅう………っ?!」



急に、きのうの夜のことを思い出した。





ぐるぐると回る自分の情けなさにわけも分からず


若様にあたってしまったこと。




若様におだやかに諭されたこと。


ああ、夜のほしがキレイだったなあ……






――――――――なさけねえ……



思わずヘタレこむ。


きのうもこうして几案につぶれたなぁ……







 へこんでもつぶれても朝は来る。


…………ハラも減る。






とぼとぼと食堂へ歩いた。









「おや、おはようございます。」



こっちへきてから初めてのおいらに店のなかの


案内してくれた和葉さんが頭を下げてあいさつ


してくれた。




年の頃20歳前後のお姉さんだ。



とても身体をキレイにしていて


ええと……そう、



"ものごしがやわらかい"。





まるでいいところのお姫さまみたいな人だ。







「あ、おはようございます。


そっちへ行ってもいいですか?」




和葉さんだけでない。


村田の店衆はみんなシャンとしてる。




読み書きも算術も簡単にこなすし、町や村の


産物にもくわしい。



おまけにいろいろなことを知っている。








「…………………はぁ、」


おいらたちとは大違いだ。








「どうしましたか?


朝からため息などついて………


ため息をつくと幸せが逃げると言いますよ?」




和葉さんが気をつかってくれる。


…………気の使い方もととのっている。







「――――村田のみなさんはスゴいですね。


みんな、なにもかも立派です。


どうして、そんなに



…………………なれるんですか?」







おいらたちも、そんな風に


………なれるんだろうか。








「……………藤吉郎さんは、私たちの事を……


お知りではないのですね……………」



 和葉さんが静かにいった。





村田の店衆のことを、


――――――知らない?










どういうことだろう?












「私達、村田屋の者は……………


一部は藤吉郎さんの様に若様に引き込まれた者も


居りますが……………



その(ほとん)どが戦で親を失くした子供や


すむ場所を失くした流民なのですよ。」





そんな風に、いわれた。










「――――――――は?…………ぇ?」





………ウソだ。


始めに浮かんだのはその言葉。




それでは村田のみなはおいら達と同じではないか。


それどころかおいら達よりもむごいかも知れん。





  バカな


それがこんなに立派になれるのか?





 バカな


立派にしてもらえたのか?





      バカな





何よりも、


"オサムライサマ"がおいら達みたいなものを


ひきあげてくれるとでも?








「そんな……………こと?」


言葉にならない。


意味がわからない。




頭が………うけつけない……






し ん じ ら れ な い











和葉さんが苦笑をし、


静かに続ける。




「――――――――最初は私達もそう、思いました。


きつく、拒絶もしました。



『信じられるか!』


『侍の言うことなど!』………とね。」




その時のことを思い出すように、


……大切なナニかを抱えもつように。




想いをこめて、話は続く。







「その幼い若様は何度でも来られました。


拒絶しても、罵っても。


そして、


こう……言われたのですよ。




『お前達を追いやったのはこの乱れた世の中だ』


『田を…畑を焼き親や子を奪ったのも世の無情だ』


『思わんか?――そんな世なぞクソだ。』


『奪い、殺し、虐げ、嘲笑い、踏みにじる。』


『誰もが疑わない、クソ溜めの様な世界だ。』


『力を貸せ。踏みにじられたお前達の力を。』


『踏みにじる為でなく、』


『世界を、天を改めるために。』


『世界がこれ以上、不幸を産み出さぬために』




――――そのように。」




――――――淡々と、


そう言われたはずの言葉は




ひどく……








重く、感じた。










「そうして、


今の私達はココにいます。


若様にご恩をかえすために。



………若様の願いを叶えるために。


夢中で己を磨きながら。」









――――――そうか、



この人たちはおいら達とおなじだったんだ。







ただひとつ、


違ったのは







この人たちには


拾い上げてくれた方が居たことだ。










いいなあ、




うらやましい。









「だから、同じ様に


引き上げられた貴方達も……必ず私達の様に、


私達以上になれますよ。


――――想いさえあれば。」








そっか、






いつの間にやら、



おいらもこの人たちと同じになったんだ。




そっか、






 な ら 、


負 け ら れ な い な あ 

村田家、村田屋の誕生秘話です。



藤吉郎くん、火がつく。


ただしそれは、


ケツにではなく、ハートに。



多分、ノッブ様に仕えた世界よりも。




マメ知識、きょうは無し。

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