紅葉さんの講義を受講する
今日は、とくしまマラソンを走りました。
雨と風で、結構辛かったです。全身筋肉痛で、このお話を書き上げました。
楽しんでいただけなら、とても嬉しい限りです。
「じゃあ、アタシのプランの説明をするわよ。
とりあえず通して聞いて欲しいんだ。
質問は、アタシの説明が終わってからね・・・・。
オーケイ?」
紅葉さんは、気を取り直して作戦の説明に入りました。
「は、はい、わかりました。」
僕は待ちかねていた、本題に突入できたらという気持ちだったので、特に異論はありませんでした。
「じゃー、本題に入っていくわよ。
アタシの作戦は誰がサーブを打つのかという、基準で切り替えていくことにするわよ。
大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です。」
テニスのダブルスは、四人のプレーヤーがゲーム毎に順番にサーブを打つ順番が切り替わっていきます。
つまり、誰がサーブを打つのかというケース毎に戦法を切り替えるというのは、とても理解しやすいし、理にかなっていると思います。
(紅葉さんは、意外と合理的な考えをするんだな・・・。)
「ん?なんか言った?巳波君。」
「あ、いやいや・・・・(冷や汗)。」
「そんじゃ、4つの戦法を発表するよー。
巳波君がサーブの時は、オーストラリアン・フォーメーション!
アタシがサーブの時は、平行陣!
アタシ達がサーブの時は、この戦法で対抗するんだよ。」
紅葉さんは、僕達のサーブ権の時の戦法を語りました。
しかし、とても簡潔な説明でした。
オーストラリアン・フォーメーションは、とても有名な戦法なのですが、余り実践で使用している現場を見たことが、僕はありません。
(読者様には、この戦法については、試合時に解説させていただきたいと思います。)
平行陣は、もはや基本戦法といえるものであり、オーストラリアン・フォーメーションよりも遙かにポピュラーな存在であります。
(こちらも、読者様には、試合時に解説させていただきます。)
「とくに異論はないかなあ・・・・。巳波君?」
紅葉さんは、僕の返答を期待してるような表情で、僕に問いただしてきました。
「も、紅葉さん・・・。平行陣は良く分かるんですが・・・・。」
「ですが・・・・、何かな?」
「オーストラリアン・フォーメーションなんて、僕は実践して事がありません。」
「だったら、どうしたと言うのよ?」
紅葉さんは、顎に人差し指と親指を添えて、うっすらとした笑みを浮かべていました。
「やったことないから、自信ないんですけど。」
僕は、正直に至極当たり前な事を、言ったつもりでした。
「だから意味があるんじゃない!!」
紅葉さんは、何故か自信ありげな言動を表面化させてきました。
「は、はい・・・?」
僕は、紅葉さんの言っている意味が、全く理解できませんでした。
「これは、奇襲戦法よ!!」
な、何でしょうか・・・。
僕は目を、ゴシゴシさせました。
紅葉さんの格好が、まるで軍服を着用した司令官に見えてきました。
「アタシ達が、リスクを冒すから相手に打撃を与えられるのよ!!
わかったわね!!」
紅葉さんは、僕に有無を言わせないよな口調で、力説していました。
「は・・・!わかりました、提督!!」
僕は、紅葉さんに向かって何故か敬礼して、返事をしていました。
「ふむ、よろしい。」
紅葉さんは、僕の返答に納得している様子でした。
「よし、それじゃあ。
最後の仕上げといくわよ・・・。」
紅葉さんは、側のテーブルをコンコンを叩いて、切り出していきました。
僕は、今となっては、紅葉さんの指令を期待しているばかりでした。
「アタシ達が、リターンの場合はアタシ達のどちらがリターンするかで、戦法を切り替えるわよ。」
紅葉さんは、舌の動きが滑らかに、話を続けて行きました。
さっきまで、誰がサーブを打つかで戦法を切り替えるかと言ったのに、今度は誰がリターンするかで、と紅葉さんは言い出したのです。
でもまあ、そんなことを突っ込んでも作戦会議は終わらないので、引き続いて紅葉さんの説明を聞くことにしました。
「巳波君がリターンの時は、ロブで深い球を打ち続ける。
アタシがリターンの時は、平行陣。」
またしても、紅葉さんの説明はとてもわかりやすかったです。
(それにしても、紅葉さんは平行陣が好きなんだなあ・・・・・。)
紅葉さんが、平行陣を多用したがるには、大きな理由があります。
それは、この後のエキシビジョンマッチにて、明らかになるのです。
「紅葉さん・・・・。」
「んん??なあに・・・・?巳波君・・・。」
「平行陣は分かるのですが、僕のリターン時のロブはどういった、狙いがあるのでしょうか?」
僕は、またしても疑問に思ったことがあり、紅葉さんに質問を投げかけました。
「うふふ・・・・。それはね・・・・。」
紅葉さんは、待ってましたという感じで、僕に顔を近づけてきました。
「あ・と・の・お・た・の・し・み!!」
紅葉さんは、そういって鼻を軽く人差し指で、チョコッとはじきました。
「んんー。」
僕は、納得がいかずに軽く唸りました。
「えへへ・・・・。」
何故か、紅葉さんは笑っていました。
「巳波君・・・・。」
「はい・・・?」
紅葉さんは、一体何を言い出そうとしているのでしょうか。
「この作戦会議の後・・・、エキシビジョンマッチの最中でも、アタシは巳波君に作戦を伝授するからね。
この作戦が全てではないのよ。」
紅葉さんは、両目をかるく閉じて、僕を諭すように言いました。
(そうか・・・・。だったら、今回はとことん紅葉さんは信じてみよう・・・・!!)
僕は、ようやく腹がくくれた、といった感じでした。
「でも、紅葉さん・・・・・。」
「んん??何かなあ・・・・?巳波君」
「紅葉さん、どうしてこんな格好をしているのですか?」
僕は、紅葉さんに対する疑問を率直にぶつけました。
何故なら、今の紅葉さんは・・・。
紅葉さんは、白衣をまとい、レンズの入っていない伊達眼鏡をかけて、指示棒を持っていました。
(何なのでしょう・・・・。まるでどこかの研究の、プレゼンテーションみたいです・・・・。)
「だってえ・・・・。」
紅葉さんは、髪を掻き上げて呟くように、僕に答えました。
「だって、この格好だったら、賢そうに見えると思ったんだもん・・・・。!」
紅葉さんは、人差し指を口元に当てて、おどけた感じで言いました。
紅葉さん・・・・・・・。
僕は未だに、紅葉さんという女性の事が、分かっていないようでした・・・・・。




