第17話 熱田にて、会合を
前回で、番外編が入った理由。
熱田の村田屋にて情報収集や業務指示などを
行いつつ数日、約束していた日になった。
場所は熱田の神宮をお借りした。
無論拝殿を借りたわけで無く、神宮の宮司である
千秋 四郎 様(千秋季忠)から
屋敷の広間を借りた。
新緑の境内を、伴を連れてふわふわと歩く。
旧くは"日本武尊"の御剣の逸話、
更に"西行法師"が腰かけた石橋に
"弘法大師"の植えた楠と
ビッグネームがゴロゴロ出てくる
歴史の有りすぎる神宮だ。
気分的になにやら神妙にもなりそうだな。
神宮の禰宜の案内に着いて行く。
軽い足音が廊下に響いている。
書斎へは行ったことはあるが、それだけだ。
こちらは初めてだな。
木戸の前で立ち止まった案内役にうなずき、
「お集まり頂き、感謝しますよ。皆の衆。」
ここへ呼んでおいた商人たちに声をかけた。
一斉に向けられる視線を流しながら奥へ歩く。
空いている上座へ向かい、用意された円座まで
たどり着き振り返る。
――――――――招いたのは20の商人。
ここに呼んだのが織田家としての呼出しだったため、
純粋に驚くものが5人。
こちらをナメた目で見るのが7人。
目を細め、興味津々なのが6人。
そして、『訳知り顔』が残り2人。
さて?
何人……振り分けられるかな?
全く―――――表情を隠すのも大変だ。
「――――――――では、こういうことだと?
我々が銭を払ってモノを造る。
………………それを造る権利を我々に買え…と?」
一人の商人が"ナニカ"を
圧し殺したような顔で問うてくる。
30代後半あたりか?
若いな、
"ソレ"は隠さんといかんぞ?
ほら、後ろの方で『訳知り顔』が苦笑しておる。
「そうだな。簡単にまとめるとそうなる。」
と、『侍らしい図々しい顔のクソガキ』が応える。
わざわざ片膝立てて座り、脇息
に肘を置いて重心を乗せている。
このためにめったに着ない紋付羽織袴を仰々しくも着こなしてきた。
我ながらずいぶんと態度の悪い。
「――――申し訳ありませんが、
今回はご縁がなかった、………と言うことで。」
立ち上がり、広間を立ち去る者が……………
ひの、ふの、みの………
十と、………二人。
12人去って残り8人か。
しかし、何だな。
"内心を隠しきる"ならともかく、
"憤慨を隠しきれぬ"のや
"苛立ちを隠さん"のも
――――――商人としてはどうかとは思うぞ?
だが去ったものに老練なのが混ざっていたな。
常識にとらわれ過ぎたな。
歳をとるのも考えものか。
思い込みとは怖いものだ。
逆に驚いていたものが残っていたのも以外だった。
小僧と知らなかったものが……………………………
――――――ああ、
うん。
驚いたのは『紋付羽織袴』の方か。
明らかに見慣れない格好だったからな。
驚きもするか…………
これは迂闊。
思い込みはいかんと言っておいて何てザマだ。
情けない。
番外編より短い本編…………
どげんかせんといかん。
マメ知識
『千秋季忠』
熱田神宮の当時の宮司。
宮司は神社のトップをさす。
この人、神宮の宮司ながらバリバリの武闘派で、
史実では桶狭間の戦いの前哨戦で討死している。
『禰宜』
神職のひとつ。
古語の『ねぐ』、和ませるという意味が語源と
言われる。
神の心をなだめ、なぐさめする役職。
『円座』
ワラ・い草などで編んだ、円い座布団。
この時点では綿の座布団はまだ高価で一般的でない。
『脇息』
時代劇で殿様が座ってひじをおいているアレ。
演出に凝りすぎる子供。




