ヒロイン登場
あの後、柵の補強や荒らされた跡地の整備を終え、夜になり、村人達はそのまま冒険者を歓迎する宴をしようという運びになった。
冒険者のお陰で村人に怪我人が出ることはなく、その上二頭猪まで討伐してくれたとなれば、この流れは当然のことである。
そして、村の取り決めに従い、冒険者一行を村長宅へと招き、村の若い娘たちで接待することになった。
「ガハハハ! レミア、まさかお前が初対面の冒険者に殴りかかるとはな! しかも、その理由が嘗て村中の女を口説き落とそうとしたお前さんの父親に重ねて見えたからだとは」
冒険者たちへの料理を給仕しに来た私に、ちょうど冒険者たちを接待していた村長に声をかけられた。
「し、仕方ないじゃないですか。いきなり初対面の人に求婚する、正に心がゴブリンのように腐っている方がいたんですから。当然の報いです」
「ハハハ! 僕の魂の告白に掌底の返事を貰ったのは初めてですよ。……でも、レミアさん。あなたは一つ勘違いをしている」
冒険者の1人、エレスティーは3人の女の子を隣に侍らせたまま、キザったらしく唇に指を当て、こちらに投げキッスをしてきた。
「僕はゴブリンのように、誰でもいいわけじゃない。僕は貴女だから告白したんですよ」
まるで☆が付きそうなキザったらしいセリフ。
「エレスティー、決まったな」
「エレスティー様、カッコいいです!」
「あらあら、妬いちゃいますよ、エレスティー」
私が始めて彼を殴り飛ばした後も、彼はこのようにめげずに甘いセリフを吐いてくる。そして、その度に後ろの女子3人組が彼をよいしょする。この王道パターン。
無視してはいるが、これを何度も目の前で展開されれば、流石に嫌気もさして……
「疲れる……」
お陰で、身体的にも、精神的にもゲッソリである。
だが、何も思ったのか、黙ってエレスティーを睨むだけの私を見て村長は、
「まぁまぁ、エレスティー殿。あまりレミアをからかってやらんで下さいな。レミアは生まれてこの方告白されたこともない程のウブな娘なのです」
「ちょっ、村長!?」
「いきなり求婚なんてされてしまえば、混乱しないのは無理な話。レミアが本当に欲しいのなら、もう少しゆっくり歩み寄ってやるとよいですぞ」
「何とんでもないこと暴露してくれてるのよ!?」
「フフ、そうなんですか。告白が初めてとは。レミアさんは可愛い人なのですね」
「く……」
顔が熱くなるのを感じる。村長め、余計なことを……!
私がこの男、エレスティーを好きになることなんて絶対にないのに!
こんなチャラくて、女の子侍らせてる色ボケ野郎には好意ではなく、殺意くらいしか芽生えないし。
こうなりゃ、キッパリ言ってやる!
「村長! 私はこいつが気にくわないの! キザで、うざくて、心ゴブリンで……、上げだしたらキリがないくらい。とにかく、これ以上余計なことを言うなら、村長のことも口利かなくなくからね!」
「ガハハ! エレスティー殿、わしはレミアに嫌われるのは嫌じゃし、これ以上はアドバイス出来ぬが。わしはお主のこと応援しとるぞ!」
「ありがとうございます、村長殿!」
2人はニコッとサムズアップして笑い合う。
村長、余計なことを言うなと言った側から……。でも、これ以上言わないのなら妥協して、許してあげよう。
私は一通り皿を並べ終えたので、そのまま厨房の方へ退室する。だが、私が部屋を出る直前、後ろから声が聞こえた。
「レミアさん、僕は貴女を諦めるつもりはありませんよ。貴女が首を縦に振るまで、何度でも告白しましょう!」
一瞬足が止まったが、彼を無視して厨房へ向かう。
冗談じゃない。何故私があんな男の告白に首を縦に振らなければならないのか。
絶対に好きになってやるもんですか!