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鵬、天を駈る  作者: 吉野
6章、『○○○○○』
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第167話 ひと段落と、続く日々




一連の伊勢攻略(武力面)もこれで終わりです。


残すは政略方面のみ。



ひと段落はつきました。







炬燵に深めに潜り込む。


そろそろ霜月(11月)もなかば。


ややもすると冷え込みもキツくなってくる。


この時期は小氷河期ともいわれ、


世界的に気温が上がりにくい時代である。


そのために時折、作物の生育状況が悪化し


それが食い物の取り合いにつながる。


これが戦国時代の遠因(えんいん)とも云われている。



故に冬も寒くなりがちに。


体温調整機能の未だ未熟な幼子が


"朝起きると(はかな)くなっている"


といった悲劇もたびたび起こっているそうだ。



人口推移は生産性にも関わる。


政を行う者としては、何らかの対策が必要である。



今年は子供用の古着や夜着(よぎ)を大量に買い集めて、


尾張・伊勢にて新生児を申請した者に


其を無償で与えるというキャンペーンを行った。



何時の時代も子は宝。


思ったよりも感謝されたようで何よりだ。


申請の集計と共に色々なデータも集まるしな。






ところで、話は変わるが。


炬燵と言って連想するものは?



――――猫。


――――鍋。


――――寝オチ。


そして、『ミカン』。



ミカンと断言出来るモノは実はまだ存在しない。


現代のミカン、種ナシの『温州ミカン』は


突然変異という"偶然"で未来にて生まれる。


よって現行ではどうやっても再現は不可能。



とはいっても類似品ならある。


(だいだい)(たちばな)などである。


種が有ってややウザイし、


少し……いやかなり酸っぱいがこれもミカン。


生産作物としてのこの二つはそれなり程度には


改良されており、少しはミカンに近付いている。


橘・橙ともに、本来のモノは


大概に()っぱく苦味がキツくて


とても食べられるモノではないそうだ。


ジャム系や薬、薬味にしか使えないとか?



その辺りは食い物に対しては変態的な(こだわ)りを持つ


日本人ならでは、なのだろう。


何せ頻繁(ひんぱん)に"飢える"経験を持つ民族だからか、


その辺りの拘りが外国人から見て


ちょっと病的というか狂的ですらあるらしい。



――――ともあれ、"(ウマ)いは正義"は


いかなる時代・民族をも越えた共通項であろう。


これほど銭を取れる商いも他には無い。


ならば止める道理も道義もナシ。




このミカンの生産地として有名なのは


主に紀伊半島・四国・九州南部。


それぞれに雑賀・長曽我部・島津が()るわな。


三勢力には今年の頭に可能な限りの


収穫と輸送を寄越すようにと頼んでいる。


ミカンの代金としてかなりの銭を送ったため、


急な依頼だった今年に比べて


来年には相当数が期待出来るだろう。


向こうもかなり張り切っていると聞いている。


贈答品としてあちこちに送って、


『来年はお楽しみに』と流行らせておくか。


個人的にも期待している。




――――しかし、タネは何とかならんものかね?


…………………ホント、ウザイ。






まあ、イロイロとあちこちに脱線をしたが。


元の戦略方面に思考を直す。



戦略上において北畠の無力化はほぼ終わり。


これで晴れて、伊勢国の統一は完了となる。



伊勢最大の大物を墜とした以上は、


いくらかは多少のゴタゴタは残っていようが


油断さえしなければ後は残務でしかない。


伊勢国内を安定化させれば自然に落ち着く。


粛々と、淡々とこなしてゆけばよい。



織田は伊勢国とその民に恩恵を与えると約束し、


現実に開発により国を豊かにし始めている。


村衆に高い支持を得ている今の織田方が相手では、


残党や他国の者らの工作の(たぐい)は役に立たない。


(むし)ろ、それらの動きに対して


率先してこちらに報告という名の


タレコミ・密告が起こっている。



実際に幾つかの企みをソレで潰しているしな。




民衆にとって本当に望むのは安定と繁栄である。


安らかで満ち足りた暮らしこそが欲しい。


本心では戦なんてクソ喰らえなのだ。


例えそれがクソと解っていても喰らわねばならぬ、


そんな今の世が狂っているのだよ。



それらを与えてくれる者ならば


たとえそれが余所者(よそもの)でも(こころよ)く歓迎するし、


ソレを意図して遠ざけようとする者ならば


弱者たる彼等だって遠慮も容赦もなく排除に出る。


―――善意と私欲によって。



同じタレコミや密告であろうとも、


その辺りが"ヒトの心の闇"を利用している


『恐怖政治』とは根本的に違う面だろう。


アレは間違った意味でのリアルサイコホラーだ。




"向上の欲求"はヒトが最も大きく動く原動力。


それが"生活"であれ"争乱"であれ、な。


ソレを動かしてヒトはこれまで進歩してきた。


生存欲求と合わさればその力は更に強くなる。




―――――死にたくない、()だ生きていたい。


……と、明日を生き延びる為に他者を喰らう。



―――闇雲(ヤミクモ)に、我武者羅(ガムシャラ)に殺し続け罪を重ねる。




それが戦国時代、ウォーエイジという


狂乱たる地獄の業火を燃やし続ける燃料の正体だ。


ソレが世界最高峰のキチガイ戦闘民族なんぞと


呼ばれる存在の本性だ。


(………あくまでこの時代までにおいて、だが)



もし破壊と殺戮という方面に極振りされた


狂気と絶望のエネルギーを正しい方向へ、


創造と新生へと振り向ける事が出来れば


そのパワーは如何程(いかほど)であろうか?



どれほどに闇世(やみよ)(まばゆ)く照らす


灯火となるであろうか。



それこそが私が狙う政治上の大戦略目標だ。






――――――――さて。



以前の論功行賞にて話題に上ったことだが、


三郎さまの伊勢への赴任はそもそも


彼の武門としての素養・資質を見るためのモノ。



伊勢にて何を成せるかを()せる為のモノである。




……………のだが。



去年は北伊勢を一月で。


今年は南伊勢と強敵を一年にて。



―――――合わせて十三ヶ月を以て。


実際に伊勢にて魅せ付けたのは、特上の結果。



武門として高名な北畠を()じ伏せて


伊勢を統一するという破格も破格の結末である。




コレは現弾正忠家の棟梁にして尾張の俊英たる


『尾張の虎』、信秀の実績をも大きく上回る。



事実上、弾正忠家の家督は確定。


これに異を唱えれば正気か内応を疑われかねない。


弾正忠家の家督は磐石となり、


同時に尾張国の統一もほぼ間近と聞く。



伊勢が落ち着けば一同は年末にでも


尾張へと帰還となるだろう。


意気揚々とした派手な凱旋帰還となるであろうさ。




尾張統一と伊勢統一の祝い。


そして三郎さまの家督の継承。


新年には二重の祝賀となる。




慶事ばかりで()いことである。










………むう、やはりは現行のミカンは酸っぱい。


味覚の鋭い子供舌には少しキツイなぁ。








    第 6 章


 『 伊 勢 統 一 記 』






コタツテロに続くミカンテロです。


近日中に(モチ)テロもあるかも知れませんね。


他には、御節(おせち)テロも。



話を戻して本題に。


ようやく、思い出したように六章の終わりです。



もともと伊勢の制圧で章は終わる予定でしたが、


肝心のタイトルは構成の段階では未定。


今になって思い付いたシロモノです。



なお、文中の"闇世"は本作品での創作単語。


戦乱という闇に呑まれた世界のことで、


『闇夜』とかけた言葉遊びです。


現実には存在しません。



今回の章タイトルには、


『物事に区切りがついても、人生は続いてゆく』


という意味合いを込めています。






マメ知識





『儚くなる』




"(ケガ)れ"こと"死"を言葉にもしたくない程に


嫌っていた当時の人達が替わりに作り出した


"遠回しの隠喩(いんゆ)"。


現在では地位の高い人物や、


"死んだ"と直接的に表現するのがマズい状況(シチュエーション)


使用されることがある。



現在、ネットで"タヒんだ"と書くようなモノ。


むしろこちらの方が洒落(シャレ)が効いていると思う。






『日本人は世界最高峰のキチガイ戦闘民族』




まず鎌倉武士。


何度か言ってますが、こいつらは蛮族ですらない。


歩く災害みたいな『寄るな危険!』な連中で、


民間人にも見境なく襲いかかるような


狂犬じみた超武闘派マフィアのごとき存在。


人生の99.9%までを闘争につぎ込んでいます。


(残りの0.1%は飲む食う寝る)



マシになったのかむしろ悪化したのか解らないのが


戦国時代の武家たち。


政治に本格的に足を突っ込んだために、


教養も身につけていますが中身はまだ蛮族。



闘争本能+万年貧乏+モラル崩壊が合わさって


年がら年中に戦をして親兄弟とも殺し合うという


この世の地獄、まさに末法の世の具現となる。


(武士が仏教や基督(キリスト)教に過剰に深くハマるのは、


この地獄にドップリと()かっている自覚がある為)



ほとんどの"大望(たいもう)を持たぬ武家"の中には、


"生きるための目的"と"戦うための目的"とが


戦い続ける内にゴッチャになってしまう者も。


"生きる為に戦う"のではなく"戦う為に生きる"


という、本末転倒で意味不明な心理状態に。


一種の精神障害に近い状態の武家も居たのでは?



豊臣政権の崩壊後、戦の機会を失った一部の武士は


海外に出て武装傭兵化します。


ただしメンツを傷つけられると上司でも噛みつく、


ガチの狂犬で非常に扱いづらかったようです。


戦闘武力というか、


士気はすごかったらしいですがね。






『十三ヶ月で一国を統一は破格も破格』




当時の領土争いは境界沿いの村々を一つずつ


じっくりチマチマと塗り潰してゆくのが主流。


そのためにイチ勢力が持つ領土を根こそぎ押収する


こういった行いは偉業というよりもはや異形。


戦国時代の常識的には異次元の成果となる。






『子供の舌は味覚が鋭い』




子供の味覚は大人の3倍近くもあるらしい。


子供が苦味のある野菜を嫌うのはそのため。


つまり子供に自分から野菜を食べさせるには、


苦味を消すか誤魔化(ゴマか)す必要がある。



一説では、何でもホイホイと口に入れる為に


体が毒物の判別に過剰に敏感になっているとか。


他には体が小さいために、大人よりも塩分などが


必要ないから体が拒絶するためであるとも


言われている。





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