第22話 藤吉郎くん、村田屋デビュー(前編)
一方、主人公とわかれた藤吉郎くんは?
――――――――どうも…
おいら、藤吉郎といいます。
知ってるかも知れないですが尾張で
『雁尾屋』というちっぽけな店を営んどります。
今回、織田さまよりあきないのお触れがあったので
これは狙い時だと参加しました。
話をされたのは、村井というところの若様………
若様?
……と言うべきか?……ちっこい坊でした。
あきないの話がある、とのお話だったのですが
えらくふてぶてしい様子で
『銭だけ出せ。』
といっておりました。
とは言うものの、この若様―――
違うんです。
目がタカの様なんです。
細めたその目が
高い所からウサギをにらむような眼を
しておるんです。
そいつは、あきんどをバカにしてる
お侍さまの目ではない。
おいらは、話を聞こうと思いました。
お話は那古野の町に大きな道をつくる、
普請を行うというものでした。
けども……普段とちがうのは
『あきんどが銭をだす』こと、
そして
『より銭を出せばおいら達の好きにできる』
ということ。
でも3000貫よりおおく出さんとならんです。
おいらは、一世一代のかけに出ることにしました。
だけども…………おいらは賭けに負けて
ここにおります。
――――なにが悪かったのか………
若様に目をつけられてしまい、
一万貫もの借金を押し付けられたんです。
よかったのか、わるかったのか?
若様が肩代わりをして、
むりな取り立てはせんと言っておりました。
おいらと、雁尾の店は『むらた』という店に
食われてしもうたんです。
「ええと……………
たしか案内板ではこっちの裏道のほうだと………」
―――――――裏道のほう。
なんで裏道の奥へ店を構えておっきくできるんだろ?
繁盛しづらいだろうに。
何か急に、道が広く……大きくなる。
『むらた』の店は右のほう。
けども大きな道は………左の、町の入り口のほうにも
延びている。
……………そうか!
店を大通りに置くように、
『店を町にあわせた』のではない。
『町を、店にあわせた』んだ………………!!!
―――――とんでもねぇ………!!
右へまがって少し歩くと
『むらた』の店が見えてきた。
たいそうに大きな店構え。
店の敷地はとても広く、きれいに刈り込まれた
生け垣をめぐらせてる。
店の前では何人かの呼び込み。
どうも今日のおすすめや目玉商品を声高らかに
宣伝しておるよう。
店の入り口まわりには、
鮮やかに描かれた品物の絵を何枚も軒から
ぶらさげていて、
外からもとてもわかりやすく
………つい店をくぐりたくなる。
なにより、色とりどりのキレイな紙や布切れで
飾り立てたヒモを店の入り口から左右に延ばし、
店先はたくさんの花や飾りでキラキラと。
なにやらお祭りのような華やかさだ。
まわりにはめし屋に小袖や羽織を売る店、
金物屋に材木屋、
大工に雑貨屋…………芝居小屋まである……!
まいったなあ……………
ここは裏通りのはずなのに
―――――『なんだって揃う』でないか……!
結構、書き出しに迷いました。
いやいや、
なんで勝手に都市計画レベルなことやってんの?
主人公………。
どうやら熱田の町外の行商相手の新規の総合商社
として機能させ、既存の商家と差別化を
している様子。
マメ知識
『普請』
この時代は全般的に工事のことをさす。
とはいえ、当時の普請は強制労働の類
であり、材料費ぐらいしか予算として計上しない。
『銭○○貫』
今更感があるがご説明。
当時の銭は大陸『明』の"永楽通宝"を
利用していた。
この貨幣は真ん中に四角の穴が空いており、
ここに紐を通してまとめておく。
これを1000枚をワンセットにして、
これが『一貫』。
一般的には、
推定で10万円から15万円くらいといわれている。
『町を店に合わせた』
裏道は基本、不動産の価格が安くなりがち。
コイツを買い占めて、
『第二のメインストリート』を造り上げた。
ついでに商家を買い叩き、新メインストリート通りの
商家の大地主と化している。
なお、こちらからも熱田神宮への直通ルートあり。
『なんだって揃う』
それ、なんてショッピングモール?




