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鵬、天を駈る  作者: 吉野
2章、『◯◯◯◯◯◯』
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第25話 村田の、夜更け

本日、掲載が遅れたため、キアイでもう一話。


ではどうぞ。

 肝がひえるような、


胃の腑がいたむような一時を過ぎ、


用意された部屋で几案(きあん)の上につぶれる。





勘弁してほしいわ。


からだがいくつあっても、おいらの身がもたん。







けど、そうか。



あれが、まことの一流のあきんどか………





おいらが目指したところ。



今思い返すとほんとうに


ぶるりと来る。






すげえ。


そう言うしかねぇ。





大橋さまも、真っ向からやりあう若様も。






おいらは


――――――全然だなあ。












 メシの時間、と呼ばれたので


食堂………というところへ向かう。




この食堂というのがまたスゴい。




うちの雁尾屋でも(まかな)いは出していた。



出していたが…………そいつはどうしても


―――有るもの、余ったものに成ってしまう。






おいらの所は中村の郷から集まったモノばかり。


みんなフトコロがさびしいから……



どうしても賄いは喰えればいい、その程度のメシと


なってしまう。










ココの食堂は違う。






『こいつぁ、今日は何のお祝いで?』





おいらが始めて食堂に来たセリフだ。



()()()()()()()()()殿()()()()()()




といわんばかりのメシが一食として、


当たり前の様にでてくる。



今日は何を食うか、


五つ程の中から――――それさえも選べるんだ。








 初めて喰ったとき、大喜びで掻き込んだ。



  次の日も喜んだとも。


けど、その次の日も出てきたとき思うてしもうた。











………………こいつは勝てん。





土台が、


根っこが



基礎の台所から





違いすぎるんだ。






おまけに数日に一度、オモテの屋台


―――――『七福神』でタダメシを取らしてくれる?







もう、何の冗談だ。





 後から聞いたが雁尾のみんなの所へも


届けてくれたらしい。




同じ旗の下に有るものには同じカマのメシを


食わせる責がある。




とのことだ。










ホントに、頭があがらん。









 どうしてこんな豪勢な、豪快なことができるかと


店の皆に聞いて回るとわかったことがある。





食堂のメシを作るための食材



コイツのために、それだけで店が開けるだけの数を


大量に買い付けることでかかる銭を抑えているんだ。






それはそうだ。


買い付けの数と手間が減れば銭は減らせる。


商いをすると分かることだが…………




分かることだが……









コレを店の衆を養うためだけにやってのける。




そのためだけに商いの組をひとつ、


作ってしまっている。







うつわがデカすぎる。







 もうひとつ、



わかったことがある。






朝からウマイめしを掻き込むと、


朝に、昼に、晩に―――




それだけで腹もココロも底から満たされる程食うと


有り合わせで作った粗末なメシを食うよりも………




やる気も、馬力も違ってくるんだ。





中村の郷のみんなから話をきいて、


自分のハラと相談して





――――痛いホドに思い知った。






満足にメシを食える、


そいつは………






なんて幸せなんだろう。









おいらはそんなこと、思ったこともなかった。





みんなを幸せにする、


みんなで幸せになりたいといっておきながら





そんなことも出来なかったんだ。


思い付きさえ、しなかった。








ただ、どうしようもないおいらの不甲斐なさに、


気がつけば若様に想いをぶちまけていた。








「お前さんに足らなかった所はまずはそこだ。



『知らなかった』。


知らないからできない、


知らないから間違っているとすら思わないのだよ。」





柿の葉っぱで作ったという茶をすすりながら


静かに言われた、その言葉に打ちのめされた。







「コイツだってそうであろう?


たかが柿の葉で茶が出来るとは思わなかったろう?


コイツが銭になるなどと。



――――――ならば、これから知ればいい。」



夜空を見上げるその姿に、


つられるように天を仰いだ。








  満 天 の 星 空




そんな風流な表現は後になって知った。


ちっぽけなキラキラが夜を埋め尽くす。


数えることもアホらしくなる様なかがやきの海を


見てると、




おいらも、


おいらの悩みもどうでもいい




そんなちっぽけなことに思えてくる。







ただ必死になって、


死に物狂いで働いて、




夜に天を見上げなくなったのはいつからだろう。


キレイだな、と思えなくなったのは。






「人は星の数ほどいる。


人が抱く幸せの数もまた、同様だ。



幸せなんぞ、知れば知るほどに


想えば想うほどに


湧いてくるのだよ。




ならばいくらでも知れば良い。


いくらでも幸せになればいい。





お前さんの願いはどこまでも果てしないぞ?」









おいらは死ぬまで、


この夜のキラキラを忘れないんだろうな







ただ、ぼんやりと、


 そ う 、 思 っ た 。

どうやら藤吉郎くん、社畜クラスの過重労働で、


余裕を完全に失っていた様子。


過度の空腹と労働は視野を狭めますよ?


という話でもある。




マメ知識




『胃の腑』



昔の臓器の概念である、


五臓[肝・心・脾・肺・腎]と


六腑[胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦]を指す。


胃は『腑』のカテゴリーに入る。


なお三焦という関係臓器は無い、とされる。


……だって『氣』の通る血管やリンパ系のこと(?)。


臓器ですらない。




『几案』



机案ともいう。テーブル、デスクのこと。


几で"つくえ"と読める。木製の几だから『机』。


そういえば、字のカタチがつくえに見えなくもない。


なお、訓読みで"ひじかけ"とも読める。


マジか。類似点が形しかないぞ?



『案』は、神社で神事などで使われている白木の台。


お祓いとかで玉串や御幣(ごへい)の置かれるアレ。


『案』を使う文化が神社くらいしか残らなかった。


大昔の机でこれも『つくえ』と訓読みで読める。


また、『(かんが)える』と読むことも。


連想ゲームかね?




『食堂』



コレ、大手外食系チェーン店で使われる


大量提供ノウハウを使ってるよね。


しかも定食オンリーで更に低コスト仕様に。


考えて見るといい。


基本的に超極貧が当たり前の戦国時代の農民に


特盛の定食なんてものを三食、食わせたら


そりゃ一発でコロリと堕ちるよね。

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