第107話 1548年、第零次大戦略構想
第零次、つまり原初の計画です。
主人公の最初の戦略プランとなります。
第零次大戦略構想。
これの構築は、1548年まで遡る。
大戦略とは戦略の更に上。
戦略というモノを組み上げるための設計図。
Aという大目標を立て、これに向かうという指針。
これが大戦略だ。
このAという大戦略を叶えるために、
何をどのような過程でどのように行う。
戦略で肉付けをして、Aというゴールを目指す。
内政・外交・策略・軍事を総動員して。
ちなみに戦術とは、
短期において勝利条件を満たすための戦法を指す。
戦術を重ねて戦略の達成条件を満たすのだ。
戦術で勝っても、戦略に反しては意味がない。
戦略を満たしても、大戦略から離れれば無意味だ。
……………話が逸れたな。
1548年の構想。
これに基づいて私が翌年に最初に行ったこと。
太 原 雪 斎 の 抹 殺 だ 。
ここでこれを行った年、1549年に注目してみよう。
1549年の時点で雪斎を消すことが重要なのだ。
ここまで言うと歴史好きにはピンと来るだろう。
この時点での雪斎の退場は、
今川に絶望的なまでの深刻な事態を引き起こす。
―――それこそが。
1554年、甲相駿三国同盟の締結。
甲斐の武田、相模の北条そして駿河の今川。
この三国が結んだ同盟の締結が不可能となるのだ。
これを先導した雪斎の死によって。
この同盟が成立しない場合、以後の三国の動きは
全く違うものとなる。
北条は関東に全力を向けることが出来なくなる。
一歩間違えれば、
上杉謙信辺りにガタガタにされかねない。
コレは本気で存亡の危機になりかねない。
武田は信濃攻略が大幅に停滞する。
いわゆる"砥石崩れ"が1550年。
下手をすれば、折角上手く行っていたはずの
信濃攻略が停止してしまうのだ。
雪斎の死により、今川との同盟は座礁する。
この混乱により、村上家の戸石城攻めが立ち消えし
"砥石崩れ"そのものが無くなる可能性もあり。
今川にとっても死活問題だ。
因縁のある北条、野望剥き出しの武田。
こんな連中と接したまま、放置したまま
弾正忠家と本格的なドンパチなんて出来ない。
やった途端に武田辺りが喰い付いてくるのだ。
武田は海を何よりものぞんでいるから。
よって対弾正忠家戦略を一からのやり直しとなる。
つまり1549年の、この時点での雪斎の死とは
三国とその周辺において情勢の激変を。
『 歴 史 の 改 変 』 を 行 う こ と を 意 味 す る 。
これは、今後において非常に重要なことだ。
これが出来るか、出来ないかで指針は変わる。
出来るなら構わない。
それは特に困らない事を意味する。
問題は、出来なかった場合。
特に異様に強引に、不可思議な条件によって
これが妨げられた場合だ。
これは、『歴史の修正力』というモノが
存在することを意味する。
つまり、
"本能寺の変"は絶対に回避不能となるのだ。
そして、未だ会ってはいない藤吉郎が狂気に走り
江戸時代が到来することもまた不可避となる。
この状態は私にとっては最悪のモノ。
とてもやってられない。
1549年の試みは、
『世界』に対する試金石であったのだ。
そしてもう一つ。
これもまた、一つの実験だ。
何度も言うが、この時点での雪斎の死は
未来において
甲・相・駿の三国へ深刻なダメージを与える。
そうであるなら、もしその事を知るモノが居るなら
そのモノは全力でそれを止めに来る。
この事は、もしこれら三国において
不自然な動きをした者がいたならば。
その者は、
『私と同じ、内政系の転生者・転移者である』。
コイツの存在確認である。
私という"前例"が在るのだよ?
なぜ二人目、三人目が居ないと言える?
むしろ居ると確定的な仮定していないと
いつか痛い目を見るだろう。
だが、現時点でわかっていること。
少なくとも現時点では
物質系チートや内政系チートを行っている人間は
存在しないこと。
物質系チートとは、
物理法則を全無視で"無から望むモノを得る"事。
内政系チートとは、
現時点で"世界に存在する筈の無いモノを持つ"事。
どちらも行われていない。
これが実行された場合、
市場経済が大きなパニックを起こすのだ。
特定品目の価格帯が激変。
突発的なインフレ・デフレ。
完全新規の新商品。
聞いたこともない商人の勃興。
高名な有名商人の突然の没落。
これらが発生しうる。
これらが発生していないため、今のところは
チート系は存在しないことが確定する。
チート持ちというヤツは、
それを"貰った"ヤツは使いたがるのだ。
自分が築いたモノでないから。
この末世の世で生き抜くためには。
平和な世に生きてきた者は、使わざるを得ない。
1549年の試みは、この二つを炙り出すモノだ。
まあ、"知らなかった"、"思い付かなかった"
などという凡ミスも可能性にはあるが。
もしくは最初から雪斎の後釜を狙う場合とかな。
こういう連中は以後の動きが見える。
そこまで気にする必要はない。
この二つを確認するまでは、私は動けない。
動くことが出来ない。
そのための再三再四の"脱け殻"だ。
―――――ん?
私はどうなのだ?
私にチートは無いぞ。
私に在るのは経験値だ。
知ってることをやっているだけだよ。
知らないことは、なんでもは出来ない。
まあ、ある意味で私のやっているのは
"システムチート"だな。
内政チートの亜種にあたる。
世界に新しいシステムを持ち込むこと。
これが時代的に画期的であればなおよい。
商品でないから、永続的に運営できる。
常に最先端を走ることが可能だ。
"摸倣"されることはあったとしても
"飽きられる"ことはないのでな。
とは言うものの、
これは旧態システムと必然的に対立する。
これを決定的に対立させないように運用するのが、
『プロフェッショナル』というものだ。
最後に、
私が本当に警戒しているモノが居る。
それが"無双系チート"。
単独において全てをひっくり返すモノである。
考えても見るがいい。
連中は99%まで確定した事を全部潰してくる。
たった一人で卓袱台返しをしてくるのだ。
ハッキリ言って、コイツは私の天敵だ。
致命的に相性が悪い。
無双系チートというヤツは、
戦術においては無敵・不敗である。
戦術・戦略を積み重ね勝利を創る私と正反対だ。
ゆえに積み重ねた全てを喰い破って来る。
ファンタジーとは違い、人間しかいないこの世では
絶対的な、神にも等しい力を持つのだ。
ただし、コイツは非常に目立つ。
人間しかいない世であるがために、
ヒトの目に余るのだ。
―――――――歴史とは、本当に大切だな。
こういう連中にもキチンと対処法を残している。
戦術において無敵なモノに対応するには、
戦略をもって攻めればいいのだよ。
世界において
初 代 無 双 系 チ ー ト
項 羽 の 末 路 を 思 い 出 せ 。
本作品では第4話で設定として触れてますが、
"あちらの世界線"では
『歴史の修正』は発生しません。
ですがそれを知らない主人公は検証実験を行う。
雪斎の退場という、歴史的な大改変によって。
同時に関係する三国に"転生者"が居ないかの
炙り出しを行う。
結果は皆様もご存知の様に、
どちらもノーリアクション。
歴史に対する"抑止力"もなく、
"今のところ"転生者も反応しないという結果に。
転生者については居るとも居ないとも
断言をいたしません。
(作者自体がまだ考えていないとも言う)
ちなみにですが、"抑止力"が有った場合。
主人公の場合は、"運命に立ち向かう"等しない。
この時点で『世界』に対して損切りをして、
『世界史』に影響のないグアムあたりに建国して
悠々自適に引きこもります。
※少なくとも、自分が死ぬまでには
"抑止力"の影響がないため。
マメ知識
『大戦略』
某戦略ゲームではありません。
この言葉は本当にあります。
国家としての大きな目標のことであり、
これを達成するために政権トップは
政・経・軍・謀に外交、全てを結集させる。
これの妙点は、自国利益を余りに追及しすぎると
逆に自国に損益を与えること。
世界情勢や他国から見た自国の立場なども
考えなければならない。
『雪斎の死』
そもそも三国同盟は雪斎の渾身の策。
この策が成立したのは雪斎だからこそと言われる。
雪斎だから説得ができ、雪斎だから信用された。
雪斎が消えると同盟締結は消滅してしまうのだ。
つまり同盟が成るまで、雪斎の身は
主である義元よりも重要性が激しく高くなる。
そんな時期に、なんで対織田の最前線にいるんだ。
この坊主は?
本人に自覚がなかったからか?
自覚があっても将兵はいても将帥が少ないために
前に出ざるを得なかったか?
いずれにしても史実では無事だったが、
本作品ではキッチリ狙い撃ちされてしまった。
『砥石崩れ』
これの発生は1550年。
武田信玄が信濃の村上義清の城、戸石城を
力攻めして大敗した事件。
武田7000に対して村上500。
この大差の戦でも武田は大敗してしまった。
この戦で武田は対村上戦略を変更。
この戸石城は真田幸隆によって謀略で落とされる。
『転生者』
転生者というものには、無双型と内政型がある。
更にそこから異能チートの有る無しで分かれる。
一番マズイのが物資・兵器の大量生産タイプ。
コイツは本物の反則であり、
数の暴力も経済封鎖もまったく通用しない。
封鎖されても自給自足が可能なのだ。
敵に回すとコイツが一番、質が悪い。
超特殊系の特化謀略以外の手段がなくなる。
知識・物資の持ち込み系チートは案外に簡単。
コイツには経済封鎖が覿面に効くから。
経済の暴力が一番効果がある。
主人公と相性が一番いい。
敵としても、味方としても。
結構に厄介なのが無双系チート。
コイツは対人で直接戦闘をすると100%勝つ。
敗北割合が完全な0%なのだ。
コイツを潰すには、戦闘をさせない事、しない事。
ひたすら逃げ回り、
戦闘以外の要素で打倒するしかない。
"劉邦"と同じ手を使うのだ。
主人公は特殊なタイプ。
知識チート系に分類される。
コイツの場合、自己ステルスを高度に徹底しており
転生者としての存在を発見することが出来ても
本人を特定することが限界まで不可能。
しかもデコイを多数立てているため悪質すぎる。
そうやって探している内に察知され、
特定できないまま返り討ちにあうことになる。
本当に狡猾なタイプである。
・・・・むしろ悪役じゃね?
チート転生者というヤツは、
第三者として見たり読んだりするのは良いのだが、
敵として相対すると本当に厄介極まりない。
小説の敵役が"バ、バカなぁー!?"
なんて言うのが本当によくわかる。
だってコイツら、"世界のルール"を破るという
最悪の反則を使ってくるのだから。
『初代無双系チート』
楚の"項羽"。
コイツには、転生者の疑惑がある。
どう考えても物理系の無双チートなのだ。
どんな相手でも、
どんな状況でも、
そしてどんな大軍でも全部勝つ。
何だコイツ、ムチャクチャだわ。
"劉邦"もコイツには匙を投げた。
対応策はA地点に誘導し、誘導している間に
それ以外のB・C・Dなど他の場所で全部勝つ。
そうして時間を稼いで、
無双チートとその一味"以外の全て"を
味方に付けることである。
そうやって"垓下の戦い"で
完全な孤立無援の状態にして絶望させた。
無双チートは、絶望させるしか勝ち目がないのだ。
コイツら、やる気が戦闘力に直結するから。
・・・・・ここまで長々と説明した以上、
転生者の登場は"ほぼ"無いと思ってください。
作者もそのつもりです。




