第194話 美濃国、国外事情(最新)
続いては美濃。
軍事婚姻同盟中の美濃国です。
原則として美濃とは100%戦争が起こりません。
……余程に悪質なルール違反が行われない限り。
美濃国。
その語源は三野国とも云われる。
青野・大野・各務野という三つの"野"から
来ているとか。
ホントかどうかは解らない。
ルーツとしてはちょっと無理矢理すぎるかも、
等と思わなくもないし。
現在の主は"ヘビ殿"こと斎藤道三。
最初から最後まで徹底した下克上によって
下っ端から国主まで成り上がりきったという
日本国内でもひどく珍しい経歴を持つ。
こちらの藤吉郎が武家にならない以上は、
いずれは彼が日本一の出世頭と呼ばれるかもね。
ともかく、国のトップが究極の下克上体現者の
美濃は必然として超級の"実力主義の国"と化す。
今のかの地は家柄だけでは食っていけないワケだ。
キチンとした実力と結果が必要となる。
然もなくば、即リストラの危険性。
――――他人事だが、少し大変だとも思うよ?
現在の美濃斎藤家は尾張織田家と
婚姻同盟を結ぶ縁戚関係である。
一応、軍事的安全保障条約を結ぶ関係と言える。
…………コレに『一応』と付いてしまうのが、
ヘビ殿のヒトとしての信用の無さというべきか。
日頃の行いの業の深さというべきか。
同盟がある為に美濃対策は軍事・政治ではなく
商業関係がメインとなる。
美濃と尾張とは上層部の同盟に託つけて、
"美濃大市"を始めとした民間レベルの
各種商業交流を行っている。
コレは逆に言うなら尾張商圏の資本が次々に
美濃へと投入されている、という意味でもある。
………あ、資本投入といってもだな。
流石に企業買収まではさせてないぞ。
ソレをやるとヘビ殿にバレる恐れがあるからな。
あのヒト、元ベンチャー系やり手商人だから。
村田系は一般的な投資からは
ややズレた所に資金を流している。
美濃にはまだまだ掘り出す資源が有るからな。
美濃東部の美濃焼とか。
木曽川から送られてくる高ランク木材とか。
関の鍛冶衆とか。
美濃の狙い目は、紙だけではない。
美濃焼についてはまだ本格的には始まっていない。
コレを本格始動させるのが未来の信長だから。
つまりまだ無名の地であり投資の投げ放題。
現在でも焼物研究の基礎は出来ているから、
後は発展させるために人財と資材とを
大量に投下するだけである。
史実通りに、瀬戸から陶工を引っ張って来て。
ボロ儲けの気配、マシマシである。
木曽のブランド木材は古来から有名なモノ。
既にある程度の商業シェアが固着している。
ならばソコへ無理矢理に喰い込むのは愚策。
その先は血塗ろの潰し合いにしかならない。
既存の流通ルートを使用した方が楽というものだ。
ならば何処へ目を付けるか。
木材の流通機能そのものである。
この場合は木曽川などの河川運搬業者だ。
当たり前だが流通にも利権が存在する。
この利権に対して大金を叩き込んで、
流通能力の大幅拡充と共に恩を高く売る。
流通能力が大きくなれば木材単価は下がる。
ある種の価格破壊が可能となるのだ。
下手に既存利権とやりあうより安上がりだよ。
同時にこの大量投資は、流通利権全体に対して
大きな恩を売れる。
何かの折に、協力を得られやすくなる。
ホラ、何処ぞの"カワナミ"の"ハチスカさん"とか。
楽して得られる一石二鳥だ。
関の刀鍛冶。
現在でも有名な刀工の一派である。
ココも投資の投げどころだ。
……………が。
重要な戦略物資である鉄を扱う彼等は、
当然ながら権力者の厳重な統制下に在る。
歴史if小説で近江国友から鍛冶衆を引き抜く
という描写がよく有るが、
実はコレはとんでもなく厳しい話なのだ。
そういう小説って情報流出を極端に恐れるだろう?
…………ソレを相手がしないとでも?
種子島銃って、近未来系のチート武器だぞ?
情報・技術の統制は絶対にするだろうが。
―――つまりはそういう事である。
権力によるゴリ押しや銭によるゴリ押し、
もしくは密かな亡命という手段をとらない限り
鍛冶衆の移籍は実際には至難である。
相手が堺でも国友でも根来でも雑賀でも、
結局のところその難易度は変わらない。
ならどうする?
コレも木材と同じだ。
砂鉄だの木炭だのといった"原材料"の供給を
一気に増加させてやればいい。
"分母"が増えれば"分子"も増える。
他所へ売り飛ばす"お零れ"も増えるという事。
生産量を増加させたという恩を盾にね。
そして量産技術が上がれば単価は下がる。
少ないパイの奪い合いをするよりも、
既存のパイの生産量を増やす方が建設的だろう?
無論、既存の商いである紙へも投資している。
紙のシェア奪取ではなく、雁皮の増加に。
雁尾屋の働き所だな。
ヒトと同じ事をやってたのでは、
勝負は簡単には勝てぬよ。
未発見・未開発の原野こそ、真の富の在処だ。
フロンティアスピリット……ってな。
―――――――うむ?
緊急の報告?
………ヘビ殿が三郎さまに面会したい?
『正徳寺の会見』か!?
商売って、『パイ』の奪い合いをするよりも
『パイ』全体の生産量の拡大を狙う方が
案外に楽だったりします。
『パイ』の数が増えれば値段も下がるし
『パイ』を手にするチャンスも増えますし。
もしくは、新しい『パイ』を創るとかね。
まあ、簡単に言ってますが
ソレがとても大変な事なんですが。
マメ知識
『道三のベンチャー系商売』
斎藤道三は成り上がりのスタートが
油売りの行商人であったとか。
当時の名前は山崎屋の松波庄五郎。
その商法がブッ飛んでいて、
油の受け渡しに漏斗を使わず
しかも数ミリほどの銭の穴を通すという
いわゆる曲芸型パフォーマンス系街頭販売。
しかも失敗したらタダで良いですよ?
というギャンブル要素付き。
そりゃ、人気とか知名度とか上がるわ。
結果として、かなりバカ売れしたらしい。
ホンマモンのベンチャー野郎である。
『木曽木材の流通手段』
基本は全て"イカダを使った川下り"となる。
材木を多数に繋げてそれを舟として代用する手段。
ソレが陸上輸送よりもはるかに簡単だからである。
同様に紀伊の木材輸送も河川を利用している。
木材って、水上輸送が圧倒的に多いんだよ。
………トラックが造られるまでは。
『日本国内の製鉄事情』
戦国時代の日本の製鉄は"たたら製鉄"。
砂鉄を原材料とする製法である。
しかし砂鉄であるために材料を集めるのが
すさまじく大変であり。
だから日本の鉄の生産量はすごく少ない。
ゆえに鉄が戦略物資として扱われる。
これが火縄銃の原価を更に高める要因でもある。
量産初期である当時の火縄銃の流通価格は、
下手すると1挺が1億円前後にもなる超高級品。
(時代と共に量産技術が向上して安くなる)




