すぐに我に返りました
(確かに、自分は渡米してここにいるんだけど・・・。
なんだか異国の雰囲気の中に自分の知っているモノが混じっていて、違和感を感じるなあ。)
実を言いますと、僕はニューヨークに来る前はもっとアウェイ感満載で戸惑うことを、憂慮していたのでした。
しかし、初日にして新しい事にはたくさん出会うのだけど、ただ見知らぬ所に自分がいるという想いがあんまりしないのでした。
いや、むしろ若干懐かしいとさえ、自覚しているのでした。
ひょっとして、ここで自分と関わる人達は、みんな何らかの事で日本と繋がっているのではないだろうか、とさえ思うのでした。
それは何というか、上手く表現できないのですが、まるで全てお膳立てされているかのような・・・、不自然さを醸し出しているのでした。
まさか本当に僕は、敷かれたレールの上をただ単に走らされているだけなのでしょうか・・・。
そして、そのことに関わっている一人は・・・・。
そのような考えを抱きながら、僕は自分のテーブルの反対側正面に座っている彼をチラッと見やりました。
僕の考え事など何の関係もなく、刻露さんは僕に対してとくに何もいうこともなく、微笑を浮かべがら黙って座っていました。
「お待ちどうさまです!」
トンっと元気よく、ウェイトレスの彼女は、持ってきたお皿を置きました。
割と早く、先ほど注文したメニューが来ました。
「では、ごゆっくり!」
またウェイトレスさんはペコッと頭を下げて、タタッと忙しそうに歩いていきました。
それにしても、彼女はやはり初めて会った気がしません。
と、まあ悩んでも、答えは出そうにないのですが・・・・。
だから、とりあえず夕食に集中することとしました。
(うーん、歯ごたえはあるなあ・・・。)
僕が食しているそれは、流石にアメリカのイメージに合っていて、ボリュームは十分すぎるほどにありました。
そして、そのステーキランチは・・・。
自分の趣向としては、洋食自体は好きなジャンルでした。
だからスイスイと、自分の胃袋に入っていくのでした。
でも・・・、自分としては、それだけの感想で済まされる訳では無かったのでした。
それは何故かと応えたら・・・、一言で言うと、何故か懐かしい感じがするのです。
しかもその感覚は、最近にも体験していたのでした。
それは具体的に言うと、紅葉さんの実家のパン屋さんのパンの味が、懐かしいと感じた気持ちと、まさに酷似していたのです。
その言葉では表現出来ない様な懐かしさと、本体の美味しさがミックスされて、僕に至福の時間を提供してくれているのでした。
そしてこの幸福感は、異次元の感覚に、僕を導くこととなるのでした。
(ん・・・・?んん・・・・??)
なんだか自分の目が潤ってきて、視界もぼやけて来たのでした。
僕の目の前にいる刻露さんも、テーブルや料理もグニャグニャした形に変化していきました。
(う、ううーん・・・。)
でも、その目の前の空間のゆがみはじきに修正されて、自然な視界に元通りになりました。
(ほっ、大丈夫だ・・・。)
僕は、安堵感に胸を撫で下ろしました・・・・・が!、しかし・・!
(あれ・・・・!?)
自分がテーブルで向かい合っている人は、刻露さんではありませんでした。
僕の目の前にいる人は、全く違う男性なのでした。
突如として自分の前に現れた彼は、一体誰なんでしょうか?
この人はサングラスを掛けていて、そして口ひげを生やしていて言っては悪いのですが、ちょっと厳つい雰囲気です。
でも・・・・、僕は特にこの男性が怖いなどとは感じないのでした。
それどころか、この男性に対しては、自分は懐かしさを感じてしまうのです。
「しっかり、食べるんだぞ。」
その男性は、ランチを食べながら僕に、思いもよらない言葉をかけてきました。
「うん。」
そして僕は素直に、その男性に返事をしていました。
僕はモクモクと、食事を続けていました。
(んん・・・・・。んんん・・・・。)
再び自分の視界が、ぼやけてきたのでした。
その男性の姿も、歪んできました。
「どうしたのですか?夏目さん。」
気がつくと目の前には、あいも変わらずに刻露さんは座っていました。
(一体、あの人は誰だったのだろうか?
それとも、ただの僕の妄想なのだろうか・・・・。
しかし・・・。)
僕は、ちょっと考え込んだのですが、すぐに我に返りました。




