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ちょっと年上の女の子  作者: らすく
第一章 旅立ち
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コートで励む後輩達

 いくつかの四角い空間が並んでいます。

 かけ声と、ラケット・テニスシューズ・・・、今まさに若い力が躍動している熱気に、僕は圧倒されました。

 しかし、その空気がガラッと変わりました。

 そうです、久々にテニスコートに顔を出した僕が原因の様でした。

 僕の母校のユニフォームに身を包んでいる彼達・彼女達の視線の方向が、集中したのでした。

 それは勿論、僕に対しての注目です。

 僕は実のところ、かなりの小心者です。

 だから可愛い後輩達だとしても、見つめられるのは大変なことなのでした。

 そして、この事態は、次のフェーズに移行していったのでした。


 「あっ!!

 夏目キャプテン!!」

 「夏目主将!!」

 「お久しぶりですうー!」

 「元気ですかー!?」

 次から次へと、僕への挨拶攻撃が降り注ぎました。

 僕の後輩達は、とても元気な子ばかりでした。

 明らかな純粋な気持ちが感じられるだけに、僕はこの子達に対するプレッシャーの様なものがありました。

 僕は、考えつく限りの気の利いた言葉を、その頭からひねり出しました。

    

 「夏目先輩でいいよ。

 今のテニス部を束ねているのは、こいつ等だよ。」

 僕は、和気かきと、男子テニス部の主将の2人の肩をポンッと軽く叩きました。

 僕の軽いタッチを、頭上に感じた彼女は舌をほんの少し出して笑っていました。

 「その謙虚なのが、夏目先輩のいいところなんだなー。」

 和気香かきかおりが、自分の頭を右手で軽く押さえて言いました。

 

 「そうだよなー。

 夏目キャプテン謙虚!」

 「夏目主将、控え目!」

 また口々に後輩達は、僕にお世辞(?)を投げかけてきました。

 「まあまあ、気にしないで練習を続けていいよ。」

 僕は、彼等・彼女等を窘める感じで、普段の振る舞いを促したのでした。

 

 「はいはい!!

 夏目先輩が見守っているから、みんな頑張って練習しようねー!」

 和気香かきかおりが、テニス部全体を引き締めるかけ声を発したのでした。

 しかし、彼女の世話好きな性格と、仕切りたがる性格は、本当に才能だと思いました。

 この僕の母校のテニス部は、今でも、いや自分が在籍していたとき以上によくまとまっていると確信できたのでした。

 僕に見守られながら(?)彼等・彼女等は、変わらずに練習に励んでいました。

 「よくまとまっているなあ・・・・・・。

 安心したよ・・・・。」

 僕は、まるで独り言のように呟きました。

 その時に、キュッと、僕の着用しているポロシャツの裾を引っ張られるのを感じました。

 その行為の主は、和気香かきかおりなのでした。


 「先輩!

 有り難う・・・・。」

 彼女は、先ほどの僕の呟きを、ちゃんと聞いていたのでした。

 その女の子の屈託のない笑顔に、僕は少しばかりの戸惑いを覚えました。

 「和気かき・・・・・。

 応援しているからな・・・・。」

 僕は精一杯のエールを、和気香かきかおりに送りました。

 その僕の言葉に対して、彼女はまるで子猫の様に目を細めていました。

 「先輩も・・・・・。

 夢を叶えてね・・・。」

 女の子は僕に対しても、嬉しい言葉を返してくれました。


 僕は、とても心地よい雰囲気に浸ってしまっていました。

 そこにチョンッと、僕の肩をさわる柔らかい手がありました。

 「せんぱい!!」

 「ん??}

 僕は彼女に何を言われるのか、身構えました。

 「先生に会いたいのでしょう?」

 流石は、和気香かきかおりでした。

 この娘は、僕が何を欲しているのか理解できているのでした。

 「うん、でもここにはいないんだよね?」


 「はい、ここにいないんなら、たぶん職員室にいるんじゃないでしょうか?

 夏目せんぱい!」

 和気は、僕に先生に会いに行くように促してきました。

 

 僕は、テニス部を後にして、職員室に向かう事にしました。

 後輩達に練習に集中してもらいたいので、あえて何も言わずに立ち去るつもりでした。

 「先輩・・・・。

 また会えますか・・・。」

 僕を見送る和気香かきかおりは、さっきよりも寂しそうでした。

 「ありがとう、和気かき・・・・・・。

 またな・・・・・。」

 

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