第18話 那古野、路の展望
右へ左へと迷走しました。
なんとか完成。
「―――――――――やれやれ
……もう、いいかな。」
孺子のフリをやめて、胡座に直る。
態度の悪さもこれまでよ。
背筋はシャンとすべし。
一日の長のある歳上には
当たり前だろ?
脇息なんぞ要らん。
横へどける。
私の態度の激変に、『訳知り』2人は失笑。
それから、
………ま、後でよいか。
残った8人に顔を向き合わせる。
「では、改めて内容をお話しましょう。」
怪訝な顔をされる。
そうだろう。
これではまるで、
「………今までの話は本題ではなかったと?」
『訳知り』のひとり、"生駒" 蔵人 様(生駒宗家)
が代表して尋ねられる。
この人、織田と接点があるからな……
"三河の策を除けば"流れを見れる立場にいる。
「いえいえ、本題でないということでは。
ただ、すこしばかり
正確な話でなかっただけで。」
え? 余計にひどい?
知らんな。
そんないびつな話を持ち込まれた時点で、
この話自体が不自然であることに気付かなかった
連中が悪い。
「さて、正しくはこうです。
『ここにいる皆で金を出しあい、その銭を
工事の金額とする。
工事は総額からそれぞれが出した金額の割合に
応じて、順に発言権を持つものとする。』
…………となります。」
よく考えてみるといい、
『自分の銭でする工事を自分の銭で買う』
などという銭の二重取りみたいな行いを
誰がすると
――――――――――――――――するなぁ。
それが戦国クオリティだったな。
スマン。
「それから、今回のお願いは、
那古野の町の大通りを造ることです。
城から真っ直ぐ大門までの。」
作業の内容を話す。
この時代の道はとかく狭く、曲がりくねっている。
この大通りが出来れば………
「なるほど、それが出来れば城への搬入などが
随分と楽になりそうですな。」
那古野への搬入が多い生駒様が頷かれる。
効率がそうとう上がるだろうし。
『訳知り』の二人目"菊屋"の庄兵衛さまもうんうんと
首をたてにふる。
この御仁も熱田の老舗、町の情報には
耳が利く。
ただし、実際は二人の予想よりかなり広くなる。
「大通りの幅はずいぶんと大きくとります。
おおよそ――――10丈ほどですかね。」
さて、今の何倍やら。
笑えるほどに差がある。
「ず…………ずいぶんと広くされるのですね。」
さすがに皆が驚く。
広くするとはいってもここまでとは………
まさか思わなかったろう。
とはいっても、
「そうでもないですよ?
都の朱雀大路の3分の1です。」
唐の長安は更に倍。
世界的にみるとそこまでのことではなかったりする。
現代ではそこそこ程度だ。
「大路の名を
曰く、『雀大路』。
………流石に"朱雀"は不敬と罵られかねません。」
イチャモンを付けられるような
不安材料ははずします。
「さて、ここからがこの話の目玉です。」
話を切り替えると、
残ったもの達が身を乗り出す。
彼らが残ったのは『コレ』目当てだ。
「この工事、何をしても構いません。」
ぽかん、とされる。それはそうだろう………
話が大きすぎる。
何を、どう、どこまでの話かわかるまい。
「とはいえ、完全に自由ではありません。
守るべきは――――――
先に言った10丈の幅を守ること、
そして『武家の城の大路らしく』造ることです。」
後は何をしても良い。
何でもだ。
例えば
「道の両端や真ん中に梅の木や山桜を植えて、
華やかな大路に飾るも良し、
道の両端に1丈ほどの屋根を設けて、
雨でも途切れぬ騒がしい商人通りを叶えるも良し、
道に石畳を敷いて、轍の出来ぬ便利な道を造るも、
城らしく大門の外へ巨大な櫓門を造るもよし、
こっそり道沿いに自身の店を立てても良し、
それどころか工事を行う者に自らの店の
指物をさして作業させても、
店の宣伝を唄わせながら仕事をさせても。」
そう、好きなようにだ。
「なるほど…………………別に出さなくてもいいが
銭を出せば出すだけ工事が自分の望むがままになる、
というわけですな。」
庄兵衛さまがうなずきながら言う。
何でも出来る…………だ。
夢もふくらむというものだ。
だが、夢というやつは――――
「そういうことですね。
そうそう、
ちなみに村田は3000貫出しますよ。」
一同の顔がひきつった。
事実上、これ以上出してみろ
…………………と言われているからだ。
唐突に現実を突きつけられることがある。
書いている途中でプロットが激変!
全面的な改装をしてしまった……
あげくに長くなりすぎて話を分割。
グダグダでした。
マメ知識
『生駒宗家』
人名。
史実で"ノッブ"様の側室になっている『吉乃』
の父親。
灰や"油"の商売でひと山築いた豪商。
『"菊屋"の庄兵衛さま』
ぶっちゃけオリキャラ。
40代後半のちょい悪おやじ。
『10丈』
1丈は3m。襖三枚分。
つまり30m
現代の車線(歩道込み)なみ。
広いなんてものではない。
なお、『方丈記』は一丈四方の建物で書かれた。
それが由来らしい。
鴨長明さん、質素やね。
『指物』
旗指物とも。
戦国系の時代劇で足軽が背中に背負っている、
幟。店の通り沿いにたてる縦長のアレ。




