もみじ20%
僕のゴールデンウィークは最終日です・・・。
ともかく、僕と紅葉さんのペアがゲームカウント2-0でリードしています。
しかも今度のゲームは紅葉さんのサーブです。
僕は紅葉さんがなにかやってくれるだろうと、とても期待を持っていました。
先ほどのサーブ練習でチラッと見る限りでは、紅葉さんはサーブの力は結構あり簡単には折夫さんも雪乃さんも返せないんではないかと思うのです。
しかし、その期待は容易に裏切られるものであったのでした・・・・。
「さて、どうしてやろうかしら!」
紅葉さんはかなり余裕の表情を浮かべて、サーブを放つポジションのベースライン(※注釈)の手前に立ちました。
※ベースライン・・・テニスコートの縦の長さを決めるラインであり、このラインの後ろからサーブは打たなければいけない。
紅葉さんは、僕の予想通りに早いサーブを放ちました。
しかし・・・・。
折夫さんは、とても鋭いリターンを打ってきました。
ボレーをやりたいが為に、ネットを目指していた紅葉さんは上手く対処できずに、ボールは僕と紅葉さんの間を抜けてポイントが入りました。
折夫さんは、先ほどのサーブ練習で早くも紅葉さんのサーブのタイミングを掴んできたのでした。
やはり、折夫さんの動体視力と反応の良さは、世界トップレベルだけのことはあります。
先ほどの作戦会議で紅葉さんが言っていたとおり、僕達の戦力ではまともに戦っていてはいけないのでしょうか。
「やっぱりね・・・・・。」
紅葉さんは、自分のサーブあっさり返されたにもかかわらず、全く同様が見られませんでした。
まさか、先ほどのサーブ練習でタイミングを取られるのは、紅葉さんの範疇であったとでもいうのでしょうか。
もしそうだとしたら、なんでわざわざ対戦相手に手の内を見せるようなことをしたのでしょうか。
その答えは、じきに分かることとなるのでした。
「ふんっ!!」
今度は、紅葉さんは気を取り直した様子で、雪乃さんに対してサーブを放ちました。
雪乃さんも、リターンを返してきましたが、その先は僕の射程内でした。
バシーン!!!!!!!!!
僕はこの試合初めてのスマッシュを決めたのでした。
紅葉さんのサーブは、決して通用しない訳では無かったのでした。
おそらく折夫さんの、リターン力がそれだけ凄いと言うことなのでしょう。
実際、同じ女子選手である雪乃さんにとっては、紅葉さんのサーブは驚異なのではないでしょうか。
そして再び紅葉さんは、折夫さんにサーブを放つ事となります。
気のせいか、紅葉さんはとても薄い、薄い笑みを浮かべているように見えました。
「はっ!!!!」
紅葉さんは若干右腕を開き気味にサーブを打ちました。
しかも・・・・!?
そのサーブはとても遅かったです・・・・・。
しかし、その分を補う余りの回転数が感じられました。
折夫さんはその紅葉さんの超低速サーブを、難なく返しました。
だがしかし・・・・。
バッシイイイイ!!!
紅葉さんは、すでにネットの近くに接近しており、強烈なボレーを決めたのでした。
(なんで?なんであの遅いサーブで、紅葉さんは自分がボレーを出来る体制を整えられたのだろうか・・・・?)
僕は、あの遅いサーブに対しての、紅葉さんの凄いボレーのギャップが、非常に不自然に感じられて仕方がないのでした。
明らかに、紅葉さんは余裕を持って、折夫さんのリターンに対処してポイントを奪った様に見えるのでした。
紅葉さんは、やけにスッキリした表情で、少し僕の方を見やりました。
なんだか彼女は僕に対して、謎かけでもしているかの様な雰囲気を醸し出していたのでした。
余裕の紅葉さんは、結局その後もポイントを連取して、最初の1ポイントを奪われた以外はノーダメージでゲームを取ったのでした。
3ゲーム過ぎたので、コートチェンジ(※注釈)とともにベンチに座っての休憩時間がもうけられています。
※コートチェンジ・・・奇数ゲームが経過するたびに、風向き・太陽の向きなどの不平等をなくすために、相手とコートを入れ替えるルール。1ゲーム後以外には、90秒の休憩をとっても良いこととなっている。
僕と紅葉さんは、ベンチに座りました。
「わかったかな・・・?」
紅葉さんは、僕に謎かけの答えを求めてきました。
「はい、分かったと思います・・・。」
僕はまあまあ、自信があったのでそう答えました。
そして僕は、回答を導き出した課程を、紅葉さんに説明しました。
「紅葉さんは、折夫さんに対して、自分の早くて強いサーブを見切られた事に対しての備えはしていたんですね。
それは、折夫さんに打ち込まれにくいサーブ・・・・。
スピードを犠牲にしてでも、ガットにボールをこすりつけていくサーブですね。
遅いサーブだから、簡単に折夫さんにリターンされてしまいますね。
しかし、その紅葉さんの力の20%しかだしていないのではないかというサーブ・・・。
それには、紅葉さんに別の狙いがあったのですね。」
僕は自分でも驚くほどに、スラスラと説明文が頭のなかに出現してきたのでした。
「ふうん。
それで・・・?」
紅葉さんは、「早く言ってみなさいよ。」と言わんばかりに、自分の手の甲に顎を乗せて僕の言葉に相づちを打ちました。
「紅葉さんの狙いは、時間稼ぎだったのですね。
紅葉さん自身が、楽にネットに接近出来るように、ワザと遅いサーブを打ったのですね。
だから、折夫さんのリターンに対抗できたんだ・・・・・・。」
僕はズバリと結論を述べました。
「そうだねえ・・・・。
良く分かったわね、巳波くん・・・。」
「うわっ!!」
僕は今の状況に気がついて、驚いてしまいました。
(も、紅葉さん近い・・・・・。)
紅葉さんの顔は、僕の顔の極めて至近距離に接近していました。
「きゃっ!!」
今度は何故か、紅葉さんが驚いてしまっていました。
「んん?」
僕は訳が分からずに、ちょっとだけ首を動かしました。
「どわああっ!!」
なんと、僕たちの至近距離に、日向コーチの大きな顔が接近していたのでした。
「お前ら!
もうタイムオーバーだぞ!!」
日向コーチは、僕と紅葉さんに早く試合に戻るように促したのでした。




