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鵬、天を駈る  作者: 吉野
2章、『◯◯◯◯◯◯』
23/248

第23話 藤吉郎くん、村田屋デビュー(後編)

うへぇ………、


やけに長くなってしまった。



では、後編です。




「あのう………………」



 おそるおそる、のれんをくぐる。







店の中では数人のお客と


彼らを対面で相手する店の者、



それから品物を整えたり手ぬぐいで店の中をふく


何人かがおった。







みな、同じそろいの着物をきておる。








「ぃらっしゃいませ!!!」



客に対応しておらん者達が、


一斉に声をあげ、頭をさげる。



思わずギョッとして後ずさった。









「ようこそいらっしゃいました。


何をお求めで?」




 近くにいた若いのがニコニコと歩いてくる。



買いに来たわけでないので気まずくなって、


ふところから若様から預かった文をあわてて出す。










「すんません、


村井の若様にこれを持ってここへ行くように


言われたんですが……………」




困り顔でにおいらが差し出した文を見て、


ちょっとだけ不思議そうな顔をされた。








そして、



「――――かしこまりました。


では、お預かりさせて頂きます。


……(しば)し、御待ち頂けますか?」









両手でていねいに受け取ったあと、


あたまを下げた。













すげえな。



店の衆が、なんというか…………


どう言ったらいいんだろ……









()()()()()()()



みんなしっかりとした、丁寧な話し方をしとる。


そして――――みんな笑顔。











ウチの店とは大違いだ。


恥ずかしくなってくる。









「藤吉郎さん、でしたか?



文は見ました。


……………簡単にしか説明が有りませんでしたがね。



中でお話をお伺いしてもよろしいですか?」





番頭さん、だろうか?



結構若い方が中へと案内してくれる。


こっちも頭をさげて後につづいた。









「―――――――と、いう具合です。


おいらは、若様に買われたんです。」







 新しい働き場で不平を言うわけにも


いかんので、やんわりと事の流れを話した。







このひとはおいらの上になるんだろうか。









「……………ほほう。


藤吉郎さんは、よほど優秀なのですね。」







番頭さん


――――源二さん……と名乗られた方が、


あごをなでながら


ひどく感心した風に言う。








…………?



どういうことだ?









「今まで若に拾われた者も、引き込まれた者も


おりますが…………



若がその様に()()()()()()()()()()()()()()者は


居ないのですよ。」




そういって、目をほそめながら言われた。







おいらは、若様に…………


評価……されている?











しばらくすると、若様が帰ってこられた。


店の衆のひとりが呼びにくる。







「それで………………


おいらは、これからどうしたらいいですか?」







おそらく、若様のお部屋か?



ちいさいながらもひどく落ち着いた部屋で、


 若様にたずねる。




………………これからまた、1からのやり直しだ。






若様に見捨てられんよう頑張らんと。








「ふむ。


()ずは村田のやり方に、


慣れてもらうところから…………だな。



まあ色々詰め込むようになるが


その辺りは我慢してもらおう。





それから、君の『雁尾』の店にはこちらから


人を送る。


それらに手管(てくだ)を教えるように伝えておいてくれ。



『雁尾屋』はその事業を大幅に拡大させるぞ。」






上座にゆったりとすわった若様が扇を手に


そう、口にされた。









 ?!




どういう?



雁尾屋をおおきくする?








「―――――――――え?


あの?


雁尾の店は取り潰しになるんでは?」





思わす聞き直す。



一万貫でおいらをしばって、


いいように使うんでないのか?










そのつもりでここまで来たんだ。












若様がひとつ、ためいきをつかれる。




「…………どうも何やら勘違いをしている様だな。




報告は聞いている。


『雁皮』が村井の領地で奨励されたのを聞き付け、


家族や近所の者を()き付けて



苗の収集や、育成の研究を始め、


店を建てる程の稼ぎを得たと。」







どうやら、おいらの店のなりたちを


調べられたようだ。








 義理のおやじに嫌われ……うちは貧しく、





村井の領地のうわさを聞きつけて



成り上がるためにみんなと一緒に懸命に


がんばった。









生憎(あいにく)と、我等はそういった


技術に(とぼ)しくてな。


他のものに頼むしか手が無かった。



………………君らの積み重ねたモノがあるなら、


より試みは確実となる。




潰しなぞせんよ。


むしろ今よりも忙しくなるぞ。」








ありがてえ。



おいらの店を残してくれるんか。







おいらたちのがんばりを、


認めてくれるんか。










「藤吉郎君、


君が店を建てた時に願ったことは何だ?



想ったことは。」









おいらが



…………………願った……こと?








貧しいのはイヤだ。




おやじにいたぶられるのはイヤだ。





今よりいいくらしをしたい。





おっかあに、


よくしてくれる村のみんなに……お礼をしたい。











「………………………みんなで


……しあわせになりたい。」









それが、



―――――――おいらの願い。













「………であるなら、


立ち止まっているヒマなぞ無いぞ。




確か―――――中村の郷であったな。


………買い取っておく。


雁皮の苗の生産・育成の拠点にしよう。


………他ならぬ、


君自身の手でな。」










村を…………………買い取る?


村で雁皮を育てる?





みんなで、がんばれる?












「まずは、君の願いを


見事に果たすところからはじめるといい。


中村の郷を尾張いちの村にするところからな。




………………君の始まりは、


―――――――そこからだ。」











かなわないなあ……………




藤吉郎くん、


どうも借金奴隷か何かと勘違いしていた模様。



むしろ村田の中でも


良くも悪くも、かなりの特別待遇。





マメ知識




『動きがキレイ』



どうやらデパートや高級ブティックの店員の


教育・接客マニュアルあたりを使っている模様。


こんなモノを戦国時代で比較すると、


大阪、堺の豪商ですらも


当たり前のように見劣りする。





『中村の郷の藤吉郎』



ここまでくればもう確定。


戦国時代の『 Great One 』のあの人。


彼が家出をするのが15歳。


現在12歳ごろで、


まだ史実の彼のように世間に揉まれてないため


そこまでスレてはいない。


かれの行動が史実と異なるのは、


ぶっちゃけ主人公のせい。


雁皮の政策からのバタフライエフェクトによる。


藤吉郎くんの言動に漢字が少ないのは、


まだ主人公ほど教育レベルが高くないため。

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