第11話 安祥城、奥の間にて
坊さんが城に山ほど居る説明はどこへ行った?
その返答の回になります。
「…………ずいぶんと話題がわき道へ逸れて
しまいましたが、外に居る僧たちの話でしたな。」
仕切り直しに、白湯と何か摘まむ物を頼む。
小皿に来たのは、浅く漬けた………香の物?
ひとつ齧ってみる。
うん、なかなか。
「彼等については以前、殿に策をお頼みした時に
お話しておいたのです。
策が成った時には共に連れて来られる様に、と。」
お願いしておいたのだが………
ジト目で見る。
「少々、多すぎではありませんかね?
どれだけ連れてこられたので?」
「うむ、近隣の各宗派からそれぞれにな、
…………合わせて1000人だ。」
殿が飄々と答える。
他人事みたいに言わんで下さいな。
「――――――――――ずいぶんと、
……………連れてきましたなぁ。」
本当にムチャするな………
どれだけ金がかかるか分かっているのか、この人は。
ゴホン!!
わざとらしい咳ばらいがされる。
「…………………それで、彼等は何のために?」
いつまでも進まない話ににしびれを切らしたか、
平手様が話を促される。
何となく殿と顔を見合わせた後、
肩を竦めて答えた。
「初七日です。
荒川山で荼毘に付した太原雪斎と松平・今川兵らの
菩提に、です。」
荒川山で炭となった連中を弔ってやるためだ。
「……………………初七日?奴らに?」
目を瞬かせながら平手様が
繰り返す。
顔からはありありと言いたいことがみえる。
―――――なぜ、敵なぞにそんなことを?
と、
「―――お前が言い出した事だ、聞かせてやれ。」
こちらに話を振らんで下さいよ。殿……
と、言えれば良いのだがね。
やむを得ん。
「以前に殿には説明しましたが、
理由はいくつか有ります。」
「まずは、三河衆・今川衆の心の内を
攻めること。」
白湯をひと口ほど啜る。話はちと
長くなる。のどを滑らかにしておこう。
「三河には先の戦で討ち取られたものが将・足軽を
問わず多くおります。
彼らの家族・郎党の中には我等、織田の家を
恨みに思うものも今後出てきましょう。」
それが戦国の非道な習い、であってもだ。
こういうものは大なり小なり、未来に遺恨をなす。
「故に彼らを大々的に、深く、篤くに弔います。
『忠勤の士』・『三河の誉』・
『侍の鑑』そして
『叶うなら味方として会いたかった』………
こう褒めそやす事で、残された者に連中の死が
『犬死でない』・『敵も認める』・『名が残る』
……と思わせて恨みや溜飲を晴らします。」
死して名を残す。
武士というのはそういう事に命を懸ける所がある。
せめて栄達、成らぬのならと。
「勿論、これで
全てが消え果てるとは思いも期待もしません。
ですが、故人を想ういくつかの家はこちらに
『恩』や『義理』を感じましょう。」
少なくとも、三河の一部が敵でなくなる可能性が
出来る。
これは大きい。
「別段に思われなくてもいいのです。これで
彼等には、『建前上、織田に恩義』が生まれます。
『何の縁もない余所者』よりも、
『恩義のある家』の方が
彼らが織田に下るための理由・名分になる、
とは思いませんか?」
「………………なるほどな。」
平手様に三郎五朗様も唸る。
なんせ、織田家と三河はしばらくぶつかっていた
間柄だ。少なからずに悪い因縁がある。
頭を下げるにもそれなりの大義名分が必要に
なってくるものだ。
半端に長くなってきたので話を分けます。
マメ知識?
『武士の"面目"と"大義名分"』
当時の武士はめんどくさい。戦を利益闘争だけで
なくメンツのためにしたりする。
後者の場合、利益0だから当然タダ働き。
得られるのは本人の満足だけ。
当然こんなことばかりをしてると大赤字になり、
戦など止めたくなるが…先に頭を下げたほうが
負け…といったメンツの問題で止めるための
大義名分が必要になってくる。




