表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鵬、天を駈る  作者: 吉野
6章、『○○○○○』
168/248

第163話 式年遷宮、其に関わるアレコレ




伊勢神宮へのわかりやすい資金援助は、


式年遷宮への援助。


式年遷宮への援助を行うなら、


朝廷とのからみが発生します。



そんな流れから生まれた話。








ともあれ、神宮に対して


遷宮のための資金を援助するという計画ですね。



これにより神宮との友好をはかるわけですが。




先程も申しました通り、式年遷宮は


朝廷が先導をしなければ面目が立ちません。



私達の提案とは、


『この度の遷宮を朝廷主導で行って頂きたい』


ということです。


朝廷の面子(メンツ)を潰すわけにもいきませんからね。







「……………遷宮をこちら(朝廷)の主導にて、か。


確かにありがたい話ではある、が。



――――どのように話を進めるつもりかな?」





姿勢を改めて本格的に


こちらの話を聞く体制に入る山科さま。



何時(いつ)もの献金の話かと思えば


思ったよりも大きな話であったために、


本腰を入れる事としたのだろう。





長年に途絶えた式年遷宮の再開。



国中が戦乱に覆われ、人心は(すた)れ去り。


政治は断絶して、経済は衰え地を()う。




生きる為に、今を喰う為だけに奪い合う日々。


その様な時代にソレを成せたなら。





(まさ)に偉業である。




山科さまとしては、拒む理由はない。







―――――ではまず朝廷には、


ひとつ、全国に向けて(みことのり)を発して頂きたい。



『久しく絶えた伊勢の遷宮を再び行う為に、


それぞれ無償の志を献ぜよ』


…………とでも。


文面はそちらで好きなように改めて下さいな?



要はこの命を放つことが重要です。


朝廷が自ら率先して動く事が。


そして一切の見返りの無い献金を命じる事が。







――――まあ、言わずとも。


仰りたいことはわかります。




この乱れに乱れた世に、


その命にまともに応える者が果たして居るのか?




……………()()、居ないでしょうね。


極めて(わず)かな、(まこと)の志を持つ者のみが


たとえ僅かでも献金を行うことでしょう。


文字通りに、身を削って。




彼ら、真の忠義者はたとえ少額であろうとも


強くその志を(たた)(ふみ)を送れば(よろ)しいかと。


"たとえ一握りでも、その志は天晴(あっぱれ)である"と。





しかしながら。


いくつかの真の志が集まる事とはなりましょうが、


その合計として集まる銭の額は


とても満足できるようなものではないでしょう。



仕方ありません、それが現実です。



そして今回の話は、最初から()()()()()()です。



朝廷とその協力者が、独自に遷宮を果たす。


ソレが此度の話のミソですから。





「…………なるほど。


この大難の時代にその様な大業を


見事に果たせたとあらば、


朝廷の面目は大いに施されよう。


同時にその命に高い志を返した者たちの名声もな。



――――――全ては筋書(すじがき)ありき、というワケか。」





現実問題として、


伊勢の式年遷宮を万全に果たすためには


25000貫前後という驚異的な銭を必要とする。



其が例え出来レースであろうとも、


ソレを組み上げ(なお)()つ実現出来るだけの実力を


高く評価されるのだ。



そのために少なくはない銭を捻出して


力を尽くした協力者たちもまた同様に。





コレは、今回のご提案は。


『見返りも現実味も無い夢の様な号令』


を発して、国中の誰もが見向きもしない中で


ソレを達成するというおはなし。




私達が独り勝ちするという策です。








――――献金の内訳と致しましては。



尾張の弾正忠家が5000貫。


薩摩の島津家が2000貫。


土佐の長曽我部家と志摩の九鬼家が


それぞれ1000貫。


知多の佐治家と紀伊の雑賀家が


500貫ずつの献金予定となっております。



朝廷より勅の大号令があったのち、


この六家が銭を献ずるつもりです。






「…………一万貫しかないではないか。


目を剥くほどの銭とはいえ全く足りていないぞ?


不足分はどこから補充するつもりか?」




何とも疑わしげな視線を寄せる山科さま。


随分と大きな風呂敷(フロシキ)を広げておきながら


達成条件を満たしていなければ、まあこうなる。



――――本気で実行する気が有るのかと。


こちら(朝廷)に恥をかかせる積もりかと。







…………………そうですねえ。


残りの15000貫については、


主導する朝廷に拠出をお願いしようかと。



国家の長として、誰よりも何処よりも多額の銭を


投じて頂こうかと。





―――――いえいえ。


もちろん無理難題を言うつもりはございません。



()()()()()()()()()()()()()()()()()



………という事になります。


応仁より途絶えた遷宮に憂えた歴々の帝が


長年、献金を密かに留めおいたモノとして。






この朝廷が拠出する銭は当然ですが先の六家が


一緒にお届けした銭を用いて頂きます。


負担をさせる事はございませんよ。





残念ですが苦しい内裏(だいり)の事情は、


今では国中に広く知られています。




その中でも身を削って多大な銭を投じたならば、


畿内にて大きな美談として広まるでしょう。





"天下泰平の為に身を粉にする清貧の行い"と。



むしろこちらからも大々的に広めますし。




そして畿内にて争う者たちには、


朝廷の持ついまだ侮れない底力を知って


肝胆を寒からしめることでしょうね。





天下に朝廷の名声を強く示すこととなるでしょう。






ではその様な手筈(てはず)にてお願いいたします。


後日にでもそちら(朝廷)側のご予定をお知らせ下さい。


ソレに呼応して、まずはそちらへ六家の合同にて


()()()()()貫をお送りさせて頂きますので。





ダメ押しとばかりに銭で殴り付ける。


伊勢に奉納するのは15000貫であるから。



つまり残りの5000貫は朝廷の取り分となる。









――――――それから。



山科さまには、ひとつお願いがございます。






「―――――何で、あるかな?」



毎回こうやって"お願いになっていないお願い"


をしているせいか、こういう話を振ると


妙に警戒をされるようになってしまった。




ある意味において、自業自得とも言える。



――――そして今回も()()であるのだが。





今回のお話によって、伊勢の神宮には


()()()()()()()()絶大な銭が


集まることとなります。



ヒトとは弱き者。


神宮の内外にて眼前の銭への欲に負けて、


不心得(ふこころえ)な行いを成す者が現れる恐れがあります。



歴史を眺めれば、この様な時には


残念ながら必ず腐敗や横領が起こるもの。


事前にそれを牽制し防ぎたいと存じます。




つきましては此度の遷宮の全容を


管理・監督そして監視する者を


朝廷より派遣して頂きたいのです。



遷宮が無事に終わるまでには長期の時間的拘束を


必要とされるとは思いますが、


(いたずら)に道を踏み外す者が現れぬようにと


どうか都より、力ある方の派遣を


なにとぞ宜しくお願いします。





「……………………。」



山科さまが沈黙する。




天下に高い名声を示し、


式年遷宮の長期断絶という積年の憂いを解消でき。


5000貫の献金を受けた上で、


更に一時的にせよ『新しき利権』を与えられる。




織田家の神宮との友好策の一環とはいえ、


朝廷の取り分が多すぎるのだ。



織田の"お願い"は、いつもこんな感じ。


正直、困りもするだろう。





それでいい。


放っておくと"公家"というのは、


『謀略家』というのは好き勝手・好き放題に


動くからな。



あなたたちには"貸し"で縛らせてもらう。


いつかは少しずつ、返してもらうさ。





それまではまあ、精々(せいぜい)


やきもきとして下さいな。



そちらの"都合"や"思惑"そして"貴方たちの常識"で、


勝手に忖度されても困るのですよ。







朝廷を放ったらかしにして遷宮を行ったら、


後になって何かの機会に公家たちから


必ずイチャモンを吹っ掛けられます。


それも情勢の風向きが変わった瞬間に。


公家とは、"政治屋"とはそういう連中です。



ここは朝廷も巻き込むのがベターな策。




また一度に25000貫を集めるというのは、


本来ならほぼ不可能。


限りなく夢のような与太話(よたばなし)です。



ですが史実では、外宮のみとはいえ


ソレが本当に実現してしまっています。




活動を行ったのは、


伊勢神宮の(ソバ)の尼寺の住持で"清順"という方。



全国を行脚(あんぎゃ)して勧進(かんじん)を願い、


寄付のために協力を募った。


この御仁はその前にも伊勢神宮の入り口にかかる


"宇治橋"の架け替えのための勧進も行っている。






なお最近の2013年における62回目の式年遷宮では、


550億円以上というとんでもない額がかかっている。


うち220億円が寄付と言われる。



なお式年遷宮は第62回では最初から最後まで


8年もかかったそうです。


当時はそれ以上であったのでは、と思います。





マメ知識




『勅』




中国では皇帝、日本では天皇。


共に国家・国権の最高権力者が発する、


公的な発言や命令のことをさす。


(他にもヨーロッパの王家でも勅と表現されます)


実は命令だけではなく、


一般の言葉や伝言なども"勅"です。






『与太話』




コレは、古典落語にでてくる登場人物の


"与太郎"の話。


間の抜けた行動で失敗を繰り返すキャラで、


落語の定番のひとつ。



転じて"馬鹿げた話"や"デタラメな話"のこと。





『新しき利権』




当時の内務や行政の担当者には必ずと言っていい程


"口利(くちきき)"が発生する。


江戸時代でもコレはフツーに存在している。


(もらうのは想定済であり、そのため給料が安い)


ここまでの超巨大公共工事ともなれば、


おそらく"袖の下"も相当の額となる。



一時的なモノではあるとはいえ、


これはひとつの巨大利権となる。





『"やきもき"する』




特定の漢字は無い。


後の文学において(当て字っぽい)漢字もあるが、


果たしてソレが一般的であるかは疑問。



意味としては、


あれこれと気をもんでイライラする様子をさす。


ルーツについては、いまいちハッキリとしない。





『公家たちの都合や思惑・常識』




公家衆には、武家どもから政治を奪回したいという


"都合"がある。


そのために相手を一方的にワナにかけて、


思い通りに世相を動かそうとする"思惑"がある。



そして、官位や官職を与えられると


当然の様に喜んでもらえるという"常識"がある。




これらがグチャグチャに合わさると、


"相手に望みもしていない過剰な官位・官職を与えて


周辺や幕府と対立させよう"


などという謀略が発生したりする。


(実際に"源 義経"に使われた)



現行の尾張にとっては、ハッキリ言っていい迷惑。






『行脚』




語源は僧侶たちが諸国を巡り歩いて修行すること。


本来は仏僧の修行のみの言葉であったが、


後に何かの目的のために地方を練り歩くことも示す。





『勧進』




コレを聞くと人によっては歌舞伎の演目である


"勧進帳"を連想するかも知れませんね。



本来の意味合いとして勧進とは、


"人に進めて仏門に入らせ、善根(ぜんこん)功徳(くどく)を積ませる"事。


"勧化(かんげ)"とも言うらしい。


仏門という"善い道"へと人に勧めて


善行という"善い行い"を行わせることを示す。



ここから拡大解釈をされて、"御布施・寄進"という


"善い行い"を行わせることをも表すようになる。



ここから更に転じて、寺社の建立や修繕のために


費用を奉納させる事も意味する。


(むしろほとんどこちらの意味で使われる)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ