グッバイジョブ
勝者は必ず敗者をつくる。
このことは、ルール上の引き分け以外、間違いのないことだ。
しかし、これは勝者が努力の結果や元々ある才能で勝ち取ったものであるから、仕方がない。それに負けた側にも原因があるのなら、次に勝てばいいのだ。もちろん次があるという事が前提となるが。
またこの事に近いことは他にもある。その中でも最も俺が辛酸を浴びせられることになったのは、優遇される者もいれば不遇の者もいる。ということである。
優遇と不遇。
これは、最悪どこかの世界に何らかの形で生命として生まれた瞬間から始まっているのかもしれない。
人間であれば長男や長女のおさがりをもらい続けるという、コストパフォーマンスが生み出す有難迷惑にもなりうる行為や、自分が存在していた場所に上位の存在が出現した瞬間に、まるでいなかったように塗りつぶされることもある。
これは死ぬまで続くのかもしれない。しかし、まぁこれは誰でも大なり小なりでやっていることなので、仕方がないのかもしれない。そう仕方がないのだ。
さらに、このような言葉もある。
良いこともあれば悪い事もある。
確かに悪い、もしくは自分にとって辛いことがあれば、後々いいことがある。後々な。
いつだよって話だ。いまこいやと何度思ったことか。クソが。
失礼。話が少々ズレそうになったが、簡単に言うと、俺の人生はこの不遇という呪いに、べったりとつきまとわれていたのだ。そして今も、この瞬間も。
「佐藤さん、明日から仕事がないです」
俺、佐藤はその瞬間その言葉を理解出来なかった。
「えっ……それは、明日からお休みということですか?」
俺は動揺を上手く隠しているつもりで額に大粒の汗を付着させながらへらへらと気持ち悪い顔を緩ませながらわざと聞いた。
「まぁ、そうですね。言ってしまえば、はい。休みです」
俺に休みを通達している社員は入社した時から、その時の上司の命令によりマンツーマンで教え込んだ。最初は面倒だと思っていた作業のような教育はいつしか、趣味を楽しむようになっており、メキメキと成長する姿にやりがい様な感情があり、それこそ時間を惜しまずに育て上げたのだ。
そいつは俺という牧草を上司が噛み砕いて肥溜めとなり、肥料にされ、それを栄養にして見事な彼岸花を咲かせ、俺の上司へと見事に更に咲き誇り次は俺という牧草を焼き殺しに来たのだ。
「佐藤さん、ここの工場長でしたけど、この工場来月で閉鎖するので、すみませんが、辞めて頂くようよろしくお願いします」
頭を下げた教え子のような存在は、数十秒間頭を上げなかった。
その時俺は思った。こいつも辛いのだろう。と。
別の奴で男であればその体を蹴飛ばしていただろうし、女であれば汚い言葉罵りながら罵倒していただろう。
それほどこの事態は心を荒ませるには充分であった。
だが、結局はしない。すれば、即警察所行きだからだ。それこそ人生が死ぬ。まだ社会的にも死にたくない。いっぱい楽しみたいことはあるから。
「頭を上げてくれよ。……分かった。今月で辞めればいいんだろう」
俺は全てを受け入れたつもりで、教え子の肩を持った。
「すみません! 本当にすみません! 佐藤さんには恩しかないのに!」
「いいんだ。俺の役目は終わったんだよ」
俺は負けてなんかいない、次の戦場が変わるだけだと思っている。
「それじゃ、これがそのケイヤクショにナルノデ」
なんだ。急に教え子の言葉から死の臭いがした。
俺は気のせいだと思いながら、それでも契約書を完成させ、終始申し訳なさそうにしている教え子に手渡した。
「それじゃ、これでいいかな」
「はい。確認しました。本当に佐藤さん、今までありがとうございました!」
ばっと、教え子は俺に向かって頭を下げた。
気まずそうに顔を上げつかつかと工場を出て行ってしまった。俺はいま出来る最高の笑顔で見送るがその教え子が車の中で俺が片付いたことを、スマートフォンで満面の笑みで報告していたことなど俺は知ることもなく、俺は廃園寸前の遊園地でまた来てねとでも言いたげなピエロの様に笑っていただろう。
最後まで読んでいただきありがとうございます! 引き続きブックマーク、評価、感想をお待ちしております!