僕のもう一つの武器
このエキシビジョンマッチの流れは、まだ僕と紅葉さんに来ていると思われます。
でも順調にいっているだけに、僕はいつ失速するのか分からないという緊張感があるのです。
本当にどこまでこの勢いは続くのでしょうか・・・・。
おそらく僕の今の表情は、浮かない見本となっていることでしょう。
「楽しみだね!!」
「うわっ・・・・・!
急に紅葉さんがニッコリ話しかけてきて、僕はビックリしました。
一体、紅葉さんは何を根拠に「楽しみ」などという言葉を発したのでしょうか。
「いよいよ、巳波くんが目立つときが来たんだよ!!」
「は、はあ・・・・。」
僕は今ひとつ紅葉さんの言うことが理解できないのですが、彼女の勢いに押されてしまいました。
「あの・・・・、紅葉さん・・・・。」
「ん?なあに?巳波くん!」
紅葉さんは、相変わらず笑顔でした。
「どうして、僕が次の局面で目立つと言えるのですか?」
「なあんだ!そんなこと考えていたの?」
紅葉さんは、まるで僕が要らぬ心配をしているかのような口調でした。
「うん、それわね・・・・。」
「はい・・・。」
「ただ、やればいいのよ・・・・。」
「はい?」
「ただ単に、巳波くんが出来る事をやればいいのよ・・・・!」
なんだか僕は紅葉さんに、ごまかされた様な気分でした。
(紅葉さんも桜さん同様に、僕に体感しろ、ということが言いたいのだろうか・・・。)
そして、第2ゲームが始まったのでした。
このゲームは、折夫さんのサーブから始まります。
最初は紅葉さんのリターンです。
折尾さんのスピンサーブが、放たれました。
紅葉さんは、そのサーブリターンすると同時にネット際に向かって前進しました。
やはり紅葉さんは、前に出てボレーをやりたいのでしょう。
しかし・・・・。
バシッ!!!!!
紅葉さんのリターンは、若干甘く、折夫さんのストロークに足下を抜かれてしまいました。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
紅葉さんは、ちょっとだけうつむいて・・・。
「タハハッ・・・!失敗しちゃった!」
紅葉さんは、舌を少しだして笑っていました。
そして、なんと紅葉さんは・・・・。
「ドンマイ!!」
そういって両手を広げていました。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
僕は紅葉さんに対して、突っ込んで良いのか、どうか良く分かり分かりませんでした。
周りのギャラリーの中にも、苦笑いらしきものを浮かべている人もおり、僕の感じていることは的外れでは無いことが伺えました。
気を取り直して、今度は僕のリターンです。
折夫さんのサーブが、僕に対して放たれました。
僕は、作戦会議の通りに・・・・・
ロブ(※注釈)で返しました。
そうです、ロブは単体では攻撃性の薄いショットなのであらかじめ決めておけばミスをする確率は下がります。
僕のロブ・ショットは折夫さんの方向に帰りました。
折夫さんも無理をせずにスピンショットで帰してきました。
折夫さんのショットも僕のロブほどでは無いですが、順回転が多くかかっており、その軌道は高いものでした。
前衛にいた紅葉さんは、折夫さんのスピンショットに手が出せませんでした。
しかし・・・。
※注釈・・・ロブは、相手のコートの後方へと打つ軌道の高いボールである。
僕は何の躊躇もなく、折夫さんのスピンショットを再び高い軌道のロブで返しました。
勿論、高さが売りのロブに対して、前衛の雪乃さんは手を出すことが出来ません。
今度は折夫さんは、フワッと高いロブを打って気ました。
だが、しかし・・・・・。
バシーン!!
その高さはあるものの、スピードのないロブは紅葉さんのスマッシュの餌食になりました。
「フフーン♪♪」
紅葉さんは、上機嫌でした。
なにはともあれ、このゲームのポイントは並びました。
そして、再び紅葉さんのリターンです。
シュッ!!
紅葉さんは上手にスライスショット(※注釈)で、リターンをしました。
そして、スライスショットの長い滞空時間を利用し、ネット近くまで前進し紅葉さん得意のボレーでポイントを獲得しました。
このゲームでも、僕たちはリードすることに成功したのです。
※注釈・・・スライスショットは、ボールに逆回転をかけるショットである。ボレーに近いフォームで打つため、回転数が多くなりがちでスピードが出にくく滞空時間も長い。
僕は次のリターンでも、ひたすらロブを連発してポイントを奪取したのです。
そして・・・・。そしてなんと・・・・・・・
このゲームも僕と紅葉さんが獲得したのでした。
僕は悟りました。
これがおそらく僕のもう一つの武器なのではないでしょうか。
ひたすら、同じように打つということは僕のサーブと共通点があるのですが・・・。
ひたすら、同じようにロブを打つのも僕の武器なのでは・・・・・。
そう考えると、僕の武器って一言で言うと・・・・・・・・!!
なでなで・・・・・
僕はハッと我に返りました。
「よくやったね!いいこ、いいこ・・・・。」
紅葉さんが、僕の頭を撫でていたのでした。
周りのギャラリーがクスクス笑っています・・・・・。
「巳波くん、目立ったね!!」
紅葉さんは、悪びれもなくそう僕に言いました。
確かに紅葉さんの言ったとおりに、僕は目立ったのかも知れません・・・・・。
テニスのプレイでも・・・・・。
紅葉さんに頭を撫でられたことでも・・・・・。




