第148話 大河内城、という城
というわけで、話の場面が変更。
今回は唐突に始まります。
阿坂の城の南方。
四五百森城こと将来の松坂の町の南西。
平地を流れる阪内川を遡り続けると、
少しずつ山が見え始める。
そのまま更に南西へと川沿いに歩くと、
川が二股に別れた所で
三方を山に囲まれた場所に出る。
この先に二つに別れた上流へと向かおうとすると
山に囲まれかなり狭くなった谷間となり、
大人数・大軍が動くには難しい地形になる。
その二股に別れた川の正面にある山。
100mを更に上回る山に築かれた城が。
北畠が難所に築いた堅城、大河内城である。
――――――そういうワケで、
これが北畠が誇る城である大河内の縄張りと、
その辺りの地形を描いた地図となりますね。
それからこちら……が、っと。
土を盛って造った城と周辺の全景です。
……土の塊ですから少し重かったですね。
「――――――いや?
何で当たり前の様にその情報を持っている?
何で敵城の姿が丸裸にされておるのだ?」
そういうモノは秘されるモノであろうが?
と腕を組み呆れながら三郎さまが口にする。
――――まあ、その通り。
敵方に自分達を守る城の、護るモノの情報を
わざわざ相手に曝すバカは居ない。
…………居たらソイツは裏切り者だ。
何故か、といいますと。
情報を抜いたからです、としか言えませんね。
今回は伊賀衆ではなく、民を用いました。
当然ながら、彼等に死地へ潜り込め
と言ったワケではありません。
大河内あたりの民に銭を払い一人ずつ面談して
山の形状や周囲の地形、城の特徴など。
覚えている限り思い付く限りに、
ひととおり説明させたのですよ。
思い付きからちょっとした疑問まで、
余すところ無く。
ひとつの情報につき一疋の支払い。
つまり十の情報を出せば一貫です。
取るに足らぬモノから重要なモノまで千差万別。
どんな些細なモノであろうと支払う、と言うと
皆が喜んで口を緩めてくれましたね。
この中から重複した情報を削除し、
変に突出したモノだけを抜き出します。
そうやって川で砂利より砂金を見出だすように
チマチマと情報の洗い出しを。
城や周辺の地形については、
実際に粘土のカタマリを渡して練らせました。
百聞は一見に如かず。
多少に誤差は出来ますが、
数を揃えればおおよその形が得られます。
まあ、その様にして、
多くの者から話の聞き取りをしたのですよ。
――――およそ二千人ほど。
地元の者であれば、
大河内の城内に入り雑用などの用事をこなすことも
有るというものでしょう?
二千人分の、それだけの情報量があれば
たとえ伏せられているモノであっても
全貌が浮かび上がるというものです。
本気で唖然としている連中を眺め回す。
情報収集や物見として近隣の者を雇う事はあれど、
ここまで大規模な事を普通はしないからな。
だが、こういう所に銭を惜しむと
勝敗に直接に関わる事がある。
ここは銭の大盤振る舞いをするトコロだ。
データは多ければ多いほどよい。
これほどの大量のデータがあれば、
嘘を見つけるのも簡単。
特殊データやマスクデータがあれば後で精査して、
何なら伊賀衆をここで派遣すればいい。
膨大なデータという物は、
それだけでその持っている全てを物語る。
秘匿データだけでなく、
その所有者さえ知らない情報ですらも。
―――――まだ粗削りながら、
立てたばかりの『戦略情報部門』は
それなりの成果を上げているようだな。
………もう少し予算を計上しておこうか。
戦略情報部門といっても、
別に暗部などの非正規・非合法な組織ではないぞ。
言ってみるなら、リサーチ系の業者になる。
つまり商業部署だ。
情報データを大量に無差別に収集して、
そこから選別し考察や研究をする仕事だな。
伊賀から引き抜いた三家の情報部門を
幹部として用いて。
―――元々はいちいち頼んでいたのだが。
どうもその都度に人員を整理配置するのは
効率上の無駄だ。
どうせ何度となく用いるのだから、
専属部署として成立させた。
"鵜の目鷹の目"からとって
『ウノメ屋』と銘打っている。
恐らくは、世界最初のリサーチ企業であろうさ。
将来的にこういう仕事・業務は
絶対に必要となるから、今から創っている。
データと業務ノウハウをこの時代からの
蓄積を始めさせているワケだ。
ビッグデータの蓄積とその運用は、
現代人なら分かるがこれは政・商・軍を問わず
戦略レベルにおいて圧倒的な重要性が在る。
今はその価値を何人も理解していないから
利用者は村田系のみだがな。
いずれは押しも押されぬ巨大市場となり、
同業他社があふれるだろうよ。
『ウノメ屋』はこの最先端業者となる。
データとノウハウが揃えば大きな資産を与えて
村田から完全に分離独立させるつもりだ。
いずれは『ウノメ』は他の店も
自由に使えるように仕立てる予定だ。
事業の独占は往々にして、
内にも外にもロクでもない結果を招く。
切り離せるモノは切り離した方が長期には良い。
リサーチ業界のリーディングカンパニー、
『Wono Me』は戦国時代にその起源を持つ
450年以上の歴史を持つ老舗企業である。
圧倒的な年月によって蓄積された
企業ノウハウとデータ量は破格のレベルであり
政治・商業・外交などに太い顧客を持つこの会社は
創業より一切の衰えを見せることは無い。
この事業を見出だしたのは当時の村田系の店。
恐るべき先見の明と言える。
――――――――さて、これらの情報を踏まえて。
皆様、大河内の攻略について論じましょうか?
私の腹案より見るべきモノが有れば
見事、採用と致します。
大々的にその知謀を後世に広めてみせましょう。
――――――出来る、ものでしたら?
…………と、まあ。
少し煽っておいた。
筋肉も頭も、使わなければ衰える。
少しは首を捻ってみてくださいな?
大河内城の紹介と見せかけて、
アッサリ脱線するのは今作品の使用です。
あまり気にしないでください。
"敵を知り己を知れば"とは言いますが、
コレはほぼ近代戦なみの情報収集レベルです。
この桁違いの情報量は、
当時の人間にしてみればアゴが外れる様な内容です。
ただし、現代商戦においては結構あたりまえ。
当人としては、むしろ少ないくらいです。
敵地だから仕方ないのですがね。
マメ知識
『大河内城』
松坂市大河内町。
そのまま町の名前になっています。
画像を調べると、石垣が一部見られたり
本丸あたりに石碑などもみられる様です。
城としての形は在りませんが
当時の地形は残っている様なので、
興味の在る方は足を運んでみては?
史実でも激戦地として有名ですから。
『マスクデータ』
マスクされた、外から見えないデータのこと。
社外秘や部外秘、極秘資料などの事を指す。
またはゲーム内のメタ情報を表すこともある。
『鵜の目鷹の目』
魚を探し水面をキョロキョロする"川鵜"や、
空高くから獲物を探し睨めつける鷹の視線のこと。
僅かでちっぽけな事でも見逃すまいという、
注意を集中して物事を探す様子。
またはその様な目付きの事を指す。




