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鵬、天を駈る  作者: 吉野
7章、『○○○○○○○○』
203/248

第197話 厄介系イベ、準備進行中




ちょっとした脱線(?)。


チマチマとした政経的な小競り合いのはなしです。








――――そんなこんなで時も経ち、2月も下旬。



恐ろしいまでに老人や子供が軽々しくバタバタと


死んで()く悪夢の様な冬も(ようや)く去りつつ。


漸く暖かくなりつつある中で、


今回の会見の設営は順調に進みつつある。



………ピリッピリしている裏方を尻目に。





はるか未来においては"跡地"となっているが、


現在の正徳寺は木曽川の川沿いにある。


斎藤と織田の国境近辺だ。


今回の一件にあたって唐突に当事者として


指名されてしまったこの寺だが。



もともとお寺はその中立的立場からこういった


会見・会談の場所として使用されがちである。


しかし使用するからには返礼が必要となる。


至極当然のことだ。


斎藤方は分かりやすく銭を寄進していたが、


当方は"ちょっとした豪速球"を投げておいた。



客殿(きゃくでん)』の新築。


当日に会見の場となる正徳寺の客間を、


根こそぎ新しく造り直したということだ。


更にオマケとばかりに『講堂』も新しく追加した。



これらはお寺さんにとっては本堂・金堂と共に


衆目(しゅうもく)(さら)される"顔"のひとつ。


額面通りに『面目を施す』行為となるから


下手に銭や品を寄進するよりも喜ばれる。


そうして正徳寺側の好感度が上がれば、


織田側からの多少の無理も聞き入れられる。



其は当日の予定に向けて、動き易くなるという事。





……………これもまた、外交だよ。


まずはひとつ、一手先んじたワケだ。



斎藤の交渉方が唖然とするのを尻目にね。







ややピリついている政治関係はさておき、


民間での美濃と尾張の関係は順調である。



"美濃大市"は相変わらずの大盛況。


参加する店は増加に増加を重ねている状態である。


第六回となった本年度年始の大市は


商人や使用人達のほかに警備や荷運びに


彼らと商うメシ屋など多くの者が参加しており


合計で34000人近くが集まったとか。


かなり凄まじい大盛況だ。


美濃大市は三ヶ月に一度の開催のために、


一回で集まる商いの規模が巨大になるのだ。


そして其処に集まる期待や注目もまた同様に。



結果として第一回大市にて


『100を超える店を出し15000貫を稼いだ上で


斎藤家に1(ひき)しか払わない』という


商人として超一級の離れ業をやってのけた村田屋は


美濃商人達の心に激しく印象付けられたワケだ。


濃尾屈指の()り手商人として。



……………で、こういう使える『裏技』は


往々にして模倣されやすい。


第一回にて村田屋に"してやられた"斎藤側は、


第三回辺りからその手口を多数の商人に真似(パク)られて


その儲け(ショバ代)を落としてしまった。


その対策として第五回において斎藤(運営)側は、


『イチ商家ではなく開いた店の数につき1疋』


という課税手段に変更した。


大市に出店した店の数×1疋の計算手法である。


コレについては余り文句は出なかった。


商人側にもズルをした自覚があるためであろう。


"まあ、仕方ないか"という意見で流された。



……………で、噂の第五回。


()()手法を潰された村田(ヤツラ)如何(いか)に?


―――と、注目されていた当の村田屋は。



ひとつとして


『各店先への出前能力(スキル)を持つ超巨大フードコート』


フードコートは村田系飲食店だけではなく


事前に審査した優良商いを行う店を誘っての


複数店舗による共同事業。


会場内にそれぞれの屋号の(のぼり)を並べ飾った、


たいへんに華やかなシロモノである。


ひとつの会場で数多くの店の味を楽しめ、


更に店先まで出前もしてくれるとあって


かなりの大人気となった。


(カマド)も注文も受け渡しも1ヵ所で行われる。


つまり()()()()()である。


故に1疋の支払いだ。



ひとつとして


(イチ)区画の建物を全連結させた特大サイズの旅籠(はたご)


コレは徴税手法の変更を最初から読んでいた


村田(コチラ)の作戦勝ちである。


当初から高級仕様の旅籠を大型の一区画に


集中・密集させて建設させておいたのだ。


コレは村田だけではなく、美濃・尾張の旅籠との


事前協議による協同設営。


(事前談合とも言う)


変更がなければそのまま運営すればいい。


課税の変更があったなら其に応じて(のき)の連結と、


一画を垣根でグルリと囲ってしまう。


客はお好みの宿・お好みの部屋を選べば良い。


ただし窓口はあくまでもひとつ。


つまり(おお)きな()()()()()()であり。


故に1疋で済む。



ひとつとして


『警備員派遣型による単一店舗の警備サービス』


コレは李部システムの亜種の様なものである。


実際に人員派遣は李部を通して派遣される。


大市参加予定の各店に事前に通知しておき、


当日に警備人員を派遣する形態だ。


この営業システムが特殊なのは、


警備人員に"等級"を付けたこと。


ただ数だけが頼りの低ランクから、


警備の大将として武家が配置される高ランクまで。


品質に差をつける事でクオリティに差をつけた、


ということである。


………武家の者が良くそんな依頼を受けたな?


武家でもその四男・五男ともなると、


家督継承の予備としてすら必要が無い


扱いが雑な"冷飯(ヒヤメシ)喰らい"呼ばわりとなる。


彼らにとって、現金収入の(あて)は大歓迎なのだよ。


こちらとしても李部傭兵の幹部候補として


将来的に登用したい人員でもあるから、


双方に益のある"取っ掛かり"である。


コレもひとつの窓口で行われる。


故に課税は1疋のみ。



ひとつとして


『大型オークション()()の運営』


そもそもの村田屋(うち)の主力のひとつは、


南方貿易で取り寄せた名品・珍品の数々。


こういう貴重品は()り、つまりオークションでこそ


最も利益率が高くなるものである。


ならば、最初から競りを仕切ればいいだけの話。


村田のみだけでも、十分過ぎるほど儲けは取れる。


其に他の店からも参加を募り出品数を増やせば


オークションは更に盛り上がる。


彼方(アチラ)は高値で売れてウハウハ、


此方(コチラ)も売上プラス運営費も取れウハウハである。


故に当然これも一店舗であり、1疋である。





以上、村田屋の出店は四つ。


つまり、村田屋は(わず)か4疋で済ませてみせた。


完全に斎藤(運営)を出し抜いて()せた。




一同、茫然(ボーゼン)の有り様である。



(コレ)により村田屋は初回限りの(マグ)れ当たりでなく、


『本物である』と美濃は井ノ口商人に


心底から認められる事となった。


美濃進出は順調である。







中部地方で長年続けられている美濃大市。

この美濃大市の風物詩のひとつとして

挙げられているのが『村田の智慧比べ』である。


(コレ)は大市開設当初から行われていた

"村田屋の運営費支払いの誤魔化し行為"のこと。

この一件が有名な理由のひとつとして、

行われる"誤魔化し行為"がルール違反で無いこと。

むしろルールの隙間を掻い潜って、

正面突破してみせることである。

そしてもうひとつの理由が、

"誤魔化し行為の為に明らかに運営費を払うよりも

多額の銭を使っている"ことである。

つまり歴々の村田屋にとって"誤魔化し行為"は

"目的"でなく"手段"でしかないのだ。


『権力者の意向を正面からすり抜ける』という

この村田屋の行いはたいへんに痛快なモノ。

美濃大市において愉快な見世物として有名となり

商人達はひどく面白がり注目の的であったという。


後にこの運営側と村田屋側との(せめ)ぎ合いは、

狂言や読み物として面白おかしく滑稽に

描かれることとなる。

現在でもこの"意地の張り合い"は、

美濃大市の名物のひとつである。









裏で緊張状態が続く政治関係。


相手がヘビ殿ですから仕方なし。



他方で民間では呑気なモノ。


表向きには特に問題は起きてませんから、


美濃大市にて大きな交流が行われています。


(基本的には美濃・尾張間の国を跨いだ


大規模な商業交流はコレのみ。


個々の商業進出は推奨されてはおりません。)



・・・で、その美濃大市。


なんとなく斎藤と村田の知恵比べみたいな


イベントになっています。


当時の商人としても"権力者の鼻を明かす"


というのはひどく笑えるハナシですから、


傍観者として面白がって観てたりします。



と、言いますかコレって。


イベント化させる事による話題作りなんですよね。


超大規模な企業CMといえる行為です。


秀貞としては赤字上等のお遊び同然の行い。


それでも黒字を勝ち取るのは流石というか。





※この『ルール変更』は大市が終わった直後に


"次回のルール"として発表されます。


そうでないと"勝負"にならないし、


直前だと辞退者が続出することになるから。


逆に運営側の大ダメージになるんですよ。





なお、念のためですが。


1貫は銭1000ケを紐でまとめたワンセットで、


1疋は銭100ケのワンセットです。


つまり1疋=10000円から15000円ほど。


商業イベント参加費としては妥当ですね。


多数出店すると少し割高になりますが。






マメ知識





『老人・子供が軽々しく死んで逝く』




家屋の製作技術の関係上、


そして中で火を使うという関係上において


当時の家屋には"気密"と言うものが存在しない。


つまり隙間風がピューピューと入り放題であった。


しかも当時は小氷河期。


冬になると気温も室温も氷点下など簡単に下回る。


更に当時はまだ布団が存在しないため、


人間にとっては破滅的な睡眠環境となる。


まだ体調保持能力の低い乳飲(ちの)み子が朝になったら、


冷たくなっていたなんて話がよくあったらしい。


当時の幼児の死亡率は絶望的なほどに高かった。


乳幼児だけでも30%近く。


幼児全体ではなんと脅威の50%近くにもなる。


そして体力の衰えた老人もまた同様に。



幼児(おさなご)がいとも簡単に神の元へ還ってしまうという


"七歳までは神のうち"という(ムゴ)い概念があるのは


そこまで子供が簡単に死んでいたため。


また七五三を盛大に祝うのは"生き残った"祝い。


そこまで生きてくれたという喜びゆえである。






『正徳寺"跡地"』




"この正徳寺"は現存していない。


愛知県一宮市冨田大堀413-5に"跡地"がある。


今は聖徳寺と名を変えて、名古屋市にあります。


(愛知県名古屋市天白区八事山552)



なぜかは知らないがあちこちに移転しているお寺。



……で調べてたらココは"真宗大谷派"。


ああ成る程、理由は一向衆だからか。


移転"させられた"のだろうなぁ。





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