紅葉さんは・・・・健在・・・・
紅葉さんの元を去り、僕は病院を出て早速にテニススクールに連絡を入れました。
支配人が電話に出てくれたのですが、状況を察してのことか本日は休んでも良いと言われました。
僕はそのお心遣いに甘えて、自宅で休養することにしました。
確かにこの睡眠不足の状態で、勤務しても満足のいく働きはできないでしょう・・・。
自宅に戻った僕は、母に昨日起こったことを説明しました。
母は僕のことを心配してくれていたのですが、少しだけ気になる点がありました。
なんだか母は、僕の事を全て見透かしているのではないかという雰囲気なのでした。
一体、僕の母は・・・・・。
そして十分に睡眠と休息を取った僕は、レッドリーフ・テニススクールに行きました。
そして、支配人をはじめとしてスタッフの皆とお話をしました。
「夏目君は、残り少ない勤務日数だが、秋原くんのお見舞いには行ってあげてくれないかな?
その分キミの負担にならないように、仕事の方は調整するからね。」
支配人は、もう退職したはずの紅葉さんの事がとても気になっているようでした。
僕はそんな支配人の態度に、非常に好感を持ちました。
「秋原の奴は、やはり疲労が蓄積していたんだな・・・。
すこしの日数だが、元気付けてやれよ。」
日向コーチも、やはり紅葉さんに対する気遣いは変わらないようでした。
皆さんの態度に接したことによって、僕の気持ちはとても楽になりました。
僕は遠慮はせずに、紅葉さんと許させる回数だけ会いに行こうと決めました。
僕は、テニススクールを出ると、紅葉さんが入院している病院へと向かいました。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・)
今朝に別れたばっかりというのに、それから紅葉さんがどうなったのか気になって仕方がありませんでした。
そう考えつつも、病院にたどり着きました。
(紅葉さん、どうしているかなあ・・・。)
僕は少々緊張を持って、紅葉さんの病室の前に立ちました。
そっと、僕は病室のドアをあけました。
そのときに、僕にデジャヴを生じさせるものが目に入ってきました。
紅葉さんは、窓に向かって立っていました。
そしていきなり彼女は、頭の上に両腕で輪っかを作りました。
さらに両手の拳を腰につけて、その場でスキップしだしました。
(こ、これは・・・。
も、紅葉さん・・・・。)
どこか(?)でみたような、光景でした。
僕は別も意味で、紅葉さんが心配になってきました。
「あわっ!!
巳波君!!」
僕の存在に気がついた紅葉さんは、振り返って慌てていました。
「カラダがなまっていたから、体操をしていたのよ。」
紅葉さんは頭を回転させて、精一杯の理由を考えているようでした。
そして僕はそんな紅葉さんを見て、ちょっとだけ笑ってしまいました。
「ちょっと、巳波くんー。」
僕の我慢しながらの微笑をみてか、紅葉さんは少し不満そうでした。
しかし入院していても、紅葉の明るさは健在だったようでした。
そんな彼女を見て、僕は再び安心を取り戻しましたのでした。
少し落ち着いたら僕たちは、そこそこなペースで会話をしました。
紅葉さんの話によると、お昼に御両親と妹さんが駆けつけてくれていたそうです。
僕によろしくと、伝えておいて欲しいと言っていたと、紅葉さんが語っていました。
「紅葉さん・・・。」
「ん?なに?巳波君・・・・。」
僕は紅葉さんに対する霧がかった様な想いを、伝えようかと考えました。
しかし・・・・。
「い、いや・・・。紅葉さん本当に体調は大丈夫なんですか・・?」
「・・・・、うん、大丈夫だよ・・・。」
紅葉さんは、僕が何か別のことを言わんとしているのか、恐らく分かっている感じがしました。
彼女は、とても勘の鋭い女性ですから・・・。
実は僕は先日に自宅で見たアルバムの、紅葉さんとの写真の事が気になっていたのでした。
たぶん数年前に、僕と紅葉さんは会っていました。
しかしそれが、どれほどの頻度なのかはわかりません。
ひょっとしたら、一回限りしか出会っていなかったのかも知れません。
若しくはある時期に、日常的に会っていたのかも・・・・。
しかし・・・、病床の紅葉さんを、問い詰めることはできませんでした。
彼女に余分な精神的負担をかける事など、とうてい考えられません。
「また明日も、来ますからね。」
「ありがとう・・・!」
何故だか紅葉さんは、少しホッとしてるような表情を見せていました。
彼女に別れを告げた僕は、病室を後にしました。
病院のロビーを歩いていたら、ある人とすれ違いました。
僕は気づいていましたが、相手の人は気がついていませんでした。
そのひとは・・・・、僕と母でした・・・・。
何故・・・・・・・・・




