僕の武器
僕は、退出前の日向コーチの「見物だなあ・・・・。」という呟きの為に、不安をぬぐえないでいました。
「どうしたものか・・・・・・。」
どうにもならないのを、わかっていても悩んでしまう僕でした。
僕は、廊下でしゃがみ込んでいました。
すると、僕の目の前に女性が立っていました。
(誰なんだろうか・・・・・。)
僕は、構わずに前を見上げました。
(あ・・・・・・・。)
「自身が無いのかな・・・・・・。」
雪乃さん・・・・・、じゃなかった・・・・桜さん・・・・。
桜さんと、雪乃さんはとても外見が似ています。
でも・・・・。
何回も会っているうちに、二人に違いがすぐにわかるようになってきました。
雪乃さんは、一言で説明すると、クールな雰囲気の女性です。
言葉使いも簡潔で、とてもわかりやすい人だと思います。
でも、それとなく気を遣ってくれて・・・・・、とにかく細かい事にも気が回ります。
桜さんは、一言で説明すると・・・・・・。
あえて表現すると、観音様みたいな女性です。
雪乃さんの、気の使い方とはまた違います。
桜さんは、なんだか先を見通しているかのような・・・・・・。
この人に言葉をかけられると、何故か安心できるのです・・・・。
「さ、桜さん・・・・・。」
僕は、なんだか桜さんと、久々に会うような気がしました。
「そうですね・・・・。桜さんの言うとおり、僕はとても不安なんです・・・。」
僕は、この桜さんの前では何も隠す気にはなれません。
「何を不安がる必要があるの・・・・・」
桜さんは目を閉じて、呟きました。
「だって、桜さん・・・・。
明らかに格上の人たちと、僕は試合をしなければいけないんですよ。
不安というか、恥ずかしい事にならないか考えてしまうのは避けられない事ですよ。」
そうです、僕の力不足は目に見えているのです・・・。
「本当に、そうかしら?」
桜さんは落ち着いた微笑で、僕に相づちを打ちました。
「桜さん・・・・。
あの人達は、みんな凄い武器を持っていますよ。
四季さんは、癖のある回転のサーブとストローク。
雪乃さんは、正確無比なストローク。
紅葉さんは、豊富なバリエーションのボレー。
それに比べて、僕は何一つ、あの人たちに及ぶ物を持っていないから・・・・。」
僕は、自分の実力不足を述べてみました。
「ふう・・・・・。」
桜さんは、軽く深呼吸をしました。
「巳波君に、そんなことを言われたら・・・・・。
私は、とても悲しいな・・・・・。」
桜さんは、寂しそうな表情を浮かべていました。
「え・・・・・・?」
僕は、桜さんの態度に戸惑いを隠せませんでした。
「巳波君は、私との練習を忘れたの・・・・?」
「あ・・・・・・・・。」
僕は、桜さんに教えられながらの、堤防での練習を思い出しました。(※第1話参照)
(そうだ、僕は桜さんが応援してくれたから、これまでテニスを頑張れたんだ・・・・。
軽はずみに、駄目なんて言ってはいけなかったんだ・・・・。)
「巳波君には、強力な武器があるのよ・・・・・。」
僕は、さすがに桜さんが言っていることがわかりませんでした。
「僕の武器って、何なんでしょうか?」
僕は、正直に桜さんに聞いてしまいました。
「うふふ・・・・。」
桜さんは、優しい笑顔でした。
「巳波君、それが何か自分自身でわからない・・・・?」
「は、はい、全くわからないです。」
僕は、自分の武器は何か知りたい一心でした。
「それわね・・・・・・。」
僕は、またも唾をゴクリと飲み込みました。
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「教えない・・・・。」
「・・・・・・・・はい?」
「私の口からは、教えない・・・・。」
「・・・・・・・・ええええー!!!
なんで、教えてくれないんですかー!?」
僕は、溢れる動揺を抑えきれませんでした。
「それわね・・・・。
巳波君が、自分自身で体感して知るべき事だからなのよ・・・・・。
そして、そのことによって巳波君は自信をつけることができるから・・・・」
桜さんは、全てを見透かした様な口調で僕を諭しました。
(えええ・・・・。
そうなんですか・・・・・、桜さん・・・・。)
ハッ・・・・。
気がつけば、桜さんの姿は消えていました。
僕の疑問は解決しませんでした。
けれど、今回も桜さんに勇気付けられました。
「よっし!!やるしかない!!」
僕は、意気揚々と控え室に戻りました。
カチャッ・・・・。
控え室を開けるとそこには・・・・・。
「お、りお・・・・。
お、お、おりお・・・・・・・。」
紅葉さんは、四季折夫さんの名を呟きながら自分の道具の手入れをしていました。
しかも、口を目を三日月のような形にして・・・・。
その光景は・・・・・。
まるで昔話にでてくる、山姥が包丁を研いでいるような、恐ろしいものでした。
(やっぱり、僕自身ないかも・・・・・。)
若干、勇気を砕かれた僕でした・・・・・。




