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聖夜に知ったその熱

作者: 湖月もか

クリスマス物です。

時期なので書いてみました。ありきたりな話だなあとか思ってますが、まあお楽しみいただけたら幸いです。

爛々と煌めくクリスマスツリー。

その大きなツリーの前には待ち合わせのカップルが大勢。


携帯片手に連絡とってる人。電話でどこ?と迷子になってる人と様々だ。


鮮やかに輝くイルミネーションは私の目には刺さる。

心にもこの光景が刺さる。


--そう。

私はこのクリスマスという素敵な日に、つい今し方振られた憐れな女。


「はあ……」


ツリーを前にした広場の端にあるベンチでただ座っているだけ。

振られた理由は『なんか違う』だった。

……なんかってなんだよ!

と大声で突っ込まなかっただけ、冷静だった。

ただ静かに、渾身の右ストレートを奴の頬に打ち込んだ。


そうして一人となった私は、一緒に観る予定だったこの近辺では有名なクリスマスツリーを観に来た。もちろん、一人で(・・・)だ。


そして、バッグをひったくられた。

更には犯人を追いかけようとして、履いていたヒールが折れた。

それはもう、綺麗にボキッと根元から。


かくして私は無一文で裸足の帰宅困難者になってしまったのだ。

まさに泣きっ面に蜂。後から来た蜂の数が多すぎる気もするが。


傍らには壊れたハイヒール。

ゴールドに近いクリーム色で、全体的にレースがあしらわれていて、バックには大きめのリボン。と大人っぽいが可愛いデザインで一目惚れだった。

更にヒールは7cmと高めだが、ストラップが着いていてとても履き心地のいい、とてもお気に入りのハイヒール。

……彼とのデートの為に買ったものでまだ片手で数える程しか履いていない。


服なんてこの日のために買ったボルドーのAラインワンピース。

ウエスト部分には絞ったデザイン。裾もそれに合わせて左右の長さが異なるアシンメトリー。


いや、そんな事はどうでもいいか。

問題はどうやって帰るか、だ。

裸足で街を歩くのは百歩譲ってまだいい。

が、お金が無い。更には家の鍵もない。

あるのはコートのポッケに入れていた携帯のみ。


時間を見ようと携帯の画面を見た。

現在21:48を表示していた。


『今、ツリー前のベンチにいるか?』


と。

同僚からの連絡が来たと通知がでている。

思わず顔を上げて周りを見渡す。


「やっぱりそうだったか。こんばんは…………って、お前それどうした?」


すぐ近くにいたのだろう。いつの間にかその同僚が目の前に立っていた。

傍らの憐れな姿に成り果てた靴を指さしている。遠目から私が裸足なのはわからなかったのだろう。


「ああ、これ?……こう、綺麗にね。折れちゃった」

「……今日デートって言ってなかったか?」

「……あー、まあ、うん。つい一時間前まではデートの予定だったよ?でもね、なんか違うって振られちゃった」


あははと明るい笑い話にしようとして、失敗した。


「…………そいつ、見る目ないんだな」


目の前の彼がぼそっと何かを呟いた。

聞こえなかったので聞き返すも、なんでもないと誤魔化されてしまった。


「で?ここで、何してんだ?」

「それがさ、ひったくられて無一文。更には靴も壊れちゃって……帰れないから近くの友達に助けてもらおうかなって思ってところ」

「警察は?」

「あー…………忘れてた」

「はあ!?お前何してんだよ。……っち、警察行くぞ」

「いや、だからね……私裸足、きゃ」


腕を引かれ、気付いたら同僚の腕の中だった。

俗に言うお姫様抱っこだ。


「ちょ、降ろして!重いし、恥ずかしい」

「この時間靴屋もやってないからこれしかないだろ。重くない、軽いわ馬鹿。暴れたら口塞ぐから大人しくしてろ」


何で口塞ぐの?とは聞けなかった。

結局、そのまま大人しく近くの交番まで連行される事に。



交番ではぎょっとした顔をされたが、ひったくられたと状況を細かく話せば被害届の手続きに移った。


不幸中の幸いか、財布も先日変えたばかりで中に身分証も保険証も、更にキャッシュカードやクレジットカードも入ってなかった。

まあ、入れ忘れていたとも言えるが。


手続き中も同僚は傍らにいた。

その間ずっと顰めっ面していたけれど。


「……君、不動産か管理会社に電話して鍵を変えてもらって。その前に、マスターキーあるはずだから、家に入れてもらえるでしょ」

「まあ、はい。電話番号は解るので入れてもらえるかと。すぐに鍵替えてもらいます」


明日になれば連絡が取れるだろう。

大家さん一家は確か一泊で温泉に行くと言っていた。帰ってくるのは明日の昼頃だと。


「家まで送る」

「や、それは助かるんだけど……明日の昼頃にならないと、大家さんと連絡つかないから帰れないんだよね」

「…………しょうがない。今日俺の家に来い。泊めてやる。どうせ明日は仕事休みだしな」

「え!いや、そこまでは……」


問答無用でまた抱きかかえられた。

泊まるとも言ってないんだけど!


「見つかれば連絡します。……お幸せに」

「ちょ、え、ちが」


誤解も解けないまま、少し寂しそうなお巡りさんに見送られて交番をあとにした。


近くのタクシー乗り場へ行き、二人で乗った。

そのまま彼の家に直行。……あ、途中コンビニは寄った。

お泊まり用化粧落としを買ってきてくれました。いたれりつくせり。


「お邪魔します……」


マンションの前で降りた時から解ってたけど、一人暮らしにしては大きい。リビングとは別で寝室を持てるほどには。


「ほら、これ化粧落としと歯ブラシ。……そういえば飯は?食ったか?」

「え?あー……食べてないけど、空いてないしいらないかな」

「ならもう、ちゃちゃっと風呂はいって寝ろ。直ぐに寝ろ」

「あ、うん……ほんと、ありがとう」


その後は特に何事もなく、彼の言う通りに直ぐ寝た。

途中ベッドを使う使わないで揉めたが、一緒に寝るか?と言われ大人しくベッドを使わせてもらうことにした。

……彼はリビングのソファで。友達とか泊まることがあるようで毛布は何枚もあるんだとか。


朝、空腹で目が覚めた。

寝巻きは彼のスウェットを有難くお借りしたが……大きいので上だけ着ている。

仕方がない。だって裾を引ずって移動してしまい、雑巾にしてしまうのだ。

上だけでも膝上丈のワンピースのようなので、セーフだろう。


ベッドから出て、リビングへと向かう。美味しい匂いが漂っている。


「起きたか。おはよう」

「……おはよう」

「ほら、飯出来てるから食え。警察からはまだ連絡はない。……まあ希望は薄いだろう」

「だよね……。あ、ご飯ありがとう。何から何まで、本当にありがとう。……今度、何か奢るよ」


ソファに二人並んで朝食を食べる。

テレビの示す時間はまだ7:00。大家さんとは、あと数時間後に連絡が取れるだろう。


たわいもない話で時間はすぎる。

途中彼は出掛けて行ったが、私はまだ大家さんと連絡がつかなかったのでお留守番。

そもそも靴、ないんだけどね。


「ただいま」


そう言って帰ってきた彼が手に持っていたのは靴だった。ローヒールでボルドー色の大人っぽい靴。

靴がないと帰れないだろうと急遽買ってきてくれたようだ。……いたれりつくせりにも程がある。

サイズは昨日の壊れた靴を見て。との事。


ボルドーのワンピースに合う同じ色の履きやすいローヒールのパンプス。


壊れた靴は修理出来ると思うので持って帰る。

帰りのお金も貸してくれた。

この同僚には、本当に足を向けて寝られない。仕事でもフォローしてもらっているし。


11時過ぎ。

やっと大家さんと連絡が取れた。

とても優しい大家さんは鍵はこっちで替えてあげると言ってくれた為、交換費用はゼロ。

今日の予定を全て無くして、私の帰宅を待ってくれるとのこと。


「じゃあ、ありがとう。今度会社でお金返す。……あと、ご飯奢るから予定いい日連絡して」

「気にすんな。…………俺も下心あったしな」


え?と思った時には遅かった。


唇に柔らかい感触。伏せられることの無かった瞳と至近距離で目が合う。

その目の奥にはジリジリと焦がすような熱を感じた。


長いように感じられたが実際は一瞬だったのだろう。


「覚悟しとけよ」


また職場で。

という言葉と共に、玄関の扉が目の前で閉まる。


バタンと閉まった音で我に返る。


やられた。

だが不思議と嫌な気はしなかった。


休み明けどんな顔したらいいのかと悩みながらも、熱くなる頬を誤魔化せない私。

歩きながら覚醒しない頭でぐるぐると考えていた。



休み明け。彼から猛アタックを受け、グラグラしてた心が陥落するのはもうすぐ。

読み返したらなんか書いた短編と似てしまった。けどまあ時代とか背景とかキャラ違うからいいかと思ってます←

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― 新着の感想 ―
[良い点] 胸糞悪い終わりにはならなかったところ。色々突っ込みどころはあるが、結局は主人公にとっておいしい形に終わる話だということなのだろう。 [気になる点] 冒頭。そんな日に振られたのが妥当かそうで…
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