ロボット死闘人「石狩の福次郎」第18回
ロボザムライ駆ける第2部
ロボット死闘人「石狩の福次郎」
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yama-kikaku.com/
ロボット死闘人「石狩の福次郎」第18回
第3章 復讐(2)
「中西の御前。やはり、あんたは許しちゃおけない。あの御用金襲撃の折のロボット皆の
恨み、受けていただきましょう」
「や、止めろ。福次郎殿、あれは俺も上からの命令でやらされたこと。俺が命令を下した
のではないのだ」
「この期に及んで白々しいことをいうのではない。私の超能力、お目にかけよう。よく見
ていろ、桃太郎」
福次郎は横目で桃太郎を睨むが、変に桃太郎は自信ありげなのだ。「うっ…ぐふっ…」
中西の御前の頭がゆっくりと振動しはじめ、頭の小部品が次々と剥がれ、粉々になって
いく。福次郎は念動力で、頭の部品を一枚一枚剥がしているのだ。
「止めろ、福次郎」桃太郎が叫んでいた。
「それ以上のことは止めろ。止めないと、お前は黒手組全員を相手にすることになるぜ」
「百も承知よ。どうせレイガン島で捨てた命、惜しむことはないんだ」
桃太郎は自分の危険は、まるで恐れてはいない。
「ぐわっ…」ずぶりと、中西の御前の頭の上半分が吹き飛んでいた。 いくらなんでも頭
脳の半分くらいを吹き飛ばされれば、人格が消し飛んでしまう。中西の御前のメガネが転
がり、次いで体も仰向けに倒れ、ぴくぴくと蠢いている。
「思い知ったか、俺の恨み」
言葉を投げ付けるが、もう中西の御前は意識はないのだ。そしてゆっくりと、福次郎は、
桃太郎の方へ向き直った。
「さあて、今度は桃太郎。お前の番だ。覚悟しな」
桃太郎は下を向いたままだ。体が小刻みに動いている。やっと怖がっているのかと思う
福次郎だったが、
「くっ、くっふふふ」
と、笑い声を上げて、桃太郎は顔を向けた。笑っているのだ。恐怖のためではなく、心
の底から笑っている。
「どうした、桃太郎。俺の力に驚いたか」
『ふっふっふっ、福次郎よ。ようやく俺の力まで追いついたらしいな』桃太郎の声が、直
接福次郎の心に届いていた。
「き、貴様も超能力ロボットだったのか」
『今頃、気付いたのか、福次郎。いまだに本当のことを覚えてはいないようだな』
「本当のことだと…」
『そのお前の心理ブロックを、俺の力で取り払ってやる』
桃太郎は首を傾げた。恐ろしい表情をしている。
「くぐっ…」
思わず、体をのぞけらせ、膝を屈した。頭脳が万力で締め付けられるように痛かった。
「どうだ、福次郎。まだ思い出さぬか」
「うぐっ…」
福次郎は床の上をのたうちまわっている。瞬間、福次郎の別の人格が、再び浮上してい
た。
「負けるんじゃない、福次郎。桃太郎ごときに…」
「が、福次郎、俺はあやつの超能力に…、くくっ…、頭が割れそうなのだ」
「仕方がない。俺とお前の人格を合体しよう」
「合体…、くくっ、仕方があるまい」
「早くしろ、そうしないとお前の基本的な人格が崩壊してしまう…が、福次郎、覚悟はい
いな…」
「何だって」
「俺とお前が合体した瞬間、お前は後悔するかもしれんぞ。俺、つまり自分の過去を知っ
てしまったな」
「か、かまわん。この桃太郎には負けたくないのだ」
「ぐふっ……」
福次郎との会話の間にも、桃太郎の心理攻撃の手筈は休まらず、福次郎の鼻から生命液
が吹き出して来る。次は鼻の穴から栄養液が…、次々と福次郎の頭の流通管が吹き飛ばさ
れているのだ。
「始める」
別の福次郎は言い放った。
急激な墜落感が、福次郎を襲っていた。まるで巨大な暗渠が目の前に広がり、そこに吸
い込まれた感じだった。過去記憶が次々と急激に広がり、福次郎の頭をはちきれそうにし
た。桃太郎の攻撃と、福次郎の複合人格の合体で、福次郎の体は床に転がり、気絶しそう
になった。
「どうだ、福次郎。思い出したか」
横たわる福次郎の体のうえに、桃太郎が立ち、勝ち誇った笑みを浮かべている。一瞬、
福次郎は桃太郎の前に跳ね上がり、すっくと立っていた。桃太郎を指さす。
「思い出したぞ、桃太郎。俺とお前が新鮮組だったことをな」
福次郎の目はまるで燃え上がっているように真っ赤だった。
「福の字、お前が伝説のパワードスーツを見つけてくれたお陰で、仕事がやりやすくなっ
たぜ」
福次郎は脱ぎ捨てたパワードスーツの方へ走ろうとした。
「おっと、そうはさせないぜ」
桃太郎がすばやく念動力でスーツをロックしてしまったのだ。福次郎の念動力でも開か
ない。
「お前風盗という形でな、パワードスーツを使ってくれたお陰で、我々は確信を得たのさ」
「それは…」
福次郎はしゃべる前に分かってしまったのである。彼らが新鮮組として、西日本へ潜入
した目的の一つは、レイガン島が過去の武器庫であり、まだいくつかの武器が残っている
のでしないかということを調べるためである。
冷子星による霊戦争後、地球にハイテク武器は、存在しないはずだった。が、福次郎が
装着していたパワードスーツは、そのハイテク武器の一つだったのである。
過去、悪友同志であった福と桃は、関東無宿人として、暴虐の限りを尽くしていた。時
は霊戦争後のことであり、まだきっちりした政府が確立されていなかったのである。ある
とき、盗みに失敗した二人は、身分の高そうな侍の人間に会ったのだ。二人は無論死を覚
悟していたのだが、その下膨れのふくよかな顔をした中年の侍は、こう言った。
「どうじゃ、二人とも、俺に命を預けぬか。悪いようにはせぬぞ」「あなた様は、どちら様
で」
おずおずと桃太郎が尋ねていた。
「俺か、俺は名乗るほどのものではない。が、まあ、教えておいてやろう。徳川公慶じゃ」
「それでは、あの徳川の殿様で…」
へえへーと、二人は後ろ手に特殊な鎖で縛り上げられたまま、額を地面に擦り寄せてい
た。
徳川公慶は、まだこの当時は東日本都市連合の議長職には就いていなかったが、東日本
随一の政治家としての評価は立ちつつあったのである。が、彼は根っからの政治家であっ
た。西日本と東日本が分割されている状況を鑑み、東日本の立場を強めるためのいくつか
の手を打って置いた。その一つが新鮮組なのである。
徳川公慶は東日本が西日本の上位に立つための企てを考えており、故事に習って犯罪ロ
ボットの東日本の草として、西日本へ少しずつ送り込んでいたのだ。過去の経歴が表立た
ないために『新鮮組』の面々は心理ブロックを掛け、正常なロボットになりすましていた
のである。
但し、徳川公の命令があれば、そうしなければならない。 桃と福は普通の生活を営ん
でいたのだが、ふとした切っ掛けから、西日本の犯罪組織『黒手組』の仕事を引き受けて
しまったのである。
『黒手組』の頭領ははっきりとは分からぬ。ただ、命令を与えていた中西の御前が、頭
領でないことは確かだった。
さて、桃太郎のことについて、述べておこう。まだ、福次郎と出会う前のことである。
ロボットとして制作された桃太郎は、日本古来以降の伝統をもつ語り部、砂川家に家令ロ
ボットとして養われていた。砂川家には秘戯があり、それが「嘘部」なのである。
いわゆる流言飛語を流し、世情を混乱させる、今で言う口コミュニケーションのプロフェ
ッショナル集団の長であったのだ。
口技として正式に皇室にも所属していた「嘘部」の砂川家は、初めてロボット出ある桃
太郎にその秘戯を授けたのであった。天性の嘘つきの才能をもっていた桃太郎は、教師の
砂川捨磨も驚くべき長足の進歩を遂げ、ロボットとして初めて嘘部の家元の名取となった
のである。
そういう意味で、嘘から生まれた桃太郎、人呼んで「口技の桃太郎」または「舌技の桃
太郎」である。桃太郎はその字から、自分なりの技を作り上げていた。先刻の
ロボキックと同じように、口内に濃薬を製造できる内蔵タンクを作り、人々によっては口
しぶきによって相手を倒せるような技を作り上げたのである。二層あるA液、B液が複合
されれば、恐るべき激液となるのである。まさに口先だけの男となったのである。
舌技にも工夫を凝らし、舌先から寸鉄を投げるとか、舌を丸めて吹き矢とするなど、恐
るべき舌技を自分で鍛練していたのであった。福次郎と組み、闇の死闘人として、数々の
暗殺をこなしていたおり、こう言ったそうである。
「この人でなし」
「そうじゃ、拙者は人でない。ロボット死闘人じゃ。口と舌によって、人を殺める口技(く
ちわざ)、舌技の桃太郎だ」
と、六方を踏んでいたというのである。
二人の乗った船は、乗組員が死んでしまうか、騒ぎに乗じて逃げてしまったので、暴走
していた。
二人の争いは火花を散らし、暴走する船のうえで、なおも繰り広げられていたのである。
「福次郎、しっかりしねえか。お前があのパワードスーツを持って、東日本へ帰れば、徳
川公は大喜びだ。なぜそうしないのだ」
「そいつはな、俺の心がな、許さないのよ。ご老公にお会いして、俺は正しいロボットと
して生まれ変わってのだからな」
「正しいロボットだと、御託を抜かすな。お前は何か、ロボットの国を作るという妄想に
取り付かれたのか。あの『ろ号』とかいうおんぼろロボットに洗脳されたのか」
「問答無用だ。パワードスーツのことを知るお前をたたき殺してくれる」
「どうやら福の字、俺と勝負せねばならぬようだな」桃太郎は覚悟を決めた。
「望むところよ。よいか桃、俺は昔の仲間だからといって容赦はしねえよ。このような地
獄を見せてくれる仕掛けを作ったのはお前だからな。ボルトの一本、一本、はがねの一枚、
一枚まで剥がしてやろう」
「いいか、福。お前の得意技はとんと承知している。その準備もせずに俺はお前の前に姿
を表したとでも思っているのか」
「何だと…」
いやな予感がした。福次郎の得意技はつぶて投げである。相手ロボットの中心部ICを突
き進んでしまうつぶて投げでなのである。
が、自分の中心部分にあるICの位置を少しでもずらしていたり、別の防御方法を考えて
いたとしたら、これは容易ならざる戦いになるだろう。
ロボザムライ駆ける第2部
ロボット死闘人「石狩の福次郎」
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yama-kikaku.com/




