夢への一歩
「よし、到着。ゆっくり下ろすけど気をつけろよ」
「はいわかりました。あの、運んでいただきありがとうございました」
「なに、気にするな。お前はこれから一緒にいるんだ。さて、早速、食事の準備をするとしよう。えーと、なにか苦手な物とかあるか?」
「いえ、気にしないでください」
少女は、うつむきながら控えめに答える。
「そうか、それなら食えそうなものがあったら、好きに食ってくれ」
俺は、この宿に用意しておいた飯を並べてから一人で食事を始めるが、少女は食事に手をつけずに俺の手元ばかりを見ていた。腹は間違いなく減っているはずであり、今も腹はぐぅぐぅと、なっているが、少女はボロボロの服からその肌が見えながらも、裸足の脚を組むようにして小さくなり、手を出さないようにするために、右手で左手首を握って我慢し続けている。
その姿を見せつけられながら、悠長に食事を続ける気はない俺は、耐え切れず問いかける。
「おい、食っていいって言っているのになぜ食わない」
「私は奴隷です……。旦那様と同等の食事はいただけません。私は安い食事で充分ですから」
「あーいいから、そう言うの。好きなの食っていいぞ」
俺は気にしていなかったが、少女はそれでも乾いた口を、動かそうとはしなかった。年はそれ程取っていないはずなのにここまで強情となると、かえって面倒だな。
「あーもう。食っていいって言っているのに」
「私は奴隷なので、残飯で……」
これはもうだめだ。よしそれなら、奴隷らしく扱ってやろうじゃないか。
「じゃあ、どれが一番美味そうに見えるか?」
「……」
少女は未練を断つように瞼を閉じて質問に応じない構えを取ったが、一瞬、タレがかかった肉を見ていたことを俺は見逃さなかった。そして、俺にはそれで充分であり、つまむようにして、その肉を手に取り、
「ほら、口を開けろ。ほら、あーんしろ、あーん。なんだ? 旦那様の命令が聞けないのか?」
少女は最初、口を開けようとしなかったが命令という言葉に反応するとゆっくりと餌をねだる小鳥の様にその口を開いたので、俺はその小さな口に優しく、その肉を与え、少女はゆっくりとその味を噛みしめる。
「どうだ、美味いか?」
「……おい……おいしいです……とっても……おいしいです……」
少女はボロボロとその大きな目から涙をこぼしながら、肉を咀嚼した。そして、何度も噛んでしっかり味わって喉に通した。
「ほらっ、もっと食え。そして、大きくなれ! お前には期待しているからな!」
「はい、いただきます」
少女はようやく食事を始めてくれた。うん。それでいい。
「おまえの説得でようやく食べてくれてよかったな」
「そうですね。俺もこの少女には元気になってもらいたいのでよかったですよ」
俺はにゅるりと耳元で囁く白蛇さんに安堵しながら返事をした。
この少女を手に入れた理由は、俺の計画にも重要な役割を任せる可能性が考えられるからであり、だからこそ、強くなってほしいというのは俺の本心である。
その後も少女は、俺と共に久しぶりのお腹いっぱいになるまで食事を続けるのであった。
「お食事ありがとうございました。このご恩は必ず返します」
「はいはい。よろしく。それじゃ次は服だな。あとは、靴も必要だな」
そう言って、俺は立ちあがると、少女は俺に向かって、
「あっ、あの、私にはそれらは必要ございません」
「何故だ?」
「私は奴隷です。なので、奴隷は奴隷らしくいなければならないです」
少女は俺の質問に対して、物怖じせず、みすぼらしい格好で答え、俺はその姿に胸の内に何かが燃えるようなものを感じた。やはり見立ては正しかったようだ。ならば、尚更ここは何としても説き伏せなければならない。
「それはダメだ」
「ですがっ――――」
「お前は俺の頭脳になる女だ。そんな女が、そんな恰好では俺が恥をかく」
「は、……はい」
少女は言葉失い、ただただその言葉に従った。
「ひゅー、おまえ、かっこいいな」
「そりゃ、国を作る男ですから」
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