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今日も苦労が絶えない魔王軍  作者: 空座シンヤ
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第2話 どっちの神でショー!

「な、何者じゃ貴様は!? どうやってここへ来た!?」


「それはこちらのセリフです、神を名乗る不届き者め」


「わしが偽物だと言うのか! 後から来た貴様の方が胡散臭いじゃろうがい!」


「偽物とか以前に今時ヒゲモジャ老いぼれ神様に需要なんてあるのかしら?」


「じゅ、需要とか関係ないし! この髭が神としての威厳をじゃな……!」


「あっ、ちょっと近づかないで。なんか臭い」


「酷くない!?」


 今、異世界転生直前だった俺の目の前で二人の神が言い争いを……もとい、じいさんが女神に言葉でボコられていた。

 ともかく突如参戦してきた女神様により、転生準備イベントはまさかの第二ラウンドを迎えたのである。


 それはさておき、この女神さん、それはどえらい美人である。見た目の年齢は俺と同い年ぐらいか少し下といったところか。色艶のいい銀色の髪はまっすぐ腰まで伸びており、目を引かれる。瞳は紫紺色で、澄んだ綺麗さの中に妖艶さも感じさせられる。体格は華奢で肌の色は透き通るように真っ白だが不健康さは感じられない。むしろ美しい。そして、その美しい身体の上には、まっさらな白色の布をギリシャ像のように纏っており、まさに女神様という感じである。だが、何よりも俺の目を引く部分がある。


 そう、おっぱいだ。


 胸元はほんの少し見えているだけだが、それでもそのサイズのせいでやはり目が行ってしまう。だが、無駄にでかいわけじゃない。全体的なボディラインが歪にならないギリギリの大きさ、まさに神のなせる業だ。俺が分析のためにさらにおっぱいに視線を集中させようとしたその時、その持ち主から声をかけられた。


「マサミチ様」


「パイッ!」


 ……急に返事をしたので、おっぱいから思考を切り替えきれなかった。だが女神様は気にすることなく続ける。


「私が本当の女神です。まずはあなたの前に現れるのが遅くなってしまったことを謝罪させていただきます」


 そう言うと、この謙虚な女神様は深く頭を下げた。そして、頭を上げると、じいさんの方の神様(紛らわしいので今後ヒゲ神と呼称する)を指さした。


「この偽神の妨害工作に遭い、それを突破するのに時間がかかってしまいました」


「後から来て、何をデタラメを言っておるんじゃ! 騙されてはいかんぞ、正道よ」


「騙されてはいけません、マサミチ様」


 これは困った。いかんせん、俺には判断材料がない。俺としては、この美人な女神様を信じたいところだが、見た目で人を選んではいけないことを過去の経験から俺自身がよく痛感している。どちらを信じるか、この重大な選択を間違えないように、俺は無礼を承知である提案をした。


「あの、神様のお二方にお願いがあるんですが。どちらが本物か判断するため、それぞれ自分が本物、あるいは相手が偽物であることの主張をしていただけませんか?」


 この提案に対し、先に口を開いたのはヒゲ神様だ。


「そもそもお前の魂をこの空間に導いたのはワシじゃ。だからこそお前が気が付いた時、ワシはもう目の前にいた。大体、神が遅刻してくるなんておかしいと思わんか? しかも、この娘、お前を導きに来たとは言ったが具体的な目的は何も言っておらんじゃろう」


「私も目的自体は、この偽神と一緒ですよ。マサミチ様を勇者として異世界転生させるためです。あと、私が遅れてしまったのは、あなたに邪魔されたからだと先ほどもいいましたよ、偽神さん?」


 ダメだ。神の世界の常識など知るはずがないため、どちらの言い分がウソっぽいのか、まるで見当がつかない。さらに二人の主張は続く。


「考えても見よ。お前に転生の説明をしたのもワシ、お前が死んだ理由を教えたのもワシ。神がやるべき仕事を行なったのは全部ワシじゃ」


「見てください。今時、こんな典型的なモジャヒゲを生やした神がいますか? 昨今の神業界は威厳よりもスタイリッシュさ重視なんです。そんな業界事情も知らず、鬱陶しくヒゲを伸ばしちゃってるのは偽物の証拠です」


「誰も知る由もないお前の死の真相を知っているのなんて、神以外ありえんじゃろ。神だからこそすべてを把握しているのじゃ」


「それにしても、本当に見苦しいヒゲですね。もしかして、自分ではイケてるとか思っちゃってます? いるんですよねぇ、ヒゲ=ダンディズムみたいに考えてる勘違い男が。女性意見にもう少し耳を傾けた方がいいですよ?」


「死の真相知ったお前を30分もやさしく慰めてやったじゃろ。これこそ神の寛容さじゃ」


「あっ、臭い原因なんだろうと思ったらこのヒゲでしたか。ちゃんと毎日ヒゲ洗ってますか? てゆうかお風呂入ってます?(笑)」


「もうやめてよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!! ねぇ! さっきから何なの!? なんでさっきからそんな酷いことばっかり言うの!?」


 ヒゲ神はそう叫ぶと、その場に泣き崩れた

 どちらが正しいかはともかく、このディベート合戦はヒゲ神のウィークポイントを執拗に狙い続けた女神のKO勝ちだった。てゆうか、この女神、ヒゲの話しかしてなくない?


 〇 〇 〇 〇


 結局、先ほどのディベート合戦は、ヒゲ神が心に消えない傷を負っただけで、どっちが本物かの確証を得られなかった。

 グロッキー状態だったヒゲ神は、すでに泣き止んではいるものの下を俯きながら、「もう永久脱毛しちゃおうかなぁ。永久っていうけど、神の寿命にも対応してるのかなぁ」と呟いており、真面目にイメチェンについて考えていた。ヒゲ神のことがちょっと心配になってきた俺としては、脱毛に行く前に是非メンタルケアに行って欲しいところだ。


「うーん、これ以上互いの主張を言い合っていても意味はなさそうですね」


 憐みの目でヒゲ神を見ていた俺の後ろで女神がそう呟く。あなた主張なんてしてました?

 そんな俺の疑問も知らず、今度は女神が、この膠着状態を打開するための提案をしてきた。


「ではこうしませんか? 転生する際、自分ならマサミチ様にどのような特典を与えられるかを互いにアピールするんです。そして、マサミチ様により魅力を感じさせた方が本物です」


 女神が微笑を浮かべながら伝えてきたものは、もはやどちらが本物かなど関係のない力押しの案だった。だってそれって、真実に関わらず、俺が良いと思った方を本物とするってことだろ? そんなめちゃくちゃな案にヒゲ神が乗るだろうかと、そちらに視線を向けると、


「グワハハハハッ! その話乗ったぞぉッ! だが抜かったな、この小娘がぁ! 」


 やっぱりお前が偽物なんじゃね?と思ってしまうような極悪な笑顔を見せながら食いつてきた。

 勝機を見つけたのか、さっきまでの落ち込みが嘘のようにヒゲ神は復活した。


「どちらがより魅力的な特典を与えられるかじゃと? そんなもの、本物の神であるワシが負けるわけがないじゃろうが! それとも、偽物の貴様が神以上の力を備えておるとでも?」


 なるほど、ヒゲ神の自信の理由はこれか。確かに、口ケンカでこの女神に勝つのは絶望的だが、実際にどれだけ良いものを(俺に)与えられるのかという話になれば、本物の神の力を持つ方が有利に決まっている。


「正道よ、最初にも言ったが、ワシは異世界転生の際に勇者にしか扱えぬ「最強の武具」を与えておる。その武具があれば魔王軍なんぞ目じゃないぞ。「俺TUEEE」し放題じゃ」


 ヒゲ神が勢いに乗り、先手を打ってきた。


「なら私は、マサミチ様に不死身の力を与えましょう。いかなる攻撃も物ともしない最強の肉体を」


 すかさず女神も異世界転生特典を俺に述べてくる。

 片方の神が何かを言えば、もう片方の神がすぐさま別の特典を俺にプレゼンしてくる。二人の神の間に俺が立たされる形でこの状況が繰り返される。さっきのディベート合戦と違い、今度のプレゼン対決は一進一退の攻防が続く。


「くっ、小娘にしては粘りおる……。どうやら切り札を切るしかないようじゃな」


「「切り札?」」


 俺も女神もその言葉に反応する。そして、次のヒゲ神の一言に俺は「切り札」という言葉の意味を理解する。


「こまりちゃん」


「!!!?」


「誰ですそれ?」


 予想外のワードに驚く俺に対して、女神がよくわからないという顔をしている。ここに来てついにヒゲ神が女神の意表を突いたようだ。ヒゲ神は俺と女神の反応をそれぞれ見て、手応えを感じたのか、女神の方を見ながら誇らしげにニヤニヤしている。本当に嬉しそうだ。


「うーん? どうした、偽女神? 状況がわからんという顔をしておるなぁ。そりゃわからんよなぁ! 貴様よりもワシの方が正道といた時間長いもんねー! ワシの方が正道のことよく知ってるもんねー!」


 ここに来て再びヒゲ神のウザさが爆発した。そのウザいテンションのまま、「そして、これでとどめじゃー!」と、ふところから何かを取り出してきた。それは――


「こまりちゃんフィギュア……血しぶき舞うプールサイドバージョン……だと……!?」


 俺が死んだあの日、俺が手に入れ損ね、もう二度と実物を拝むことはないだろうと諦めていたものが目の前にあった。そして、ヒゲ神はそれを俺に差し出してくる。俺は震えながら訪ねた。


「俺にくれるのか……?でもどうやってこれを……?」


「正道よ、これが神の力じゃ」


「決まった。あんたが神だ。本物の」


 俺はこまりちゃんフィギュアを受け取り、片方の手で抱き抱えると、もう片方の手でヒゲ神と熱い握手を交わした。そして、改めて勝敗を告げるため、女神の方に身体を向ける。


「すまない、女神様。あんたを偽物と言うつもりはないが、この勝負、俺のストライクゾーンを確実に射抜いたヒゲ神の作戦勝ちだ」


「そんなもので……」


「あんたにとってはそんなものかもしれないけど、俺みたいなオタクにとって、これはどんな力よりも欲しいものなんだ……」


「どんな力よりも……それは本当ですか?」


「本当だ。フッ、これがオタクとしての俺の性なのさ……。まあ、そういうわけだから、じゃあな、女神様」


「……本当にそんなおもちゃだけで満足できるんですか? 本当は……本物が欲しいんじゃないんですか?」


「……えっ?」


 女神に背を向け、カッコつけてヒゲ神の元へ行こうとした矢先、予想外の質問をされて思わず振り返ってしまった。


「ど、どういうことでしょうか……?」


「そのままの意味ですよ。あなたは、そんな実在しない女の子のおもちゃじゃなくて、本当は、実在する本物のかわいい女の子とイチャイチャしたいんじゃないですか?」


「い、いや、俺はそういうのにはあまり興味な――」


「興味ないはずがありません。今手に持っているようなフィギュアが欲しいのは何故ですか? それはあなたが、そのキャラクターのようなかわいい女の子のことが好きだからです。でも好きだからと言って、現実では誰もがかわいい女の子と仲良くなれるわけではありません。現実では手が届かないからこそ、余計に創造されたかわいい女の子を好きになってしまう」


 ゴクッ……。


「あなたのそのキャラクターへの愛は、確かに本物であり、現実逃避の産物であるとは私も思ってはいません。しかし、その本質にはやはり、実際にかわいい女の子と仲良くなりたい、イチャイチャしたいという憧れもあるのではないでしょうか?」


 そう自己の分析を述べると、


「あなただって、現実を捨てたわけではないはずです」


 女神はゆっくりと、


「つまり、あなたは」


 しかし確実に、俺の奥底にある真理に近づいてくる。


 そして――


「本当はモテたいんじゃないですか?」


「――!!!」


 心に衝撃を食らい、俺は膝から崩れ落ちた。心の奥底に沈め、いつしか自らも忘れていた自分の本心を引きずり出されたようだった。

 俺は女の子にモテるとかモテないとかどうでもいい、他人に何と言われようとただ好きなもののために生きるだけだと、硬派を気取っていた……いたつもりだったことが心底恥ずかしい。この女神様の言う通りだ。そう、俺はちっぽけな自尊心を守るために興味ないフリをしていただけで、俺の本心は、きっと、多分、いや確実に――女の子にモテたかったのだ。


「お、俺は……」


「恥ずかしがることではありませんよ、マサミチ様。異性に好かれたいという感情は生物であれば当然のことです。あなたのその気持ちは、正しいものであり、大切なものなんですよ」


「め、女神様……なんて優しいんだ。こんなに慈しみに満ちた人に俺は背を向けてしまったのか……。俺はなんて取り返しのつかないミスを……」


「今からでも遅くはありません。あなたが私を信じてくれるならば、私は女神としての義務を果たすため、あなたの真の望みを叶えましょう」


「俺の、真の望みを……」


「あなたを、あちらの人間で一番のイケメンモテ男にしてあげましょう」


「信じます。我が身心はあなたと共に」


「ちょっ、待てぇいッ!!!!」


 まさかの展開にヒゲ神が慌てて口を挟んできた。


「おい、正道よ! お前それでいいのか!? 異世界で「俺TUEEE」系勇者になるんじゃないんか!?」


「フッ、そんなものどうでもいい。俺はただ心のままにモテたいだけだ。それ以上でもそれ以下でもない」


「ウザッ! てゆうか何なの? お前さんもう最初からずっとキャラがブレブレなんじゃけど!!」


 もうどっちの神に着くか結論は出たかと思われたが、「モテたいだけなんじゃな? そうなんじゃな?」と、ヒゲ神が確認を取ってきた。ここでヒゲ神が最後の抵抗を見せる。


「なら、わしもお前を異世界でモテモテにしてやる。ちゃんとこまりちゃんもつけてな」


 そりゃそうなるか。神なら人間一人モテモテにするくらい造作もないだろうから、それが望みだとわかってるならどっちの神も同じ願望を叶えようとする。

 だがこうなると再び困った。どっちも同じ願いを叶えてくれるなら、あとの差はなんだ。ヒゲ神を選べば、こまりちゃんも一緒に手に入る。しかし、そうなれば俺はまたこの優しい女神様を裏切ることになってしまう。かと言って、女神様を選べば、俺は完全にこまりちゃんと決別しなくてはならない。本物の女の子にモテたいのも本心だが、こまりちゃんへのキャラクター愛も本物なのだ。くっ、俺はどちらの神を選べばいいんだ。


「なるほど、あなたもマサミチ様に女性に好かれるような魅力を与えられると言うのですね」


 恐らくこれが本当に最後の決断になるであろうと俺が頭を抱えていると、女神がそう言葉にする。


「ですがマサミチ様」


 そして、


「信じられますか?」


 決定的な一言を放った。


「信じられますか? そのヒゲ神のセンスを」


「「………………………………………………………………」」


 その一言に俺だけじゃなく、ヒゲ神も沈黙した。


 ふとヒゲ神の方へ視線を向けると、目があった。表情は微動だにしていないが目が確実に何かを訴えてきている。そして、視線を少し下にずらすと「あるもの」が目に入る。神々達の流行から完全に置いて行かれ、モテ要素の欠片もない、もっさりしたヒゲが。


「…………」


「…………」


 向き合ったまま、互いに沈黙。


 そして俺は「フッ」と全てを悟ったような笑顔をヒゲ神に向けると、後ろへ振り返り、女神の方へ歩き始めた。


「えッ、ちょ、本当にこんな終わり方!? 違うんじゃ正道! このヒゲはビジネス用でプライベートはもっとナウでヤングな――」


「短い間でしたがお世話になりました」


「弁明の余地すらなし!?」


 後ろで無駄な抵抗を必死に続けるヒゲ神を無視し、俺は女神の前に立った。


「女神様、俺はあんたを信じると決めた。さあ、俺を異世界でイケメンモテ男として転生させてくれ」


「マサミチ様、あなたなら正しい決断をして頂けると信じておりました。では行きましょうか」


 そういうと、女神様の後ろに扉が現れた。扉が一人でに開くと、中から大量の光が漏れ溢れてきた。眩しさで中がどうなっているのかはわからない。


「この扉の先が異世界へと繋がっております。参りましょう、マサミチ様」


 眩しさなど一切気にせず、女神様は先行して扉へ入っていく。俺もその背中を追うため、光に目を細めながらも扉の中に歩みを進めた。


「おい! そっちに行ってはいかーん! 戻ってくるんじゃ、正道! もう一度よく考え直……っておいこらぁッ! なにしれっとこまりちゃん持っていっとるんじゃああッ! 置いてけ! こっち来ないんならそれ置いてけええぇぇッ!!!」


 後ろから何か聞こえるが気にしてはいけない。「このキモオタ野郎!」とか「死に方が残念で賞第1位!」とか「〇✕△□――!!!!(自主規制)」とか聞こえてくるような気がするが、神様はそんなこと言わない。もし本当に言っているなら、あのヒゲ神はやはり偽物だったということだろう。きっとこのイベントに迷い込んでしまった自分を神だと思っているかわいそうなおじいさんだったに違いない。そう思うことにしよう。

 

 何はともあれ、この長かった転生準備イベントも終わりを迎え、いよいよ異世界での俺のモテモテ生活が始まのだ。多少の不安もあるが、それを上回る期待の気持ちに胸膨らませ、俺は光の先に待ち受けるであろう異世界へと歩みを進めるのであった。小脇に抱えたこまりちゃん血しぶき舞うプールサイドバージョンと共に。



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