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鵬、天を駈る  作者: 吉野
6章、『○○○○○』
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第118話 熱田にて、ひと騒ぎ(後始末編)




今回の話は、タイトル通りに『後始末』です。


といいますか、子供がバカ騒ぎすると


その跡を大人が後始末をします。



致し方なし。









数日すると、いつぞやのアンちゃんが


頭をタンコブだらけにして


親と共に頭を下げにやってきた。





(しき)りに頭を下げる親父殿。


何とも悪い気がするので手を振って止めた。





いえいえ、


此方(こちら)こそ命を助けられた身でございます。



息子殿の為に買い求めた槍は、


()()()()()()()()()()()にございます。



(まさ)に武功の恩賞に相当する物ですから、


(こころよ)くお受け頂ければ。




私の命の対価にございます。


…………是非ともお(おさ)めください。




その様にこちらから深々と頭を下げると、


彼方(あちら)様もようやく納得してくれた。




―――――この時代に()いて、


命の対価ほど重いモノは無いからな。



このセリフはある意味、"殺し文句"だ。


充分な、存分すぎる説得力が在る。






そうですねぇ、


しかし流石は武門の子ですな。


虎の子は虎、鬼の子は鬼でございます。



たった一息、瞬く間に


()()()()()()()()とは。


こちらも呆気にとられました。




しかもその曲者の一人が、


かの"河尻 与一"とは。



こちらも後で知ってひどく驚きましたとも。




即ち、息子どのは


ちっぽけな小僧の命を救っただけでなく。


織田大和守家の悪しき企みを事前に


打ち破って見せた訳です。



熱田の命運を救って見せたのですよ。





まさしく大殊勲(しゅくん)です。


誰にも文句など付けられませんよ。







――――おお!


初陣だったのですか?


それは頼もしい。


それはそれは、(あやか)りたいものですなあ。



『佐々』の家は豪傑揃い。


まことに安泰ですなあ。



………(ふみ)に頼るウチとは大違いですよ。


ふふふ、お恥ずかしい。







お困りの事が有りましたら、どうぞ一声を。


それが(かな)うことでしたら、


いくらでもお力を貸しましょうとも!!






実際に助けられたのも事実であるため、


親父殿を大きく持ち上げておく。



彼の父親も、もう70歳前後だからな。


十四歳の三男なんて、孫も同然だろう。




まだ幼い三男の未来が明るいとあれば、


安心だってするだろうさ。




…………………特にこの親父殿。


史実ではあと4年ほどで亡くなるからな。



―――――孝行しとけよ、アンちゃん。






若造同士で話すこともあるから、と。


もういい歳の親父殿を送り出す。






「―――――どういうつもりだ。


つまらん情けなど、受け取らんぞ?」



深々と頭を下げての見送りの後、


後ろ頭へそんな風に問いかけられた。






ゆるりと頭を上げて、アンちゃんを見上げる。




なあに、嘘も方便と言うでしょう?



肩を(すく)めて、そう返した。






村田の店、奥まった書斎。


大体において対個人の会談に使う場所にて。




……………まあ、何ですね。


色々とケチを付けたい所も在るでしょうから、


順を追って話しましょう。






そもそも事の起こりは半月程前に(さかのぼ)ります。




どうも熱田の町に、得体(えたい)の知れない連中が


(たむろ)するようになったわけです。



買い物も商いも、熱田(もう)でをするワケでもなし。





まあ………………純粋に怪しい連中ですねぇ。




当然に熱田上層部でも、


コイツらの注視・監視を始めます。






しばらくの監視の後、


連中が大和守家の手の者とわかります。


しかもその一人が"河尻 与一"です。




どう考えても厄介事の匂いしかしません。






……………そういう事で、連中が動く前に


此方(こちら)から積極的に、


罠にかけてやる事にしたのですよ。




連中が弾正忠家の要人を目で追っているのは


とうの昔につかんでいましたから。







熱田の中でも人を伏せるに良い場所を。


人目の少ない、襲撃に適した場所を。


そして逆撃にも適した場所。


最後に当方の安全の確保が出来る場所を。




散々に想定をした上で、満を期して


(おび)き寄せるために少ない護衛で


気晴らしを兼ねてブラついていたわけですね。






「……………………それは、何だ?


――――――俺は邪魔しただけか?」




すっかり(へこ)んだ様子でアンちゃんが(つぶや)く。



無駄に絡んだだけでなく邪魔までしたとか、


本当に笑えない話だ。



面目丸つぶれもいいところ。


げんなりとしてしまった。




――――いえいえ。


アレのお陰で、芝居がかった此方(こちら)のブザマが


大きく緩和(かんわ)されていたと思いますよ。



連中の疑いも晴れたでしょうね。


襲撃の強い後押しにもなったと思います。



………ずいぶんと目立ちましたしね?







まあ、感謝していますよ?




その槍と今回の功名とは、


今回の謝礼と思って下さいな。





佐々 内蔵助 どの?










ここまでの大騒ぎとなった以上、


親は絶対に出てきます。




といいますか、アンちゃんを追いかけて


(ニセ)経緯(いきさつ)』を使いの者に話させたワケです。



………その通り。


いつものヤツ、"脱け殻"です。


アンちゃんの初陣と名誉を飾るためにも、


本当の事は話せないですからね。



『エゲツネェ』と思って頂ければ狙い通りです。




……後で本人が親に白状する分はノータッチです。


後は野となれ、山となれというモノです。





マメ知識




『タンコブ』



実は医学的には怖いタンコブ。


頭の皮膚の下で内出血した血が、


固まりながら頭皮を押し上げるモノ。



軽度ならともかく、重度だとかなりヤバイ。


病院へ行きましょう。


頭で内出血とかゾッとしない話である。





『河尻 与一』



清洲城の、織田大和守家に所属する武将。


現時点で清洲城は、


尾張守護の名門"斯波家"を傀儡とする"大和守家"を


更に傀儡とする"坂井 大膳"という


グダグダな二重傀儡の政治体制となっている。



河尻与一は、坂井大膳の一味。


結構な大将首である。






『佐々 内蔵助』




正式名称を『佐々 内蔵助 成政』


織田家でも有名武将の一人である。



前回の"内蔵助"だけでわかった人は、尊敬します。


いや、ホントに。



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