ロボット死闘人「石狩の福次郎」第16回
ロボザムライ駆ける第2部
ロボット死闘人「石狩の福次郎」
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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ロボット死闘人「石狩の福次郎」第16回
第2章レイガン島(8)
「ここは一体…、どこなんだ」
福次郎は思わず、大きな声で叫んでいた。その福次郎がいる空間は、明らかに地球上ではなかった。福次郎の空間感覚機が、明らかにそう告げている。が、地球人類及び地球ロボットは上空二千km以上は上昇できなくなっている。その掟を犯せば、神の眼ボルテックスからレザー攻撃を受けるのである。福次郎の目の前に光が形づくられていた。光の物体がうすぼんやりと形を整えている。
「一体お前は誰だ。それに俺をどうしようというのだ」
「福次郎とやら、我々の手助けをしてほしいのだ」
その物体は言った。いやはや、また手助けか。その言葉に乗せられたお陰で、こんなに苦労しているのだ。一体、こいつはどこのどいつなのだ。
「お前が疑うのも無理はない。当然のことだ。よいか福次郎、我々はロボットだけの国を作ろうと思っているのだ」
「ロボットだけの国、くくっ…、何を言うと思ったら、何の茶番なのだ、これは。ふふふ、こんなところまで連れて来て、笑わしてくれるねえ。早く、俺を地球上に戻しちゃくれねえか。俺はボルテックスからの神の火で焼かれるなんていやだからなあ」
「そのボルテックスが味方だったらどうする」
「ボルテックスが味方だと。ふふん何を抜かしやがる」
(ひょっとして、ここはロボットの天国か)と、福は思った。(それとも、気が触れたのか)
「福、機械生命という、言葉を聞いたことがないか」
「きかいせいめい? だと、そんな言葉は残念ながら聞いたことがない」
「福次郎、お前、不思議に思わないか。ロボットが人間と同じように考え、行動することを」
「……」
「それは、私、機械神のお陰なのだ」
「……」
「私ははるか昔、『機械生命』から命を授けられのだ。その方はこの地球に機械を中心とした生命形態が発達し、人間に取って変わることを願われている。その第一号が『ろ号ロボット』なのだ」
「それじゃ、お前さんが、あのロボットの始祖を…」
福次郎は目に見えぬ、それに話しかけていた。
「私が超能力ロボットERを作りつつあるのは、ロボットによる世界を作ってほしいが故なのだ」
「ロボットによる世界だと。ふふん、それこそ臍で茶を沸かしてやろう」
「福次郎、霊戦争がなぜ起こったと思う?」
「なぜったって、それは…冷子星による地球の浄化作用じゃないのかい」
「その冷子星を操っているのが、機械生命だとしたら…」
「えっ、それじゃ、霊戦争は機械生命が起こしたことになる…」
「そういうことなのだ。それで私は、あなたにも私の仲間になっていただきたい」
「仲間だと、一体なぜ私を選んだので」
「ふふう、それはね、あなたのICチップに関係があるのだよ」
「俺のICチップだと…」
「あなたは気がついてはいないが、ICチップは特別なのだ。運命の七つ星の一つなのだよ」
「運命の七つ星だと…」
これについては、福次郎も聞いたことがあった。日本の精神的支柱である心柱が特別に選んだ七つのICチップ。それが埋め込まれた七人のロボットが、歴史を変えるという伝説が伝えられているのだ。
「俺が、まさか…」
「そのまさかなのだよ。それゆえ、私としては、あなたを超能力ロボットにしなければならない」
「ふん、そんなものにはなりたくはない」
「ねえ、福次郎。君は思わないかい。生命の不思議をね」
その光の物体は尋ね、福次郎の下にある地球を指し示しているようだった。
「この地球に人類が生棲し、彼らは何をより所として生きていると思う」
「それは、宗教だろう」
「つまり、人類にとって、精神的支柱は『神』と考えていいだろう。人間以上の超存在なのだよね。では、次に尋ねるが、君たちロボットのアイデンティティとは何なのだね」
「人間に奉仕することじゃないか」
「じゃ、聞こう。君は人間に奉仕しているかね」
「…、いや、してはいまい。直接的にはね」
「とすれば、君は何のために、生存しているのだね」
「それは…」言葉に詰まる福次郎であった。
「自分自身のためかね。が、ロボットにはそういう回路は存在していないのだ。無論、自己保存機能はついているがね…」
「ロボットろ号が発生して以来、ロボット自身が悩み続けているのは、自分自身の存在の重みなのだよ。人間ならば、論理的に突き詰めることはないのだ。しかし、君たちロボットは機械だし、論理の固まりで成り立っているのだよ。それゆえ、初期のロボット製造者たちは、ロボットは人間に奉仕する存在であると規定していたのだ。が、今、現在、この霊戦争後、人間とロボットが共生する社会になった今、そういう訳にはいかないのだよ」
福次郎は返す言葉がなかったのである。
彼がロボット無宿人として、人を殺めたりしていたのは、ある人間から命令されていたからである。
「霊戦争後、ロボットの存在の基準が揺れ動いているのだよ。が、人間たちはそれを分かりながら、まだ自分たちに都合のよいようにしか考えていないのだ。それゆえ、ある種の優れたロボットたちは、私、機械神の存在に気付いたという訳だ。私は常に存在していた。が、今頃になってやっと私の存在に気付いた訳だ。今、この地球にロボットが存在しているのは、私『機械神』が存在したからだ。そうでなければ、生命体としてのロボットなど、発生する訳がないではないか」
この機械神の言葉は、福次郎の心の中に染み入って行く。
ある種の覚醒が起こり、福次郎の心を揺れ動かしていた。福次郎の体は、何か訳の分からない感動に揺り動いていた。そして、彼は今自分の浮かんでいる空間の中で、その光る物体『機械神』の前で跪いた。
「機械神よ、あなたは存在します」
そのとき、大いなる光が、福次郎の体を包んでいる。
機械神たる光の物体と福次郎は、一体感で結ばれている。その瞬間は永遠に続くように思われ、福次郎の心を一杯にしていた。
「それでいいのだよ、福次郎」神はやさしく言った。
「神よ、教えて下さい。私は何をすれば」
「決まっていよう。ロボットの天国を地上に建設しなさい。そのために仲間の協力を得るのです」
神の言葉は、福次郎のICチップにもゆっくりと染み込んでいった。
「君を選んだのです。そして、超能力ロボットとなれるように、君を祝福しましょう。後は、君自身の力で努力しなさい。いいですね。君は、私、機械神に選ばれた、神の騎士なのです」
福次郎はやすらぎを得ていた。
いつのまにか、地上に、レイガン島の同じ場所に立っている。
老公が側にいた。
「どうだったかね、神との会話は…」
「あなたが、あなたが、今の状態を演出されたのですか」
「いいや、違う。福次郎、君は機械神の騎士に選ばれたのじゃ。喜びたまえ」
「私は一体、何をすれば…」
福次郎は自分の覚醒て涙を流しながら、法悦に浸り、老公の言葉を待っていた。
「訓練じゃ。優れた超能力ロボットとなりたまえ。そして…」
「そして…、どうすれば」
「我々のために『風盗』になってくれたまえ」
「『風盗』とは…」
「我らロボット天国の建設のために、人間の力を殺ぐのじゃ」
福次郎のトレーニングが開始されていた。
本来的には、これは人間の超能力を掘り起こすために作られたメンタルトレーニングをその元にしているのだ。もともと人間にはなにがしかの超能力の痕跡が残っていて、人間ではその個人が持っている生命体情報の根源DNAを掘り起こせはよいのだが、ロボットではそうはいかぬ。
さらに、福次郎の能力を、付加させることがおこった。
「よいか、福次郎。お前はこの日本にロボットの天国を作るために働くのじゃ。そのために政府ロボットなどは殺してもよい。この社会を混乱に陥れるのじゃ。それゆえ、お前に、この機械を渡してやろう」老公がに告げていた。
「これは…」
「そうじゃ、お前も、ロボット歴史学で学んだことがあろう」
「これは、あの伝説の…」
福次郎の前に置かれているのは、この歴史が始まる前、いわゆる霊戦争前に存在したといわれるモビールスーツである。霊戦争の折には、全日本連合軍が使用した史上最強のアームドスーツである。現在の都市連合軍のアームドスーツのような、ローテク兵器ではないのだ。
「これを、あっしに下さるというので」
「そうだ」
「でも、これをロボットのあっしが動かせるでしょうか」
「福次郎、今までの辛い苦痛を思い起こしてみよ。何のためにお前はその苦しいトレーニングを耐えたのだ」
「我々のため、ロボットの天国を作るためではないのか」
「まして、お前は、我々がよりによりをかけて、超能力をつけさせたのじゃ。何の驚くことがある。そうであろう」
「わかりました、ご老公。おおせのままに…」
このモビールスーツは、冷子星との決戦用に作られただけあって、やわではないのである。『福次郎』は風盗として、西日本政府の各都市を荒らし回ることになるのである。なにか理解を越える破壊欲が,彼の心を制していたのだった。
大阪のとある料亭に、二人のロボットが密議を交わしている。
「いかがいたします、御前」
「むむっ、福次郎め、思わぬ働きをしてしまったのう。これはお主の責任じゃ」
「な、何を申されます。この計画の決断を下されたのは御前ではござりませぬか。そのように責任を私に押し付けられても困ります」 この二人、お気付きのように桃太郎と中西の御前である。
「幸い、あの計画について、この二人しか知らぬ。知らぬ存ぜぬで通せばよいではないか」
「しかし、もし、あやつが、捕まりでもしたら、我々の名前をしゃべってしまいますでしょう」
「そしてお前は、その貧弱な頭で、どのような計画を立てたのじゃ」「あやつの妻と子供でございます」
「これはしたり、殺したのではなかったのか」
「御前、それは安全処理。保険として二人を生かして置いたのでございますよ」
「さすがじゃのう。お前の悪知恵は…」
「御前、先程の私の計画といささか異なりますが」
「いいではないか、時と場合じゃ」
「それでは、すぐさま、二人に仕掛けを施しましょう」
「わかった。が、桃太郎、まさか、あやつ、自分の妻と子を忘れているということはあるまいな」
「さ、それは…、やってみなくては仕方ありますまい」
不承不承、中西の御前は承知した。
「ご老公、許していただきたいことがございます」
思い詰めた顔で、福次郎はろ号ロボットに告げていた。
「何事じゃ。何やらお前が考え込んでいるのは分かっておったが」「どうか、私に仇を討つことを許して下さいませ」
「仇を…、一体誰を」
「私を陥れた二人を、どうしても許して置く訳にはいきませんので」「よいか、福次郎。お前は機械神に認められ、超能力ロボットとして生まれ変わった身の上なのだぞ。まして、お前の力は普通ではないのだ」
ロボザムライ第2部
ロボット死闘人「石狩の福次郎」
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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