第240話 対美濃内訌、その対応について
……ようやく出来た。
えらく遅くなってしまいました。
ホント、済みませんね。
論じるばかりでは、所詮は絵に描いた餅。
為さねば意味は無い。
既に荒れつつある1553年こと、天文23年。
美濃の親子喧嘩が尾張からでも視認出来る様に
なったのがだいたい4月ごろから。
ある程度、様子見をしてから3人と会って対策を
内密に相談したのが5月20日のこと。
そしてそれを三郎さまに報告したのが、6月3日。
―――当然の様に、大騒ぎになった。
斉藤道三は、尾張と美濃との婚姻同盟を決めた者。
尾張北方の安全を保証させている人物であり、
同時に三郎さまの身を保証する後見人でもある。
美濃にとって以上に、尾張にとっても重要人物だ。
その地位の安全が危ぶまれる。
以前から薄々ながら何となく察していたとはいえ、
今回の事で確定情報となった。
ソレは十分な問題だ。
那古野にて会合が開かれ、武家諸氏が城に集いて
膝を詰め喧々諤々の議論が交わされる事となった。
真っ先に当然の様に"みっつめ"は除外される。
まあ既定路線であるから理由も経緯も省略する。
という事で、この会合は"ひとつめ"と"ふたつめ"の
どちらを選ぶべきかが議題となった。
論も唾も拳も振り回され乍ら右往左往しつつ
長い長い話し合いの末に、ようやく決まった事。
『道三側勢力への力添え』
つまり"ふたつめ"の選択、その亜種だ。
コレが選ばれた理由としては、まあ単純。
"気を遣って道三親子の和解に骨を折る"よりも
"道三側に手を貸してさっさと勝たせる"方が
はるかに手っ取り早いからだ。
義理の父を目に見える形で手助けをするため
道義的にも三郎さまの心境的にも負担は軽く、
大っぴらに後押しができるのも良い。
なおこれには、此方の方が予算的に比較すると
安上がりで済むために自分達の取り分が増える
という国人たちのせこい思惑もある。
まあ安易に楽な方を選んだというある意味、
"短気で短絡的"という典型的な武家の悪い質が
出た感じではあるなぁ。
―――ではその内容を具体的に見てみよう。
本来の歴史と比較しながら。
史実では1554年の2月から3月辺り、この頃に
道三から息子の義龍へ守護代斎藤家の家督継承が
行われたとされている。
ただしこの継承には2つの説があるらしい。
父親から息子へのフツーの家督継承という説。
そして息子による政治的クーデターという説。
後の美濃の展開からみると、恐らくは後者。
戦国大名である道三の政治を嫌がった国人達が
以前までの守護大名体制を望んで息子殿を担いだ、
………というのが真相であろうな。
故にこそ、将来的に凡そ2700人対17500人という
6倍以上もの絶望的な戦力比となる。
この未来を妨げて道三勢力を勝たせるには、
彼等を大きく増強させなければならない。
よって尾張から表立って援助を行う。
直接的に、軍事的には手を貸さない。
間接的に、経済的に銭を以て。
―――その額、4000貫。
だいたい4億円から5億円くらいだね。
現代でもそうであるように、多数派工作において
最も凶悪な武器となるのが現金だ。
これだけの銭を叩き込めば、美濃の勢力図は
メチャクチャに引っ掻き回されるだろうよ。
特にそれを為すのが乱世の梟雄とまで呼ばれる
戦国屈指の謀略家、斎藤道三であるならば。
少なくとも、道三側が勝てば美濃は今まで通りの
尾張寄りの体制が続く事となる。
今はそれでいい、それだけでいい。
ただし、この方策にも欠点はある。
外交的に、公的に斎藤家勢力に手を貸した以上は
これ以後は公的に一色家勢力との敵対が確定する。
これより義龍側との暗闘が予想されるわけだ。
あえてこちらから大きく譲歩する必要も無いが、
済し崩しにグダグダのまま全面戦争に突入する
事だけは回避しなければならない。
外交的に難しい舵取りが要るだろうね。
――――ソレが気楽に、安直に選択した代償だ。
何事にも一長一短があるものさ。
…………………ということになったらしい。
いや、詳しくは知らんよ?
だって行ってないし。
そりゃあ、そうだろう?
そういう会合に参加するのは、主に家の当主だ。
行っても次代の後継ぎくらい。
余程の切羽詰まった緊急の事案でも無い限り、
四男の小僧に迄お鉢が回って来るワケが無いよな?
私が参加なぞ出来るはずもない。
当たり前の話だぞ?
―――だから態々"根回し"をしたのだ。
若輩連中を取り纏める立場にある若手のホープ。
長年に傅役として側に在り発言力の有る長老格。
どちらか一方だけの意見であるならば兎も角
その両方が会合にて同様の意志を発したならば、
その両者が揃って同じ意見に根回しをしたなら
その意向には一定の影響力が生じる。
議題とその結論に対して誘導が可能、という事。
意図的に、恣意的に望む向きに転がす事が。
………本当に、"根回し"は大事だね。
これはソレが特に顕著な日本だけではない。
派閥が有るかぎり、即ちヒトが群れる限りは
常に変わらぬ『世界共通』の事だよ。
…………文章が全然、纏まらない。
なんだろうね?
頭の中で思考と共にねり上げ構築したプロットと、
実際に文章化した内容が全然ちがうモノになる。
おかげで文章がアチコチにフラフラと迷走。
今回は特にソレが強く出ました。
『言語』がいまだ不十分で未完成なせいなのか。
『作者』が単に三下なだけなのか。
個人的な認識比率は2:8くらいです。
マメ知識
『一色家(義龍)勢力』
"一色家"は清和源氏たる"足利"一族の分家。
義龍の母"深芳野"の母方の祖父が一色家の者で
史実ではその一族の名を足利 義輝に許しを得て
道三の死後に名乗ることとなる。
これにより、父の"斎藤"との縁切りをはかった。
また、足利系の"一色"は"土岐"よりも家格が上。
"一色"を名乗る事で過去に美濃守護職であった
土岐家の権威を否定したとも。
なお、今は秀貞が内心で勝手に言ってるだけ。
『"切羽"が詰まる』
"切羽"とは、日本刀の部品。
刀の鍔の前後に取り付けて、鍔がガタつかない様に
固定するための装具である。
よって本来、刀の状態は切羽が"詰まっている"
(鍔が固定されて動かない)のが正常である。
この"切羽詰まる"という言葉だが、実のところ
コレは表現ミスか造語である可能性があるとか。
理由は、"切羽が詰まっても、刀は抜けるから"
言葉の意味が"切羽が引っ掛かって刀が抜けない"
つまり"追い詰められた絶体絶命の大ピンチ"
を意味しているのだが、実際には切羽がズレても
刀の抜き差しには何の影響も無い。
(詰まるなら、刀と鞘を固定させる鎺のはず)
正しく"切羽が詰まる"という状態であるならば、
むしろ刀身はよりスムーズに抜けるのだ。
"切羽が引っ掛かって刀が抜けない"というのは、
酷い整備不良の時か切羽の破損時だけだと思う。
一説では"切羽"という単語が"切迫"と似ており、
また"詰まる"という言葉が"追い詰められる"を
連想するために生み出された表現かも?
………とされている様だ。
※1:余談だが時代劇の効果音として刀を抜く時に
"チャキッ"と音が鳴るが、これは過剰な演出表現。
ちゃんと切羽が正しく"詰まっている"ときには、
この音は鳴らないそうだ。
もし刀を抜くときに"チャキッ"と鳴るとしたら、
それは各部品の固定が不完全な不良品だとか。
※2:"切羽詰まる"の語源が別にあるなら、
"切羽により鍔がガチガチに固定され動かない"
つまり"窮地に挟まれて身動きが取れない"
という方がアリだと思う。
『お鉢が回る』
この"お鉢"とは、昔の炊いたご飯を入れて保存する
容器である"お櫃"のこと。
食事の時に人数が多い場合、ご飯が入ったお櫃が
自分の所まで回ってくるのが非常に遅くなる。
意味としては、"順番が回ってくる"こと。
もしくは、"ヨソから回されてくる"こと。
ネガティブな使われ方をされることもあるが、
本当はとてもありがたいハナシである。
※またしても余談だが、ご飯を木のお櫃に入れて
保存すると常温でも2日ほど保存できる。
また、タッパーなどより"おいしく"保存できる。
(材質の木がご飯の水分調節をしてくれて、
冷めてもべとつかずにふっくらとなるそうな)
『根回し』
"根っこを回すって、何やねん?"
と思うかも知れないが、実はコレは園芸用語。
庭木などの樹木の植え替えを見た事のある方なら
分かるかも知れませんが、樹木を移動させる時は
根の部分をある程度のサイズで大きく掘り出し
布で土ごと丸く包んでヒモで縛り固定する。
この一連の作業の事を、"根回し"という。
("根"っこに布をグルグル"回し"て巻く)
コレを上手くやらないと移植先で木が枯れる為、
園芸における重要な事前準備作業である。
ここから、交渉や会議などで事が上手く進む様に
前もって関係者に話をつけておくことを指す。




