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ちょっと年上の女の子  作者: らすく
第6章 甦る記憶
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「逃げたのが、断ったという事なのですか?」

 

 全ては今の状況の為にあったのです。僕は夏目海洋に連れ戻されたのです。プロテニス選手を目指すと言う、名目のもとに・・・。


 夏目海洋は流暢な英語で、自社の営業活動の近況をスピーチしていました。今やサマー・アイグループは、日本企業の枠を越えて多国籍であることは誰もが知るところなのです。勿論そのトップである夏目海洋は、財界の中核を担う1人であります。


 お偉方の一通りの挨拶は終わり、パーティーと相成りました。殆どの人と面識のない僕が、歩み寄る場所は決まっていました。

 「お疲れ様。サニー。」

 「ああ。お疲れ。」

 とてもスッキリとした表情を、サニーは見せたのでした。そこにはやりきった男がいるだけでした。

 そしてそれは彼だけではなかったのです。

 そう、彼女もです。

 「あ、雪乃さん。」


 「お疲れ。」

 これがいわゆる、孫にも衣装と言うのでしょうか。いや、訂正。これは間違いなく失礼な表現でした。見違えた、と言っておきましょう。

 綺麗なウグイス色の柔らかい感じのドレス・・・。こんなの初めて・・・。

 彼女は余り表情を出していません。しかしこの僕には分かるのです。彼女が、雪乃さんが1つの達成感を持っていることを・・・。自身に満ち溢れていることを・・・。それをこの綺麗なドレスで包み込んでいるのでした。この先の事を彼女がどのように見据えているのかは、僕には分かるはずもありません。


 そしてそれは、サニーに対しても同じことをなのです。

 何故なら、この二人が眺めている景色は、僕からは見ることが叶わないのだから・・・。


 結局、このときの僕は表面的な相槌を打ったに過ぎませんでした。そう。最早、今の自分と彼らは違う世界にいるのですから。そして自分は彼らの世界に入って行けるとは、到底考えられないのでした。それは海の底の様に深い劣等感・・・。


 パーティーは終わりました。

 その時に自分は何を話したのか、全く記憶にありません。それ程、あのパーティーは自分にとって、疎外感が増幅されるものだったのでした。

 そもそもこの僕は全米オープンに出場した選手ではないし、ましてや各種関係者にも当てはまりません。だから普段は良く会話するサニーや雪乃さんとも、表面上のやり取りしか出来なかったのです。一体何を話せと言うのでしょうか・・・。こんなことなら1人で何処かの飲食店で夜を済ませたほうが、よっぽど平和なのでした。こんなの刻露清秀の嫌がらせ、なのです。


 「夏目様。」

 「は?」

 ここは地下鉄の車内です。僕は刻露さんと並んで席に座っていました。

 「今日は有意義でしたよ。」

 「え?」

 その思いもよらない彼の言葉に、不意打ちを食らった感じで戸惑いました。いったい何が有意義と言うのでしょうか。僕はあの場所では部外者であったというのに・・・。しかし刻露さんの見解は全く異なっていました。

 「特に夏目様のお父様は、喜んでおられましたね。」

 「!?」

 これにはビックリです。突然、彼は何を言い出すのでしょうか。


 「何ですか?」

 全く何の事を言われているのか分からないので、自分はこう言う他に無いのです。

 「お父様は言っておられましたよ。息子は立派に成長したと。後継者として相応しい人物になったと。」

 (・・・・!!)

 どうして彼に、そんな事が言えるのでしょうか。刻露清秀にボクと父との間の何が分かる、と言うのでしょうか。

 そのようにボクは思うのですが、構わずに刻露さんは続けました。

 「きっと夏目様は、気に入ってくださると思いますよ。」

 先程から、彼は本当に何を言っているのでしょうか。やはり刻露清秀はテニスメーカーBABELバベルの営業職に収まっていない人物なのでしょう。そしてその正体は・・・・。

 「何を気に入ると?」

 あくまで感情を読み取られないように、気を遣う僕なのでした。


 対する彼の表情は、とても穏やかです。刻露清秀もまた、感情を読み取れない人物なのでした。

 「今後の夏目様の進路の事ですよ。」

 「はい・・・?」

 その彼の述べる僕の進路とは、何を指しているのか・・・・。実を言うと自分には分かっていたのでした。

 「それはお断りしたつもりですが・・・。」

 そういうボクは歯切れが悪い、という事は自覚があったのでした。そして、そこには隙と言うものが存在していたのです。勿論それは、刻露清秀には見抜かれている事でしょう・・・。

 「逃げたのが、断ったという事なのですか?」

 「そ、それは・・・。」

 刻露清秀にズバリ指摘されたので、僕はシドロモドロになってしまったのでした。そんな僕に対して、構わずに彼は続けたのです。

 「それは夏目様の一方的な解釈ですね。私どもは夏目様を正当な後継者として、背一杯の用意をしてお迎えする所存です。」

 「そんな・・・。」

 刻露清秀の言葉遣いは丁寧なのですが、一方で言い方は極めて高圧的でした。まさに僕は選択肢はない・・・・。そのように言っているとしか受け取れないのです。

 温和な表情がかえって怖いのです・・・。

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