貴方は何者・・・・
「あ、貴方は・・・・・・・!」
意外な人物の登場に対して僕は、思わず本人に聞こえてしまう声を出してしまいました。
恐らく読者の方々の思っているとおりに、その人は僕の知っている人物でした。
まさか真っ先に渡米してから、出会う人が彼だとは・・・・・。
「お久しぶりです。
夏目さん・・・。」
背の高いその人は僕を見下ろしながら、優しい口調で話しかけてきました。
勿論、自分は彼を見上げないと会話が出来ないのですが・・・。
「長旅、どうもお疲れ様でした。」
その人は僕に対して席に座るのを奨めるような、ジェスチャーをしました。
僕は彼のその気遣いには、素直に応えて着席しました。
続いてその人も、僕の隣の席に座りました。
「さて、早速ご案内いたしましょうか?」
「えーと・・・・。」
僕は、その人の問いかけに即答出来ませんでした。
「まあ・・・・、多少の回り道をしながら参りましょうか・・・。」
彼は僕の気持ちを見透かした様に、余裕のある台詞を出してきました。
しかし異国の地に来ているハズなのですが、日本人と、しかも知っている人物との会話で、自分としては徐々にリラックスしてきた気がするのでした。
ラウンジで珈琲をすすりながら彼は、僕をどうゆうコースで案内しようか、周りを行き交う人々を眺めつつ計画を練っているように見えるのでした。
それにしてもこのニューヨークの空港は、おそらく様々な国の多くの人々が行き交っています。
ここが人種の坩堝であることは予備知識として知っていたのですが、いざ対面してみるとまるで自分が映画かテレビの中にいるような錯覚に陥ってしまっている自分に気がつきました。
まるでファッション雑誌に載っているような、日本人とはまた違ったあかぬけさを持った若い女性も多々みられます。
「さて、もうそろそろ行きましょうか、夏目さん。」
薄く目をつむっていた彼は、僕を軽く促しました。
「分かりました、刻露さん・・・。」
自分としても、そろそろたつべき頃合いではないかと思っていたところでした。
僕は刻露清秀の運転するクルマの、助手席に乗っていました。
「どうですか?夏目さん。」
「凄いですね・・・・。」
映画やテレビでみて描いていたイメージと、全く同じでした。
ニューヨークの街は、大きな道路と多くの自動車で、まさにごった返していました。
日本の街も交通量は多いのですが、ニューヨークは道路もクルマも大きくてさらにスケールの大きな都市だと感じられました。
それに道沿いを歩いている人々も、とても大きかったです。
やはり自分は外国に来たんだ、という実感が今になって湧いてきたのでした。
「まあ、この街に慣れるのは、おそらくそんなに時間はかからないですよ。
もっとも、夏目さんがこれから生活する場所は、ニューヨークの郊外にあるんですけどね。」
「は、そうなんですか。」
僕は彼の発言に少しばかり拍子抜けした感があったのでしたが、反面ホッとしたりもしたのでした。
何故ならずっと賑やかなのも、考えものだと思ったからです。
どうやら刻露清秀さんは、この街にはとても慣れているようでした。
彼は日本とアメリカを、頻繁に行き来しているのでしょうか・・・。
ここで僕は刻露清秀さんは一体どうゆう人なんだろう、という考えが湧いてきました。
確か彼はBabel社の営業担当者だった、と思います。
でもその後の刻露さんの事を、思い返していくと純粋にそれだけでは済まないと感じられるのでした。
紅葉さんは、プリンセス社のラケットを使用していて本来なら関係ないはずなのに、やたら刻露さんと親しそうでした。
そして後日に、レッドリーフ・テニススクールには、とても綺麗な白人の女性と一緒に紅葉さんを尋ねてきました。
さらに紅葉さんが、テニススクールを退職した日に彼女のアパートに僕が言ったときに・・・・、クルマで去る刻露さんと白人女性を目撃しました。
どうも彼と紅葉さんは、普段から接触のある関係ではないのでしょうか。
そしてなんと言っても・・・・。
雪乃さんから待ち合わる様に言われていた人物が、彼だったとは・・・・。
だから刻露さんと雪乃さんとも、繋がっています。
数々の疑問を抱いていた対象の人物が、今まさに僕の目の前にいる。
彼の運転するクルマに同乗している・・・・。
一体、刻露清秀という人は何者なのでしょうか。




