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鵬、天を駈る  作者: 吉野
8章、○○○○○
242/248

第242話 村田屋、とある一日(その八・後)




今回の"とある一日"は、前後ともに妙に難航。


頭の中のプロットと表記した文書とが、


何故か全然別の代物になるんですよね。


お陰で文章を書いた後に内容の再調整という


謎の作業をやる羽目に。



我ながら、『いや、何で?』って思います。




追伸:いつかこの『ズレ』を意図的に起こして


"文章で遊ぶ"みたいな執筆をしてみたい。


けどソレが出来るのは"壁を破った一流だけ"


なんだろうなぁ、と理解は出来てます。


・・・何となく、ですが?



のぞむ先は、遥か彼方かなた』ですねぇ。






――――何だ?


"お前自身も当事者だろう"?



……ああ、村田の店の事か?


いや、違うぞ。


そもそもの問題として、同じ商人の分類カテゴリー()でも


"彼等"と"私達"とは別区分だからな。



今現在、きそって清須の中央部(一等地)に進出を望む者たちは


いわゆる『新興層』と呼ばれる商人達。


今の好景気に上手く乗って富を築いた成功者達だ。








洋の東西を問わず、中世の商人(強欲な連中)はだいたい市場の


"寡占かせん"や"独占"を狙って出る釘を(新興商人を)打つ(潰そうとする)傾向にある。


だが尾張市場の最大手の一つである"村田"は、


モグラ叩き(起業家潰し)を行わないどころか反対に


『商材の共有と拡散による品質向上と多様化』


を望むという真逆の保護方針を取っている。


村田屋が傘下の店に"原材料を渡すが経営方針は


各店の創意工夫にゆだねる"という特殊なやり口(フランチャイズ)


っているのはそのためだな。


村田()が寡占・独占を嫌うのは、それによって


経済が動脈硬化(ガラパゴス化)を起こして弱体化するから。


他国からの商敵(強大な外来種)に勝てなくなるからである。





そういう訳で、尾張商圏は他の商圏に比べて


圧倒的に新興商人が多い。


だが彼等は、"成った"ばかり。


(チャンス)得て(つかんで)運良くイチから成り上がった彼等は、


その地位を固め安定させる(のし上がる)ために将来の国府(清須)


店を開いて尾張武家という新規固定客(後ろ楯)を得ようと


躍起やっきになっているワケだ。


清須の一等地を得る事が、己の隆盛を左右する


絶対不可欠条件であるからこそ。


沼地に立つ(建つ)かの如き不安定(地盤の弱さ)を自認するからこそ。




一方で、"生駒"やら"大橋"やら"村田"やら。


こういう連中は、別に焦らない。


ちまたで"尾張三大政商"なんぞと呼ばれる者達は


巨岩に立つ(建つ)かの如き安定性(確たる地盤)を自認している。


既に上層まで登りつめているからこそ。


"とどろく名声"と"うなる銭"、その何方どちらを振るえば(で宣伝すれば)


三等地どころか場末ばすえでもお客に困らない。



場所なんて別にどうでも、どこでもいい。





この"清須の商用地配布"というイベントで


一等地を渇望する者達が『起業家層』。


二等地を待望する者達が『中位商層』。


三等地を希望する者達が『上位商層』。


場末まで悠暢のんびりと待つのが『特位商層』。



いま大騒ぎしているのは、起業家層だね。


より商いのデカい者ほど、順番は後回し。


そもそも上位や特位の立場に在る商人達の場合、


既存の本店(己の持ち城)は規模も施設も他を圧倒するモノ。


然程さほどに距離の離れていない清須であるならば、


その需要は那古野の物流処能力だけで十分に


まかなう事も可能なのだ。


ならば清須店に総力をかける必要が無い。


況や(ましてや)店の(店の移転なぞ)移転をや(する意味も無い)、だ。


立場が上の方の商人にとってみれば、


政治のワシントンと商業のニューヨークの様に


『"政"と"商"とを分割しても別に良かろう?』


という意見も有るくらいだし?


"村田"の造る店に至っては営業所どころか


町外れの詰所レベルの予定だし。











――――と、まあ。


ここまで言えば大体わかるかと思うが、


この清須開発は"種も仕掛けもある(計画的に練られた)"ハナシだ。


基礎計画の前提として、"棲み分け"が在る。


新しい清須の町並みにのきつらねることになるのは、


起業家たち新興層が中心となるであろう。


歴史を観なくても分かるが、起業家と老舗とは


その性質・性格の違いから対立しがちだ。


―――――社会構造的に、というか本能的に。


同じ町中でギスギスとやり始める位なら、


"老舗層は那古野"へ"新興層は清須"へと


いっそ隔離した方がいいだろう。



コレは織田の政務連中と政商たちの合策。


つまり私は『インサイダーを仕掛ける』側だ。


文字通り、"その手には乗らん"よ?




…………………とはいえ、この体制は。


将来的に、清須と那古野との両派閥間で


苛烈な生存競争が()()()発生するのだがね。


ま、その辺は取り敢えず目をつぶろう。


どうせ問題の発露は50年は先のこと。


そこまで責任を持てるか。


今は多様性(可能性)の発露を優先すべき時だ。









ソレが武家であれ商人であれ寺社であれ、


新進気鋭の新興勢力と伝統的な古豪勢力とは


何処どこかで必ず激しい共喰いを始める』


という運命にあります。


中世においてコレを止める事は限りなく不可能。


絶対王政下の強権発動以外では多分ムリでしょう。



ということでヨソより新興商人が多い尾張では、


トラブル回避の為に最初から隔離政策を採ります。


ただし実際には"問題の先送り"にしかなりません。


いつか絶対に生存競争が勃発します。



秀貞にしてみれば戦国の混乱期に内部紛争とか、


『……やるなら政情が安定してからにしろよ』


と言いたいところ。


その後でなら勝手に争ってろ、という感じです。



なお、那古野→清須の街道を辿る距離ルートは約9km。






マメ知識




『"寡占"と"独占"』





"寡"は、"家屋"と"うれえる"とを合わせた字。


ここから、"夫を亡くした妻"という意味である


"やもめ"という訓読みが生まれ、その派生で


"すくない"という訓読みが作られた。


"寡占"とは、"少ない者で占有する"事。


"独占"は、"単独で占有する"ことである。


市場の占有は、競争原理が停止するために


価格の不当な値上げや品質の悪化などが起きる。


今の新規参入が極端に難しい日本の経済構造は、


ある意味で寡占に近い状態ともいえる。


(だからこそ大企業で検査偽造が横行する)




※"やもめ"は、"寡婦"と書くこともできる。


なお、"妻を亡くした夫"は"寡夫やもお"という。


(ジョークにしか聞こえないが、本当です)







『ガラパゴス化』




実はコレ、日本発祥のビジネス用語。


この語源は南米の国"エクアドル"の西方1000km


ほど先の太平洋にポツンと切り離された場所に


ある"ガラパゴス諸島"という群島。


"ダーウィンの進化論"のヒントになった事で有名。


大陸から物理的に完全断絶したガラパゴス諸島は


群島内だけで変化した独特な進化体系を持つ。


"ガラパゴス化"とは孤立した市場内で求められる


ニーズに特化・最適化した商品が、外部市場の同種


商品と完全に別物となり互換性を失う状態の事。


特に閉鎖的な日本市場でのことを指す。


この状態に至ると、商品機能や生産コストなどが


外部のソレと別物になるため競争力が激減する。



日本の"過剰すぎる超多機能性"を持つ電化製品が


外国製品との競争によく負ける理由がコレ。


必要以上に付けられた機能によりコスパ面が、


商品価格が高くなりすぎてしまうのである。







『場末』




正確には、"さかり場"の"末"端のこと。


つまり賑やかな繁華街のはじっこの寂れた所。


表通りから逸れた町外れ、という意味。


類義語に"陋巷ろうこう"という古風なモノもある。




※"陋"は、"狭い"とか"いやしい"なんて意味。


"狭い小路地"とか"狭く汚い町並み"とか、他には


"俗世間"などの表現となる。







『店舗の規模と権限』




当然だが、店舗全ての裁量権を持つのが"本店"。


店舗運営に独自裁量権を持つのが"支店"。


裁量権を持たず指示に従うだけなのが"営業所"。


"詰所"とは、寺社の門前町に在る定額宿泊施設や


建築現場の休憩所・警備員の待機場所などを指す。


概念上、コレは店舗ですらない。



秀貞の造ったこの"詰所"の扱いは、


"店舗営業をせず外部から注文を受け付けるだけ"


という施設となる。





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