昨日は、本当にありがとう!!
目を覚ました紅葉さんと僕の処に、女医さんと、先ほどの小柄な女性の看護士さんが現れてきました。
「落ち着いたようね・・・。紅葉ちゃん・・・。」
その女医さんは、とても慣れた感じで紅葉さんに語りかけていました。
なんだか紅葉さんに対して、とても優しい感じで接しています。
「うん・・・・。」
紅葉さんは俯きながら、とても短い返事をしました。
まるで彼女は女医さんに対して、自然な態度を取っているように見えました。
それをみていた僕は、なんだか大人と子供の会話みたいだなあ、と思いました。
これはあくまで僕の推測であるのですが・・・・
この女医さんはおそらく、傍の小柄な女性の看護士さんと同様、紅葉さんを永いこと診てきているのでしょう。
「紅葉ちゃんは、今は体調は良くないけど大丈夫だからね・・・・。
ちょっとの間・・・、入院して療養して欲しいのよ・・・。」
僕は女医さんの落ち着いた台詞に、正直ホッとしたのでした。
少なくとも紅葉さんの容態が、命に別状がないという保証が得られた様に思えたからです。
「うん・・・、分かった・・・・。」
そこで紅葉さんは、僕が今までみたことのないのような素直な表情をしていました。
そんな感じのとてもしおらしい紅葉さんから、女医さんはかなり信頼されているんだ、と僕は思いました。
「それじゃあまた来るからね・・・。
紅葉ちゃん・・・。」
そうして女医さんと、看護士さんは退室していきました。
「紅葉さん・・・、ゆっくり休んで下さいね・・・・。」
病室に2人きりになったことで、僕は彼女に言葉をかけるタイミングとなりました。
でも・・・・。
「ふう・・・・。」
彼女たちが退室した直後に緊張の糸が切れたのか、僕は急に睡魔に襲われました。
「うん・・・?巳波君こそ、大丈夫なの?
もう、お家に帰って休んだ方がいいよ・・・。」
僕が疲れを見せたことによって、紅葉さんに逆に気を遣わせてしまったようだ・・・。
「そ、そんなに、気を遣わなくてもいいですよ。
紅葉さん・・・。」
反射的に出たその言葉に、嘘は無かったつもりです。
本当に僕は、もうちょっと彼女の傍でいたかったのです。
「いいのよ・・・。
巳波君は、お家で休んでも・・・。」
それでも紅葉さんは、相変わらず僕に対して気遣っていました。
「大丈夫ですって!!」
その言葉に対して僕は、まだまだここでいるつもりなのを強調しました。
「ああーん!もうー!
巳波君は、お家に帰って休んでよー!」
紅葉さんは大きく両腕を挙げて、何故か急に語気を強めてきました。
今の彼女は、まるで我慢をしかねて癇癪を起こした少女の様な態度でした。
「わわっ!も、紅葉さん・・・!
そんなに動いたりしたら、点滴が逆流しますよー。」
それにしても紅葉さんは、何で僕に家に帰って欲しいのでしょうか。
実は彼女はあんまり長居されたら、嫌な理由でもあるのでしょうか。
しかし僕が抱いている最中の、その疑問はすぐに解決することとなります。
先ほどから、なにやら背後に気配を感じているのでした。
==================== ハッ!! ======================
そして気がつけば、先ほどの小柄な女性の看護士さんが立っていました。
「さあ、お体をお拭きしましょうか。」
その看護士さんは、タオルや洗面器など体を拭く用意を持っていました。
(そ、そうゆうことなのか・・・・・!?)
僕はやっとの事で、モヤモヤしたものがハッキリしたのでした。
(そ、そうだ、紅葉さんは昨日からお風呂に入っていないのだ・・・・。)
それに彼女は、体調不良で大量の汗をかいていました。
たしかに紅葉さんが体を拭こうというのに、僕が同室するわけにはいきませんでした。
「気がつくのが遅いよ。
巳波君・・・。
アタシ、昨日からパンツも履き替えていないんだから・・・。」
紅葉さんはシャツの胸元を右手でパタパタさせて、ちょっと意地悪な笑顔を浮かべていました。
「は・・・、はあ・・・・。
わかりました・・・・、紅葉さん・・・。」」
その彼女の困った台詞に対して、僕はおとなしく家に帰ることにしました。
「それに、巳波君もお風呂に入らないとね・・・。」
紅葉さんは僕も昨日からお風呂に入っていないことを、遠慮なしに突っ込んできました。
こうゆう彼女の態度を見ていると、自分も安心した気分になれたのでした。
その一部始終を見ていた小柄な女性の看護士さんは、半分呆れたように・・・しかし優しそうに笑っていました。
「じゃあ、紅葉さん。
また時間を作って、来ますからね・・・。
お元気で・・・。」
僕が出入り口のドアノブに手をかけた、その瞬間・・・。
================昨日は、本当にありがとう!!==================
大きな声が、聞こえてきました
(紅葉さん・・・・・・・・・・・・・。)




