ロボット死闘人「石狩の福次郎」第11回
ロボザムライ駆ける第2部
ロボット死闘人「石狩の福次郎」
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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ロボット死闘人「石狩の福次郎」第11回
第2章レイガン島(3)
壁が破れ、部屋の中に、トラックが急に入って止まった。そこから、無頼のロボットたちが五人ぞろぞろと入って来た。先頭に巨大な男が一人。流石のお竜も、予想外の攻撃に言葉もない。
「ぐはは…、どうだい、俺たちの運転の腕は」
トラックから降りた男が言う。
「おお、これは、中々の美女ロボットではないか」
「こいつはひょっとして『ぼたんの家』のお竜ですぜ」
「おっと、お竜とやら、そのピアノから手を上げるのではないぞ」 大木ほどもある棍棒を、お竜の胸元にぐっと突き出していた。
「これが噂に聞くゴキブリ攻めのピアノか」
「そこにいて、ゴキブリに食われている男は誰だ」
その声に聞き覚えのある、福次郎だった。(あいつは確か…)
「お、俺だ。黄金の腕の福次郎だ」
「お前もこのレイガン島へ来ていたのか。俺は強力の伸太郎だ」
こいつは例のロボット盗賊団の内でも、力自慢のロボットであった。
「それでお前、どうして、こんな目に会っているのだ。何だ、入島早々、お竜にちょっかいでも出したのか」
「こいつは私の姉さんの敵なのだよ」
お竜が力自慢の伸太郎に言った。
「それ、お前さん方、こんなことをして、親分衆に対して申し開きができるのかえ」
今度は強い表情で、五人をキッと睨む。
「流石、七人委員会のお竜だ。強きだねえ。が、お竜さんよ、我々五人はね、お前さん方七人委員会の親分方の命令を聞く気はないのさ」
「何だって」
「よくよく聞いて見れば、ここは治外法権というではないか。犯罪人が犯罪人を統べるってのはおかしな話ではないか」
「それゆえ、我々は、早速この島から逃げ出す算段をしているところなのだ」
「ふっふっ、お前さん方も甘いねえ。この島から簡単に逃げられると思うのかい。この島にはロボット犯罪人が逃げられないように、特別の仕掛けが施されているのさ」
攻撃的に言うお竜だったが、そのお竜に伸太郎が好色そうな目を向けるのだった。
「そうさ、それゆえに、七人委員会の親分衆を捕まえて、その仕組みを知り、逃げ出そうという訳だ。それ、トラックの中をみない」 伸太郎はトラックを差し申す。
「お…、お竜、すまねえ…」
トラックの敗れ掛けた幌の中から、人工皮膚が紫色になったNO.4の権太がしぶしぶ顔を出した。どうやら、伸太郎を始めとする五人に、滅法痛め付けられたらしい。
「ははん、それでこの私の家を狙った訳だね」
「そういう訳だ。さあ、この島からの逃げ出し方を教えてもらおうじゃないか」
「お前たち、そう簡単に教えると思うのか」
「ふふう、だからさ、お前の体に聞こうという訳さ」
「な、何をするのさ」あがらうお竜。
五人掛かりで、お竜は縛り付けられて福次郎の側へ、さらにNO.4の権太も一緒に。
「さあ、お前たち、白状して貰おうか」
仲間の一人の優男が、ピアノの前に座った。
「さあ、どんな曲がお望みかな」
「ぐわっ、止めろ。止めるんだ。お前ら、この島の秘密を知ったものは生きちゃおれないんだ」権太は叫んでいる。
「おいおい、俺の縛りを解いてくれよ。俺も一緒にゴキブリの餌になってしまう」福次郎が言った。叫んでいる福次郎に、伸太郎が冷たい目を向ける。
「福次郎よ、お前さんも、一緒にゴキブリの餌になって貰う」
「何だって」
「俺たちが島抜けをしたことを知られちゃまずいからな」
「俺も一緒に連れて行ってくれ」福次郎も必死である。
「ふふん、そいつは駄目だね」ピアノの前に座った優男が言った。「俺たちは特別の繋がりのあるロボットなんだよ」
ふふっと笑うその表情を見て、福次郎はゾッとした。(気持ち悪い奴らだ。そうか、こいつらはロボホモだちなのか)
「おやおや、福次郎。俺たちに対して、嫌悪の情を抱いたね。それじゃ、これからな」
優男が指の動きも鮮やかに一フレーズを弾いた。ゴキブリが福次郎の口の中に三匹入って行く。
「うぐ、うぐ、止めろ」
いくらロボットとはいえ、ロボゴキブリに内部を食い荒らされれば、命はないのだ。福次郎の頭の中の生命警告ランプがちかちかした。
瞬間、この福次郎の人格が吹き消えている。おどおどろしい、強い福次郎の人格が浮き上がって来る。
「おやおや、こいつ、気を失いやがったぜ。こいつ」
「ふん、誰が黄金の腕だよ」
「弱い野郎だ」
五人全員が嘲りの笑いを福次郎に与えた。その一瞬、福次郎の目がかっと開かれる。口からロボゴキブリが吐き出され、勢いづいてピアノを弾く優男の顔へ。ゴキブリの内蔵液が、その男へ掛かる。「うぐっ…、わあ…、顔が溶ける…」
男は転げ回る。
「いいか、お前ら、俺に危害を加えようという奴は許しゃしない」 急に人が変わったように言う福次郎に、伸太郎は棍棒を向け、
「ほう、じゃ俺たちをどうしようと言うのだ」
「そりゃなあ、こうだ…」
言うが早いか、福次郎は、戒めを解き放つ。
「うっ、どうした」
お竜も側で福次郎の変身に驚いている。
「福次郎…」
福次郎は側にいたゴキブリを五匹拾い上げ、目にも止まらぬ早さで、各々五人の体へ投げ付けている。狙い違わず、五人の心臓、つまり主要ICチップをロボゴキブリでぶち抜いていた。ほとんど即死である。一人、伸太郎がゆらゆらと揺れながら、
「き、貴様、昔、関東で名を聞いたことがある。石狩の福次郎とかいう…、つぶて術の名人が…、貴様なのか」
と、言ってどうと倒れた。
「さあさあ、福次郎よ。しっかりしなよ」
と、自分の体に言い聞かせている。瞬間、元の福次郎の人格が蘇って来た。
「そいじゃ、俺はまた消えるぜ」
と言い、攻撃的な福次郎の人格は消えた。
福次郎は二人の戒めを解いた。
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