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鵬、天を駈る  作者: 吉野
7章、『○○○○○○○○』
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第184話 熊野地方、商業・外交報告書



七福詣で、ですが。



ぶっちゃけ熊野三山はよその領地です。


紀伊は『畠山』配下の堀内家が治めています。




ですからココを巻き込むためには


事前交渉が必要となります。



………という話。









―――――――――ふうむ。



今は少し前に届いた竹簡の束を確認中。



コレは熊野堀内氏と熊野水軍、そしてその周辺の


土侍たちに派遣していた


村田系商人(通常)および村田系商人(伊賀)らの


業務報告書ということになる。




当たり前だが村井・村田ラインによる


単独交渉ではない。


交渉方針などは全部上に報告と認識共有を


充分に行った末でのモノである。



故に()()()()()では問題ナシ。






熊野あたりに縄張りを持つ堀内氏との交渉は順調。



この地を治める彼らは畠山家の所属系列にあたる。


今年から伊勢で境界が接している彼らとは、


商業による友好外交を行う予定である。



商業提携の持ち掛けや紀伊の木材買入契約を


新規に結べており、向こうとしても


新しい銭のタネが出来てホクホクのようだ。




最初は(エン)(ゆかり)も無い他国者である


織田との交渉に難色を示していたものの、


『国境の者達が互いに友好を築くことは、


異なる勢力間の無用の(いさか)いを防ぐこととなる。


その事は堀内家の主たる畠山の(たす)けにもなる』


と説得すると納得と了解をもらえたそうだ。




歴史において戦争勃発原因の(ほとん)どは


中央の政治判断による開戦ではなく、


境界領域における偶発的な小競合いから起こる。



つまり先端同士のちっぽけな揉め事によって


後の大騒ぎが起こっているという事。




ならば先端同士が(よしみ)を結び仲が良くなる事は、


戦端が開く事を防止する防護効果としては


有効な策のひとつとなる。




――――――まあ、紀伊まわりの材木は


"木曽"と並んで高級建材のひとつ。



商人としては獲得するために交渉するのは、


むしろ当たり前なのだが?









次いで、熊野水軍。



―――――実は、何の事はない。


熊野水軍とは堀内家のコトなのである。


堀内氏は、熊野周辺利権と熊野海賊利権とを


あわせ持つ一族でもあるのだ。




近年に急拡大を続けている、九鬼と雑賀。



九鬼は志摩地方、雑賀は今の和歌山近隣が縄張り。


双方の水軍に挟まれている熊野の水軍衆は、


最近は猛烈な危機感を抱いていたようだ。



いつか自分達が圧迫され押し潰されるのではと。



そういった理由からも、熊野堀内氏との交渉は


喫緊(きっきん)の問題であったのである。




国人としての堀内家には話が付いた。


次は水軍衆としての堀内家との交渉となる。





―――――しかし、まあ。



これについては九鬼・雑賀との協調により、


案外簡単にカタが付いた。




『紀伊の"海賊"事業は全部熊野に任せる』





もともと"水軍"業・"海賊"業なんてモノは。


"陸の耕作地だけでは到底、喰っていけない"


からこそ始めるもの。



しかし今や九鬼も雑賀も、


海外交易によって充分過ぎる程に喰っていける。


自領の縄張りを守る"水軍"業はともかく、


"海賊"業については別にする必要は無いのだ。





要はどういう事かと言うと。



『別に、熊野に全部やらせときゃよくね?』


…………と、いうヤツである。


つまり海賊業務利権の半委託だ。



操船技量の低下防止のために、


時には訓練として逆に熊野の下請けをしてもいい。




ある意味で国内海賊業務から手を引いて、


(武装)海洋交易組織と水上軍事組織へと


一族の戦略方針の切り替えを決意したとも言う。


(実のところ、佐治にもその傾向がある)




逆に、紀伊半島全般の"海賊利権"を


なんか軽いノリで手渡された熊野堀内家の方が


目を白黒とさせていたくらいだ。




…………とはいえ紀伊から尾張までの海賊利権は、


相当に実入りのデカい稼ぎとなる。



熊野水軍にソレを拒否する道理はどこにもない。


結果として熊野堀内水軍衆との交渉も、


極めて穏便に平和的にまとめることが出来た。








―――――最後に熊野の土侍たちだが。



先にも言った通り、紀州熊野の材木は


国内有名ブランドに相当する高級建材である。



コレを相応の額にて買付契約を新たに結べば、


彼らの態度はフツーに一変する。




ついでに『森林間伐』の概念を教え込んだ。





木を切りすぎハゲ山にすると()()()に、


山滑りなどの大災害が起きること。



木々の間に適度な日照を与えることで


"山の幸"の恵みが大幅に増大すること。



間伐により"森の健康"が改善して、


より材木の生育効率と価値が上がること。



間伐により切り倒された未熟な材木についても、


簡易プレハブ用の建材として尾張で買い取る事。



こういった事を"大陸の書より見出だした"として


彼等に情報提供と交渉をしている。




実はこの助言は対北畠戦線あたりから


畠山・堀内の介入防止のために行っており、


既に山の恵みの拡充という良い結果を出している。



故に土侍たちは、二重三重の利益を得たとして


かなり好意的な態度を獲得できていたりする。






実は一連の熊野に対する交渉の中では、


一番に良い結果を出していたりするのだ。






一連の外交友好施策は、


隣接してしまった紀伊の雄たる畠山と


ウカツにぶつからない為の予防策。


同時に強い権益を持つ熊野三山との


友好と融和の策でもある。




別に向こうが過激思考をもっていない限りは、


こちらから仕掛ける必要もない。



わざわざ意味もなく火種なぞ造る必要もないのだ。




仲良く出来るトコロは仲良くすればいい。








今回は、『七福詣で』にまつわる熊野堀内氏に


対する外交(調略)政策のはなし。




熊野三社関連で将来に取引相手になる以上は、


彼らともめるワケにもいきませんから。



友好と協調の路線への舵取りは必至です。




ついでに建築ラッシュの止まらない尾張商圏の


木材確保のための新規契約でもありますから、


熊野の武家らに向けられた"商機"という熱意は


かなり激しかったりします。







マメ知識





『日本における"海賊"』





いわゆる西洋における海賊のイメージである


"海上強盗団"とは少し違う。



日本の"海賊"とは、主に水上利権をもって


メシを食っている連中のこと。


主な行為は略奪ではなくむしろ近隣水域における


水上交通の"水先案内人"であり、


その利用代金として銭を取る形態であった。



彼らが"海賊"と呼ばれるのは、


この"水先案内人"の業務が通行相手に対して


"強制的に行う"行為である事と、


結果として中央の政治方針に反することになる為。



そもそもこの水上利権が"横領"されたモノであり、


中央にとっては"賊"であるためである。



日本の海賊が略奪を行うのは、水先案内人を


拒絶した者への"見せしめ"行為でしかない。


つまり、海外における"海賊"や"倭寇"とは


根本的に違う存在である。





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