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鵬、天を駈る  作者: 吉野
6章、『○○○○○』
150/248

第145話 受け取るも受け取らないも、貴方次第です



カッツ君の解説編。


もう少し続きます。








――――――――ふふ。



勘十郎くんはここまでは言い当てたか。



まあ、ここまでは当然のこと。


当の被害者本人だからなあ。



わかって当たり前。





……………………さて?


勘十郎くんは、()()()()()()()()()()()()







「――――――さて。


彼がこの場でわざわざ告げたという事は


"大和守家にも仕掛けられた"のでしょうね。



私達の一派と同時期かそれよりも先に。


……………お可哀想(かわいそう)に。




別に弾正忠家の家中である必要はありません。


大和守家にも銭を贈る大義は有ります。



『主君たる尾張守護の斯波家と、


守護代たる大和守家への()()()()()()


という名目が。



……………(キモ)は"祝賀の祝い"です。


相手が斎藤だろうと松平だろうと可能なのですよ。



それこそ相手が"皇家"でも。


――――さすがにコレは()()ませんが。」






人類、皆兄弟。



という話ではないが、


実はこの一手は何処へでも吹っ掛けることが可能。



世間には全ての者に『関係』や『(しがらみ)』が存在する。



村衆にも町衆にも。


武家や公家にも、繋がりは存在する。



『同じくして今上帝(きんじょうてい)の下に仕える身』


と言ってしまえば誰にでも届く。



そもそも"年賀の祝い"は南蛮人にも、


西洋人にでも通用するだろう?





―――――つまりはそういう事だ。








「この策が本当に厄介な所は、


これが祝賀の"祝い"である点です。



つまり"祝い"である以上は断れないのですよ。



普通、"祝い"を断る事はあり得ません。


他者からの"祝い"を断るという行為は、


一般的には『絶縁』に近い


極めて非常識な行いに相当しますから。



最初から策であることを見抜いても、


それを防ぐためには"善い適切な名分"が要ります。



……………例えば"物忌み"のような。」





―――――"年賀の祝い"となれば、


ほとんどの者は受ける者は何も考えず


条件反射的に受け取ってしまう事が多い。



そして受け取った瞬間からこの策は、


悪意の華が芽吹きを始める。




――――――そして。





「一度、受け取ってしまったら終わりです。


途中で策と気が付いても後の祭り。



見る間に家臣の心が離れて行きます。




これを(つな)(とど)めるには、


自分達も同様に


配下に銭を与え度量を示すしかありません。


今より更に家臣を厚遇するしか。



これをしなければ、


『我が主の家は"あちら"より貧しい』として


家臣の心が揺らぎますから。


"豊かで勢いの有る家に鞍替えを"と、


その心中に魔が差します。



"銭"という目に見える力は、


即物的だからこそ皆が思うよりも強いのですよ。


目に見えて家の力の優劣を魅せてしまうのです。



しかしながら、自分達も銭の授与を行う。


――――――これを行うと?


家中の蔵の財に少なくない被害を与えます。


弾正忠家の様な絶大な財力の()てがない限り、


財政に深刻な損害を与えてしまいますね。


何故なら、年始になると毎年ですから。



ジリジリと家を(けず)られる事となります。






放置は論外、銭を出すのも懐が痛い。


ではこの"祝い"の打ち切り、お断りはどうか?




………………実はこれが最悪の選択肢です。



人間、一度与えられた利益を。


利権を取り上げると激しく反発します。



特に銭の利権の取り上げなぞ、効果は覿面(てきめん)です。



家臣の心が乱れた状態でそれを行えば?


最も悪い可能性は、


家 中 の 大 反 乱 で す 。



こちらがあえて手を出すまでもなく、


相手はズタズタに崩壊します。





これもまた、この策の悪質なトコロです。


この策に引っ掛かると、


何をしても損害が発生するのです。」







…………………一同、ドン引き。



コイツは一度引っ掛かると、


何をどう頑張ってもダメージが発生する。



どのように対処しても、どのように最善を図っても


何処かに必ず(ひず)みが出来るのだよ。



しかも、止めることが出来ない。


止める手段が無い。




………正しくは、『有るには有る』のだが。


この時代の、戦国時代の武家には?



()()()()()()()()()()()()()()()()


――――同様にその実行もな。




つまり最初から策をかわすのが最善となる。



……………(かわ)すと言っても。



この銭は家臣の方へ直接に届け渡されるため、


その名義を自分のモノと偽ることも出来ない。



この策を回避するには、『お祝いの申し出』を


角が立たない様に断るしかないのだ。




そんな事は前もって『コレ』を知らないと無理。



完全な初見殺しの策である。









「最後に今回の大和守家についてですが。


――――先の話を引用しますと、


『どうしようもなく派手にやらかした』でした。



つまり今の大和守家は風評・風聞が


最悪どころかそれ以下になっている可能性も。



そう考慮しますと。



………………主君である斯波家を害しましたか?


―――それは本当に洒落(シャレ)になっていませんよ?



尾張の内外の近隣全ての勢力に


大和守家を討つ大義名分を与える事になります。



――――終わっているではないですか、大和守家。



とはいえ、


さすがに具体的な内容までは判りませんが。




――――――こんな所でしょうか?」






…………………ふむ。


斯波家への()()()まではわかったか。


発言したヒントについては、全て拾えたな。




座り込む一同、なかなかに唖然としている。


部下であった柴田さまも含めて。



ほんの少し前と比べて、


明らかに明晰(めいせき)となっているからな。



林の爺(弟)に良い様に振り回されていた頃とは、


まるで別人とすら言えるだろうさ。



善いことだ。










……………が。



80点。



百点中のね。


及第点・合格点だが、それだけ。



セリフからしか拾えないようではまだまだ未熟。


優等生思考が抜けきれて無いなあ。




もう少しは想像を(ふく)らませた方が良いぞ?



――――横で


『……コイツ、マジか?』


みたいな顔してる藤吉郎を見倣(みなら)え。








この時代の武家に"発想に至ることが不可能"なのは、


そもそも武家に『一定レベル以上の高等経済論』に


理解が無いからです。



むしろそんなモノ、この時代ではそんな知識は


商人ですらも持っていません。


………たとえ世界中、どこをさがしても。



つまり、思い至ることは不可能となります。




なお、答えは


『弾正忠家の財政予算に重大なダメージを与える事』



弾正忠家の場合は、どんな手段であれ


熱田と津島の商業機能を完全崩壊させることです。


これをすれば策は停止します。


銭の出所を潰せば良いワケです。




ただし、現状において直接攻撃・武力行使で


これを行うのは100%無理ですから?



つまり、『二つの商業都市を経済破綻させる』


コレしかないわけです。


外部要因・外的干渉によって。



コレは当時の知識・技術レベルでは不可能です。






マメ知識




『物忌み』




いわゆる"穢れ"をさける行為。


殺生や肉食がメインとなる。


モノによってはよりキツイ内容となる。



神様・仏様と接するような重要な祭祀や、


葬式などで行われる。





『覿面』



効果や結果が即座に現れることを指す。



実は本来は仏教用語。


弟子や修行僧が、高位の高僧に出会う事を表し、


"まともに見る"や"目の当たりに見る"


という意味だった。




『明晰』



明らかでハッキリしていること。


"明"にも"晰"にもそういった意味がある。




『見倣う』



"習う"と違って、"倣う"には学ぶという意味の他に


"マネをする"という意味がある。


("模倣"の"(ホウ)"やね。)



(まずは)マネから始めて学べ、


というニュアンスがより強くなる。





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― 新着の感想 ―
[一言] この小僧一人で経済戦争やってるもんなぁ······w
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