第177話 1552年、戦略前提(総括編・真)
昨日は非っ常に立て込んでまして。
スマホに30分ほどしか触れませんでした。
お陰で今回はギリギリでした。
……………危なかった。
『後(編)』で済まなかったので、
『真』となります。
『シン』ではありませんww
『何もしない』という発言に、
そろってポカーンとした呆け面をしばし眺める。
彼等が唖然とする理由はひとつ。
その答えが"あり得ない"から。
奪い奪われ殺し殺される戦国乱世の世において、
『何もしない』のは
絶対にやってはならない事だから……である。
ま、何だね。
――――当たり前だが?
コレは額面通りの意味合いではない。
「………ああ、ええと………其は?
『戦をしない』、という事で良いですか?」
何ともビミョーな顔で、確認するように
問いかけてくるのは勘十郎くん。
彼はこれまでの戦略概要説明における
"プロデュース側"の人間。
これまでの説明や解説を
"最初から全部知っている"側の人間である。
だから今まで特に話に参加してこなかったが。
…………流石に言っていない話は知らんよな?
次年度の戦略前提については何も言ってない。
―――――――――言ってない、が。
どうやら資料から凡その推測をした様だ。
新しい年における弾正忠家の動きを。
勘十郎くんは資料を作成する側なのだから、
資料が導き出す答えを一番に理解できる立場。
出来て当然、出来なければ困るのだが……ね?
現行における弾正忠家の仮想敵。
駿河の"今川"・近江の"六角"・紀伊の"畠山"に
畿内の"三好"。
誰も彼も一筋縄ではいかないどころか、
下手にぶつかれば大出血は必至の強豪です。
―――それは例え勝てたとしても、です。
政を、内務を行う者としては其は。
自陣営の大出血など認められません。
『勝負は時の運』などという
世間様をナメ腐った理屈で
戦を軽々しく行われても困るわけです。
―――――ご存知でしょうか?
『勝負は時の運』という言葉は、
"私は戦下手でやってみないと戦術を読めない"
という自身の無能宣言なのですよ?
軍を率いる者が絶対に言ってはならない台詞です。
―――――――さて?
戦略上において"危険な勝負"を正面から、
危険なまま挑むというのはアホウのやる事です。
戦略に関わる者はその"勝負の危険性"というモノを
可能な限り、極限まで引き下げるのが仕事です。
ここで取るべき戦略は、
"各個撃破"か"そもそも戦わない"という二択。
その何方にも停戦・同盟・宣戦などの
高度な外交交渉を必要とします。
同時に富国と強兵も必須ですね。
それ以前の問題としまして、
この四家はいまだ衰える事のない勢い盛んな家。
こんな相手とやり合うとか馬鹿馬鹿しいですな。
――――――だからしません。
関係が半ば絶望的な"今川"はともかく、
残りの三家については表立って全面衝突するだけの
ハッキリした名分がありませんから。
国境の国人衆たちに経済的な交渉を持ち掛け、
先ずは戦の尖端となる彼等の心境を
"戦い辛い"若しくは"戦う気がない"
という状況に持ち込みます。
国境こそが諍いの主なる理由ですから、
国境同士の関係を極端に友好的にすれば
戦端の発生を阻害できます。
国境の国人たちが仲良くしている中では、
彼らの主家が戦を欲するのは難しくなります。
強行すればひどい反感を喰らいますよね?
迂闊には軍を動かせなくなります。
こうしておけば情勢が変われば
切り離しや寝返りを誘う事も何とでも出来ますし。
もうひとつは前の話と繋がりますが、
弾正忠家国内の富国振興策です。
実力が非常に高い者に対する対抗戦略には
二つあります。
ひとつは『相手を今より引きずり下ろす』こと。
ひとつは『自分が今より高みへと昇る』こと。
富国の策は後者ですね。
概要としては前年度よりも内務の割合を
大きく増やすこと。
開墾・灌漑・治水だけでなく、
国内の各村にも開発を振興・奨励させて
農業作物や商業作物の生産量を増やします。
村が栄えれば町も栄え。
村が栄えれば武家も栄え。
ソレらが栄えれば弾正忠家もまた栄えます。
これにより尾張を中心とした政治圏と商業圏の
地力を大幅に拡充させる戦略です。
これは近隣諸国の国境国人たちと共に
密接な商いを行うことも含まれています。
こちらが大きく強くなれば、
相対的に相手は弱く見えます。
―――まぁその分、警戒はされますが?
警戒してもどうしようもなくなればよろしい。
ソレを主要戦略とします。
もう一度、言いましょう。
来年度は戦をする隙なぞ欠片もありません。
国力のほぼ総てを内政に回します。
それ故に人手があちこちに引っ張られますから、
あなた方も内務を担当して頂く事となります。
キッチリ諸々の政に関わってもらいますよ?
ココで経験と実績を重ねて下さい。
ココに居る皆の衆は、
次代の弾正忠家の幹部候補ですからね?
戦バカであっては困るのですよ。
原則としましては、
此方からは戦を発しないとご理解下さい。
向こうからの戦も極力、回避し流します。
無駄な体力は使いません。
代わりに確りと、アタマを使って下さい。
………………とは、言いましても。
世の中というものは、
良く良く想定外と云うモノが発生します。
双方が望んでいない、望んでいないハズの戦も、
時には起こったりもします。
そう言う事もまた有り得ますので、
呉々も油断なきように?
現行の時期はほとんどの近隣大名家にとっての
『歴史的最盛期』の状態に近いため、
彼等にケンカを売るのはかなりリスキーです。
彼等に挑むためにはそれ相応の力をため込んだ上で
各個撃破をするしかありません。
まあ、正直なところ?
ぶっちゃけ、信長包囲網なんてモノをされると
通常・既存の大名家なら確実に詰みます。
『甲斐武田』に『中国毛利』と『大阪本願寺』が
同時に全面敵対するとか、それなんて無理ゲー?
常識的に『ダメだろ、ソレ?』と断じたからこそ、
"荒木"や"松永"は裏切りに至ったのですから。
二度も巻き返せた織田が異常なだけです。
マメ知識
『勝負は時の運』
現実問題として、その勝負が"サイコロ"のような
90%まで運が関わる勝負だというならともかく。
(サイコロは残り10%を技量とイカサマで動かせる)
戦争において軍司令や参謀にあたる人間が
このセリフを絶対に軽々しく言ってはならない。
この二者は勝負の可能性を90%まで己の技量で
自分たちの勝利へと引き寄せる事が義務である。
(偶発的な事故等により10%前後は確定が不可能)
軍令を出す立場の人間がコレを言うことは、
完全なる職務怠慢でしかない。
…………まあ、根本的な問題は。
武官が内政から策謀までしなければならない
今の武家社会が歪なだけ、なのだが。
『"言う"と"云う"』
たまに本作品中でも使ってますが。
"言う"は、主に自分の発言を中心とするもの。
"云う"は、主に人伝に聞いた伝聞を(でんぶん)中心とするもの。
という分類となります。




