終わっていなかったのでした・・・
「どうも有り難うございました。
貴方は、今日はじめてこられたんですよね?」
会計をしてくれたウェイトレスさんは、僕に対して言っているようでした。
どうやら、本当に彼女は自分とは初対面の様なのでした。
「この方は、今日このアカデミーに入校したばかりなんですよ。
ここの寮に入ったので、またこれからお世話になくと思います。」
その横から刻露さんが、僕のことを補足説明をしてくれました。
「あ、そうなんですかー。
それなら是非、明日もいらしてくださいね。」
ウェイトレスさんはニッコリと笑って、僕に会釈をしていました。
理屈では分かっているのですが、それでも初対面の人とは思えないのでした。
「は、はい。」
そして僕はぎこちなく、軽く頷きながら彼女に返事をしました。
それでも僕は、心の中でも本当にまた、このレストランに来たいと思っていました。
料理も、なかなか美味しかったですし・・・。
そして僕たちは、アカデミーのレストランを後にしました。
「夏目さん、それでは今度は買い出しにいきましょうか。」
先ほど言っていたとおり、刻露さんは引き続き、外に僕を案内してくれるようです。
僕たちは、アカデミーの敷地内を歩いていました。
夜は流石に、あまり出歩いている人は少なかったです。
自主的にランニングしているような人も、どうもいないようでした。
そして今日初めて、僕はアカデミーの敷地の外にでました。
しかし外に出てみると改めて、このアカデミーの敷地の広さが分かりました。
(やっぱり余り明るくはないなあ。)
日本の町中に比べて、この辺りの通りはむやみに灯りはなく、足下は薄暗かったです。
「慣れないと躓いたりするので、気をつけてくださいね。」
刻露さんが、僕に気遣いの言葉をかけてくれました。
ニューヨークとはいえ、ここは郊外です。
そうゆう意味では、あまり込んだ街並みとは言えないようでした。
それほど長く歩いた感じはしないのですが、無事にスーパーマーケットにたどり着きました。
(これがアメリカのスーパーか・・・。)
刻露さん曰く、ここはアメリカの大手スーパーのチェーン店なんだそうです。
それにしても、このスーパーの外観はとても広いです。
そして中に入ってみても、やはり広々としていました。
「ここは、アカデミー御用達のスーパーなんですよ。」
刻露さんが、自分の横で独り言のように言いました。
そう言われてみますと確かに、店内を見回すとスポーツマンらしき人達が多いと思いました。
彼の言うとおり、おそらくはアカデミーに関係している人が、何人か入店しているのでしょう。
「ここは、保存食品がたくさんあるから便利なんですよ。」
棚を見てみると、確かに缶詰やレトルト食品が、数も多いし商品の種類もたくさんあるようでした。
僕は、非常に有り難いことだと思いました。
昼食と夕食は、先ほどのアカデミーのレストランで済ませて、後はこのスーパーで購入した食材で間に合わせれば食事の心配はありません。
「あれ?」
自分の視界に入った思いがけない事に、僕は思わず声を出しました。
それは遠目ですが、見かけた顔が認識されたからなのでした。
なんと今日、刻露さんとの道中で立ち寄ったテニスクラブで、お昼ご飯を食べたレストランのウェイトレスさんが、買い物をしていたのでした。
彼女はカンカン帽に、上はカーディガンを羽織っていて、チェック柄のスカートを履いていました。
少々距離は離れていますが、あのソバカス娘は、僕が考えている人で間違いないのではないかと思います。
(そうか彼女は、この近所の人なんだ。)
フッと横を見やりましたが、刻露さんは彼女に気がついていない様子でした。
たくさん保存食を買い込んだ僕は、刻露さんとスーパーを後にしました。
それにしても、刻露さんは本当に気の利く人だと思います。
彼のおかげで、僕は初日にして、準備万端で夜を迎えることができたのでした。
「今日は本当に、お世話になりました。
刻露さん。」
「いえいえ今後とも、また何か気になる事があれば、何なりとご相談ください。」
僕と刻露さんは、寮の部屋の前で分かれました。
自分の部屋の中に入った僕は、ホッとしました。
(長い一日が終わったなあ・・・。)
ところが、これで一日は終わっていなかったのでした・・・。




