良かった、彼で
とても密度の濃い一日を終えて、僕はアカデミーの寮に入りました。
この寮は完全個室であり、どちらかといえばアパートの様な感じでした。
僕の左となりの部屋は空室で、右隣にはすでに誰かが入室している様でした。
こうゆうときには、どうしたら良いのでしょうか・・・。
日本でいるなら、引っ越しの挨拶をするみたいな流れなのですが・・・・。
ここ、ニューヨークでもそうするべきなのでしょうか・・・?
その様な考えもあって、僕は廊下で立ちすくんでいました。
すると・・・・
「よっ!!
さっきは、どうもね!!」
(わわっ!!!)
いきなり背後から肩を叩かれて、僕は驚いてしまいました。
(だ、誰なんだろう・・・・。)
そこで僕は、とりあえず後ろを振り返りました。
「あ・・・・・・・・。」
そこには、僕より少しだけ背が低い、黒人の少年がいた。
一体、彼は誰なんでしょうか?
「えー・・・・、と・・・・・」
僕は何を言ったら良いのか、全く分かりませんでした。
何でかというと自分としては、この黒人の少年に対しての面識が、まるで感じられないからでした。
でもその少年は、僕の態度の構わずに続けてきました。
「この部屋にはいるの?」
「う、うん・・・。
そうだけど。」
ダイレクトな彼の質問に対して、僕もシンプルに答えを返しました。
「僕は、サニー、あんたは?」
どうも少年は、サニーという名前らしいです。
それにしても、彼は僕が戸惑っているとか感じていないのでしょうか・・・。
「で、あんたは?」
ポンッと、今度は正面からサニーは、僕の肩を軽く叩きながら、恐らく名前を聞いてきたようです。
「あ、うん。
僕は、ミナミ・ナツメ・・・。」
僕は、余り自身のない英語で応えました。
「ふーん。
じゃあ、ミナミって呼んでもいいのかい?」
高い声でサニーは、全く濁りのない澄んだ瞳で僕を見ながら言いました。
「あ、うん・・・。」
その悪気の感じられない彼に対して、僕はそのまま相づちを打つだけでした。
次から次へとサニーは、僕に質問などを投げかけてくるのですが、ちょっとしっくり来ないモノがあるのでした。
そこで、逆に自分の方から疑問が湧いてきたのです。
僕はためらいながらも、彼に対してちょっと失礼な質問をしました。
「あの・・・・。」
「なんだい?」
サニーのハッキリした、相づちに若干のためらいがありながらも、僕は言いました。
「サニー、僕はキミといつか会ったことがあるのかな?」
僕がそう言った瞬間、彼は呆気にとられた様な表情をしました。
「ええー!!
なんでだよー!!」
そして彼は両腕を挙げて、まるで小さな子供のように、あからさまに残念そうな顔になりました。
「昼間、一緒に練習したじゃないかー!」
どうやら、僕はアカデミーの練習で、このサニーと絡んでいたようなのでした。
ところが、自分としてはとにかく練習について行くだけで必死で、たの人がどんな感じなのか記憶に植え付ける余裕も無かったのです。
「ご、ごめん・・・・。
実は今日から初めての練習の参加で、キミの顔を覚える余裕が無かったんだよ・・・。」
僕は彼に対して、精一杯の言い訳をしました。
でも、この気持ちはサニーに通じるのでしょうか・・・。
「そうかあ・・・。
じゃあ、しょうがないかなあ・・・。」
サニーは、ちょっとだけ眉をひそめました。
「うん、ごめん・・・。」
僕は、これ以上は言い訳を続けることはしませんでした。
「でも、あんだけ正確なストロークをするんだから、凄いと思うよ。」
すると、サニーは一転変わって、爽やかな顔になりました。
「じゃあ、また明日ね!」
そう言って、彼は軽く右手を挙げて、僕の左隣の部屋に入っていきました。
(あ・・・、彼は僕のお隣さんだ・・・。
良かった、彼で。)




