お見合い(破談は確定)
退職の日がやって来て、俺以外の人間は希望者のみ次の工場へ移動した。またこの日以降無職が確定している俺は、次の就職先を見つける為に求人広告を貪るように見た。
「いい仕事ねぇーな。どれも割に合わねぇよ」
運送、飲食、介護がひしめき合うように掲載された求人情報を見ながら俺はため息をついた。
どれもしたことがない業種で、よく大変だと聞くものばかりであった。
俺も今年で四十歳だ。来年は四十一歳になる。結婚はしていないし子供ももちろんいない。だが、貯金は趣味に費やしてしまっているのでわずかばかりしかない。
残高が寂しい通帳とにらめっこをして悩んでいても仕方がないので、とりあえず仕事とお見合いをすることにした。
久しぶりの電車に揺られながら何度も席取りゲームに何度も敗北しながら、体型だけはなんちゃって関取の俺は涼しい気候の中で慣れない環境を彷徨いながら、ふらふらと歩き続けた。
汗だくで背中に大きな島か、どこかの国を模したシミを作りながら、お見合い会場に到着し、仲介役と慣れない口調で何度も噛みながら、目の前にいる担当の指の行き先を眺めながらいくつかと話し合った結果、形式上は保留だが高確率、いや超高確率で破談となるだろう。これで当たるとした設定が良いとしか思えない。六確かな。閉店までぶっぱ確定だ。
だが俺としても破談であってほしい。勢いだったとはいえ相手の子の理想が高かったのと俺も理想が高かったのが破談の理由だ。
頼むから束縛は止めてくれ。家には帰りたい。黒い嫁はいらない。まして休みはないと壊れたラジオの様に繰り返しながら、鞭を振るう環境はごめんだ。
俺は気を取り直す為に不戦勝で椅子取りゲームに勝って、疲労でパンパンの風船のような足を休めることに成功し、まだ元気な足取りで一度帰宅するとスーツを綺麗に脱いで、二年前に流行った歌を鼻歌で刻みながら、コンビニで銘柄の異なる二本のビールと、気分で決めたにしては高めのスイーツを買って、合計数百円の商品を片手に引っさげながら、気分を上げてコンビニを出た。
気温がちょうど気持ちいいと思えるぐらい俺はまだ感情が上手く機能しているようだ。
ふと周りを見ると俺と同じようなのは作業服かスーツを着ている。安物のTシャツ短パンにどこのメーカーか擦れて分からなくなっているサンダルだ。
もう少しマシであれば新進気鋭の自営業者にでも見えるが、この格好では哀れでしかない。とりあえずこっちみんな。
家までの数分間の道のりだけで感情を乱高下、血圧だけは高めで推移させながら、今日の夜はどう過ごすか楽しく考えながら、横断歩道の信号が変わるのを待っていた。
視線を横に向け、隣の信号がちかちかと点滅し始めて、そろそろだなと思って前を見ると、突如目を覆いたくなるようなヘッドライトにより目がチカチカするよりも先に、ロケットと化した一台の車のフロントが俺の腹に直撃した。
「ぐひゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………………………」
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