第19話 熱田、雀大路構想
計画がまとまります。
まとまりますが…………
「……………まだまだ商いを初めて間もないのに、
随分と羽振りがよいですなぁ。
…………村井様より銭をお預かりましましたか?」
しばらく固まっていた8人だったが、生駒様が
辛うじて再起動される。
いくらなんでも小僧にしては金回りが
良すぎるからな。
肖れるものならあやかりたいだろう。
「おお、そういえば言い忘れておりました。
少し前より織田弾正忠家の方で『金貸し』をする
ことが決まりました。
まあ一応、那古屋の方で審査はありますが……
一口が1000貫、どこぞの土倉よりも
はるかに安い利子を設定しておりますよ。」
無論、織田のヒモをくくりつけられることに
なるのだがね。
その気があるならどうぞ。
こっちはヒモとか関係ないからね。
むしろヒモを握る側だ。
ああ、そうだよ。
この勝負――――
完全な、後出しのイカサマだ。
どうやらこの話をつつくのは、あきらめた様だ。
………銭の工面が容易くなるのはいいが、
簡単にヒモ付きになる気はないらしい。
監視や管理が入るとはいえ、
優先的に商談が入るのだ。
御用商人に準ずる立場が簡単に手に入るのだがね。
話は金額へと流れる。
生駒様5500貫、
庄兵衛様5200貫、
他の方々がおよそ4000~5000貫ほど
出すようだ。
ここまでで40000貫ほどの資金になったワケだが…
さて?
あとは
「あの!
銭を借りること、
申し込んでもええですか?!」
8人の中で最後のひとりが、
やや思い詰めた様な顔で声をあげた。
そう、こいつ。
「それは構いませんよ?
どれほど借りますか?」
ひとまずは内容を確認する。
わざわざ自分から紐付きになる理由は?
「はい!
5口、5000貫お借りします。
そしてこれと合わせて7000貫出させて頂きます!!」
絶 句 。
生駒様、庄兵衛様も唖然としている。
余りに高額過ぎる借金をした上に、
それを手持ちごと根こそぎ叩き込む。
まさかここまでの全賭けをしてくるとは
思ってもみなかったろう。
「……………そういえばお初になりますかな?
村井家、妙見丸と申します。
お名前を頂いても?」
そう、この小僧。
いまだ幼い顔つきの少年だ。
人のことは言えないとはいえ、
『元服するかどうかの子供がここに居る』
ことがどれほどおかしいことか。
そして……………
話を聞いて、私の人となりを知らないまま
帰らなかった唯一のひとりである。
こいつ、何だ?
「へぇ、『雁尾屋』の藤吉郎と申します!」
是 非 も 無 し 。
「一万貫貸します。
これで藤吉郎さまを代表としましょう。
皆の意見を聞きつつ、完成をさせる様に
藤吉郎さまに命じます。」
唐突に決まった流れに、
生駒様、庄兵衛様も半ば置いて行かれる。
一万貫を押し付けられた藤吉郎さまも。
「それぞれの店は連絡係と相談役をかねて、
腕の立つ者を一人ずつ付けておいて下さい。
先ずは原案を造りましょう。
もう一度会合を開きますので、
また使者を送らせていただきます。」
さて、
如何様な物が出来るか…………
楽しみなことだ。
今回は完全に話が食われます。
大迷走でした。
マメ知識
『土倉』
当時の金貸し。
主に比叡山などの寺がやっているのが有名。
ただし、この時代の金貸しは
ヤミ金も真っ青の超高金利。
『ヒモをくくりつけられる』
いってみれば、現代で会社の自社株を
大量に買われる様なもの。
織田家に経営の干渉をされやすくなる。
『5000貫借りて、7000貫投入』
たとえ織田の下請けになってでも、
決死でチャンスに喰らい付く。
失敗すれば即死が確定。
大きな店を持つからこそ生駒や庄兵衛は
その狂気の覚悟にドン引きした。
そして主人公も………
名も知れぬその小僧に興味を持つ。
『藤吉郎』
前回の話を書いている途中で、いきなりコイツが
構想の中に『乱入』してきた。
いつかは出す予定だったが…………
ここで出す予定はなかった。
おかげでストーリーは大混乱。
作者も大パニック。
話は二つに分裂し、バタバタしながら
この話がようやく完成。




