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鵬、天を駈る  作者: 吉野
7章、『○○○○○○○○』
181/248

第176話 1552年、戦略前提(総括編・後)




今回の一話は横路へそれる話。


拙作にはよくありますね。




例によって後書き(正しくはマメ知識)が


クソ長くなっています。



ホントにマメ知識程度のことなので、


別に見なくてもいいですよ?








…………さて、理由でしたね。


コレには"李部"の存在が関係しています。




少し話がそれますが、そのままお聞きくださいな。






――――――不満も不安も有るだろうが。


"政"も"軍"も"外交"も、翁面(ポーカーフェイス)が肝要だ。


ホイホイと感情を(おもて)に出していないで、


ひとまずは黙って話を聞くといい。







尾張にて盛況たる我らが李部ですが。



………………実のところですね。


()()()()()()()()()()()()()()()()()


絶対に失敗します。







………………何故、という顔ですね。



理由は運用するにおいて一番の障害となるのが、


『武家が銭を稼ぐ事を心から嫌い(サゲス)む』から。


李部の導入は権力を持つ武家が強権をもって、


無理矢理にでも造らねばならないのにです。




まず導入すること自体が、本気で難しいのですよ。




たとえ導入できたとしても、


話はそう簡単ではありません。



この『李部』という仕組み(システム)はかなり難解です。


この制度は()()()、だけでも


"政"・"商"・"軍"が関わっています。



弾正忠家は明確な指針(マニュアル)をもって動かしていますが、


指針ナシで(うま)く運用するのはかなり難しいですね。




更に言いますと、裏側にて(ひそ)かに


謀略と外交の要素も含まれています。


(まつりごと)の要因が全て内包されているワケです。



相当に細部までの釣り合い(バランス)が必要となります。




おまけに李部の運営は武家にも商人にも村衆にも、


それどころか寺社や公家から他国人まで


利権が十重二十重(とえはたえ)に関わりますから


その利害調整は至難のひとこと。



見様見真似(みようみまね)だけでは、上手くはゆきません。


少なくとも武家の思考では確実に(100%)出来ません。



二番(せん)じを狙おうとしても無理なのです。





よって他家では運用が出来ず、


国内外において李部を万全に扱えるのは


弾正忠家のみとなります。




―――――そう、ここが重要です。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()





―――――これは話を裏返すと、


『弾正忠家が滅ぶと李部は完全に(うしな)われる』


という意味になります。






尾張にて伊勢にて、そして西三河にて。


李部はあらゆる層の民たちに銭を与えています。


今までより余剰に銭を持っているという事は、


今までより余分に物を買えるという事です。




(すなわ)ち、飢えを(しの)ぐためのメシを得ることも。


則ち、寒さを凌ぐための衣や夜具を得ることも。


則ち、傷んでしまっていた家や道具を揃える事も。


則ち、僅かな贅沢として(クシ)(カンザシ)などを求める事も。


則ち、(たま)には贅沢をと皆で大宴会を楽しむ事も。



ヒトの営みに、其々の人生に対して


ホンの少しばかりの"幸福"を与える事が出来ます。


"今まで"よりも良い暮らしを得る事も可能です。





―――今の乱世の、地獄の如き日々の中でも。


魂が芯まで(こご)えるような極寒の厳冬の狭間(ハザマ)に、


小春日和(こはるびより)の暖かさをもたらすのです。



ソレは村衆にも町衆にも、そして牢人にさえも。


(サチ)薄い現世には、大変に得難い事でしょう。







その李部は、弾正忠家が滅亡してしまえば


共に喪われてしまいます。


二度と戻りません、永遠に。



弾正忠家を討ったモノはその財をただ食い潰し、


その政は"今まで"のやり方に逆戻り。




―――――再び"今まで"のこれまでの、


地獄の如き極寒の厳冬に舞い戻りです。




一度(ひとたび)、小春日和の暖かさを知ってしまった者には


その様な事は絶対に許せません。


悪夢の日々に立ち戻るなど真平(まっぴら)ゴメンなのです。




()くの如くに告げたならば、


弾正忠家の兵たちは護国の鬼と化すでしょう。


日ノ本に並ぶこと無き(つわもの)共となるでしょう。




(てのひら)(ほの)かな幸せを護るために。


チッポケな日溜(ひだま)りを喪わぬために。





彼等は、破格の強兵となるのですよ。







―――――これまでの足軽の戦意・士気は、


()るために生き延びるために発揮される力。


(ケダモノ)の如き、奪うための『負の力』。




(ひるがえ)って、これからの弾正忠家が足軽の力は。


その手に獲た幸を奪われぬために発揮される力。


人たる(アカシ)、護るための『正の力』。




同じ足軽でも、真に強いのは『正の力』です。



故に足軽たちの弱体化は起こりませんよ。


むしろ士気の面では強化されます。


その中でも李部傭兵たちは普請と鍛練とを


日常的に行っていますので、


(いず)れは武家に準ずるほどの精兵となるでしょうね。








()と長くなってしまった話を終え、


(やや)温くなった茶をゆっくり飲む。


長話で少し渇いたノドにはちょうどいい。


ついでに茶請けの漬物を摘まんでポリポリと。



本当なら浅漬けなども流通させたかったが、


現在の野菜などの衛生事情だと浅漬けでは


食中毒の危険性を取り除くことが出来ない。


まあ、その辺は仕方ないことだ。


今は漬物だけでも十分か。




――――うん、なかなか。






話を簡単にまとめると


『弾正忠家のみが与えることができる


"豊かな生活"を護るために、民は死兵となる。』


ということになる。



他の武家ではソレを与える事が絶望的であるため、


民たちは他の武家を退(しりぞ)けるしかないのだ。



西洋のイソップ寓話(ぐうわ)にある


『金の卵を産む鵞鳥(ガチョウ)』をさせないためにも。









大きく横へ()れてしまった話をもどしましょうか。



来年度の戦略計画です。




まあ戦略計画とは言うものの、その内容は


()()()()()()()』ね。



むしろ何もしません。











………利権でも幸せでも。


人間というモノは、一度その手に握りしめたモノを


力ずくで奪われる事に対しての抵抗・反抗の力は


凄まじいものとなります。



ましてや奪われるモノが『地獄に仏』ならば。


全てを失い奪われる地獄のような日々の中で


やっと手にしたわずかな幸せならば。



その反抗はどれほどのものか?





『死守』という言葉がある通り。



"生きるために奪う"エネルギーよりも


"生きるために護る"エネルギーの方が


その力の高さ・強さは大きくなるものです。




前者は己の(良)心に傷を付けますが、


後者は心を(ふる)()たせることができますしね。




………なんてカッコ良くまとめましたが、


実のところ、コレは新旧の利権闘争における


"旧側"の心理でもあったりします。


己の利権を守るためなら鬼畜外道にもなる。


よく物語でそのように書かれますよね?



"護る力"もそれを持つ者の心次第ということ。


方向性を間違えれば『負の力』ともなります。







マメ知識




(おきな)面』




いわゆる能楽において用いられる能面のひとつ。


現在では能面のその数は約300、


種類は約250もあるとも言われる。


最も大雑把なジャンル分類としては、


"老体面"((じょう)面)・"女面"・"男面"にわけられる。



これに更に穏やかな表情の"常相面"と


険しく激しい非日常的な表情の"奇相面"、


更に鬼や天狗などの人外の面である"鬼面"(異相面)


と神仏を演ずる時の"仏面"に分類できる。



翁面は老体面の一種で別名を式尉(しきじょう)


"ニッコリ笑っているじいさま"のイメージが


一般的ではなかろうか。



農村部の豊作祈願神事がルーツの


"式三番"という演目において使用される能面です。




ホンモノのプロ級演者は、面の向きや陰影だけで


千変万化の感情を演じて魅せる。


寒気がする程の凄みは今の演劇も顔負けですよ?




………あ、翁面を"ポーカーフェイス"


と表情しているのは当て字です。


何となく、ソレっぽいでしょ?







『小春日和』




漢字を分解してみると、"小さい春の日和"。


ここでの"小さい"は、


"ちょっと"や"少しばかりの"という意味。



語中の省略してある部分を追加すると、


"(寒い冬の間の、)少し春の様な(暖かな)日和"


といった言葉となる。



つまり"冬の一時の暖かさ"を表現する表現であり、


"春の暖かさ"をあらわす言葉ではない。




春という字で案外に誤解の多い言葉であるため、


その辺をお間違えのないように。







『些と』




"ちと"は、現在でも使われることもあるが


主に時代劇などで聞くことが多いかと。


漢字の"些"は"些細(ささい)"などで使われる字。



"少し"や"ちょっと"などの意味となる







『浅漬けの衛生問題』





漬物が長期保存できる保存食たるのは、


発酵の過程で有害な細菌などが全滅するため。


浅漬けでは発酵熟成が甘いために、


O-157などの悪性大腸菌などが残ってしまう。


(浅漬けによる食中毒は現代でも発生している)


特にこの時代は衛生概念が存在しないため、


浅漬けを一般商業流通させるのはほぼ不可能。



皆様も浅漬けによる食中毒にはご注意ください。


安全性が保証されているワケではありません。







『金の卵を産む鵞鳥』




案外に有名なハナシであるため、


知ってる方も多いかと思いますが。




とある農夫の飼っていたガチョウが、


急に黄金の卵を産むようになった。


農夫はソレを売って小金持ちになったが満足せず


"ガチョウの腹には金塊があるに違いない"と


ガチョウを殺して腹を裂いた。


……が、当たり前だが金塊が有るワケがなく、


農夫はせっかくの大儲けのタネを失ってしまった。




というはなし。


"欲張りが過ぎるとせっかくの利益自体を失うぞ?"


という教訓となる。



(ちな)みに、ガチョウとは野生の(がん)を飼い慣らして


家畜化させたもの。


少なくとも古代エジプトの頃には飼われていた。






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― 新着の感想 ―
[一言] これ以上奪われない為に悪鬼羅刹にもなる……というのはアレですね、 一向一揆や島原の乱にも一脈通じるところはありますが…… あれらと違うのは建設的な展望が存在する、という事でしょうか? 制御し…
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