彼らは只者では無いと思われます
「はいはい、自己紹介タイムです。」
刻露さんは、パンパンと両手を合わせ叩き音頭を取り始めました。
「まあ、私はここにいる方々全員とは、お知り合いなので改めての自己紹介は省かせていただきます。」
どうやら刻露さんは、この場の進行役になることで話をスムーズに進めてくれているみたいでした。
でも・・・・。
少しだけ疑問点が、自分の頭の中で浮かび上がって来たのでした。
================ 僕は刻露さんの事を知らない =================
そうです。
よくよく考えてみたら僕は、刻露清秀という人の事を全く知らないのでした。
フランスのテニス用品メーカー、バベルの営業担当者、身長185cm位のイケメン・・・・・。
(・・・・・・・・・・・・・。)
本当に僕は、彼の肩書きと表面上の事しか知らないのでした。
そんなよく知らない人と、僕は異国の地で行動を共にしているのです。
・・・、共にしているというよりも、自分の今置かれている状況では、彼に頼るほかないのです。
「僕は、夏目巳波と申します。
日本から本日、このニューヨークに来たばっかりです。」
そうゆう自分も、表面的な自己紹介をしてしまったのでした。
「へーえ、何でまた来たのか?」
南米系(?)の男性は、僕に突っ込んだ質問を投げかけて来ました。
「はあ、テニスの為にやって参りました。」
僕は、今ひとつハッキリしない返事をしました。
これというのも、自信が不足しているせいからなのでした。
「どれくらい滞在するの?」
こんどは、東欧系(?)の女性が問いかけてきました。
「は、はあ・・・それがいつまでなのかまだ未定なんです・・・。」
本当にいつまで、このニューヨークにいるのかわかりません。
勿論、僕がテニスプレイヤーとして身を立てることが出来るようになるのが、ここに来ている目的なのですが。
「ふうん・・・・、じゃあしばらくの間はここにいるのかも知れないのね・・・。」
彼女は頬に手を当てながら、なにか含みを持たせているのではないかという雰囲気を醸し出していました。
「オレはオウバーだ。
アルゼンチンから来たんだ。
そしてこいつはな・・・・。」
南米系(?)の男性は、本当に南米の人でした。
そして彼は、東欧系(?)の女性の肩をポンと叩きました。
「レイよ・・・。」
彼女は、名を名乗りました。
(レイ・・・・・・・、どこかで聞いた名前だな・・・。)
「ハンガリー出身よ・・・。」
続けて彼女は、自身の出身国を言いました。
(え・・・・、ハンガリー・・・・・。
確かハンガリーは東ヨーロッパじゃないのかな・・・。)
なんと東洋系(?)の女性は本当に、東欧の女性なのでした。
(僕の見立ては間違っていなかった・・・。)
「じゃあ、早速プレイしますか!」
刻露さんが、早々と自己紹介を切り上げました。
とはいっても、お互いの名前と出身国くらいしか分かっていないのですが・・・。
僕と刻露さんが同じコート側に、相手側のコートにオウバーさんとレイさんが入りました。
そして、お互いに※ストロークを打ち合いました。
※ストローク・・・テニスにおいて、ボールをワンバウンドさせて打つプレー。
(おお・・・・・。)
明らかに、相手のオウバーさんとレイさんは上級者クラスの腕前でした。
ハッキリ言って、僕は彼らに手加減されていると感じました。
ひょっとして、こんなハイレベルなプレイヤーがアメリカにはゴロゴロいるのでしょうか・・・。
そして僕を戸惑わせたのは、それだけではなかったのでした。
自分は横でプレイする刻露さんをチラチラと見ていました。
(う、上手い・・・・。)
刻露さんも、かなりの腕前を持っているようです。
明らかに学生時代からの、テニスの経験者と思われます。
刻露さんに対して僕はバベルの営業マンという印象が強く、テニスを実際にプレイする雰囲気を感じていませんでした。
彼は実業団にでも所属していたことが、あるのではないのでしょうか・・・?
そして練習もそこそこに、僕・刻露さんのペアと、オウバーさん・レイさんペアとで試合形式を行いました。
あくまで試合形式なので、みんな無理しないプレイをしていたようでした。
・・・・・正直にいうと、無理していないと言うよりも・・・・
=================== なにか隠している ==================-
結局のところこの試合形式は、オウバーさん・レイさんペアの方が多くのゲームを取りました。
オウバーさんもレイさんも・・・、まったく息を切らしていない・・・。
明らかに彼らは只者では無いと思われます。
そして、刻露清秀さんも・・・・・・・・




