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ちょっと年上の女の子  作者: らすく
第6章 甦る記憶
323/326

この刻露清秀が、いかに不気味な男なのか・・・。

 それからもサニーの攻勢は続きました。とても球質の重いサーブ。たとえ相手が厳しいコースをついてきても、粘り強くラケットに当てて返す・・・。もしも浅いボールが返ってきたら、今度は自分も的確なコースを狙う。そして更に高く跳ねるボールが来たら、彼は迷わなく打ち込む・・・。何故なら高く跳ね上がるボールは、上から叩くだけで攻撃力があるからなのです。つまりこれは重力も味方につける事を意味するのです。

 これらは決して奇策などではありません。他のテニスプレーヤーも実践していることなのです。そして必ずしも奇抜な事をすることが、そのプレーヤーの個性とは限りません。一つの技だけで、その選手の全てが決まるわけでは無いのです。むしろ様々な要素が絡み合って、その選手の能力が決定されるのではないでしょうか。たとえ基本的な技と戦略の組み合わせでだけでも、その人のオリジナリティも生まれたりするはずなのです。

 

 果たして、その試合は拮抗していました。初出場ながらサニーは全米オープンの予選を見事に突破し、今このコートに立っているのです。それはとても立派な事なのです。

 日頃から彼の練習に付き合っているボクとしても、これは誇らしい限りなのでした。とてもおこがましいのかも知れませんが、サニー・ファインと言う選手のプレイに影響を与えていると、自負しています。もっと踏み込んでいくと、僕も一緒にサニーと試合を戦っているつもりなのです。

 ・・・・しかし・・・やはり・・・、それは自分の思い込みだった様です・・・。同時にまた別の感情が沸き上がって来ているのが、この自分には分かっていたのです。それは非常に後ろ向きな気持ちだったのでした。そして盟友の見事な試合を純粋に喜べていない自分自身に対して、嫌悪感も抱いていたのです。

 それはあくまでもサニー・ファインが、僕よりも格上のテニス選手である事を改めて確認したにすぎないのですが・・・。

 

 ===== ゲームセット =====

 この試合はサニーの敗北で終わりました。結果的に全てのセットを連続で取られました。セットカウント3-0で決着がついたのです。因みに男子シングルスは5セットマッチといい、先に3セットを取った方の勝ちになるのです。それでもサニーは健闘したと思うのです。それに試合内容は決して一方的なものではありませんでした。お互いにポイントを取って取られて・・・。そしてゲームもいくつかは、サニーは取っていたのです。それでも相手の牙城を崩すには及ばなかったのでした。

 対戦相手と健闘を称え合う雰囲気を持って握手を交わしたサニーは、とても軽快そうな足取りで退場したのです。その姿は最早、敗者のものではありませんでした。むしろ自身の未来に向いている、いつかは勝者となる・・・。そんなやる気に満ち溢れているのです。彼らがコートを去ってからも、余韻は残っていました。


 「はあ・・・。」

 控え室に戻った僕は、1人ポツンとパイプ椅子に腰かけていました。溜め息が溢れました。自分は本来、全米オープンを戦いきったサニー・ファインを労う立場にあります。なのに自分自身の停滞の為に、そんな素直な気持ちになりきれないのです。しかしそんな風に悩む時間は、それ程無かったのでした。

 ===== ガチャン =====

 (はっ・・・。)

 予想はされていたのですが、刻露清秀さんが入室してきました。

 「今日はいかがでしたか?」

 刻露さんは何か書類の入っていそうな封筒を抱えていました。僕が試合を観戦している間、恐らく仕事をしていたのでしょう。

 「実に有意義な一日でした。大変お世話になりました。」

 本当に僕は、全く当たり障りの無い返事をしたのでした。まだまだ自分は刻露さんに対して、心を許すわけにはいかないのです。そんな雰囲気を彼も察してはいることでしょう。

 「大変お疲れでしょうが、これから夕食に参りましょうか。ただそれなりの服装を調えられた方が、宜しいかと存じます。」

 とても丁寧な口調で、刻露さんは語っていたのですが・・・。

 「え?」

 これは疑問系の相槌です。自分の思いもよらない内容を、サラリと彼は言いました。

 そう僕が反応するや否や、スタスタと刻露さんは右をすれ違っていきました。そして部屋の隅にあるロッカーの前に立ちました。今気づきましたが、そのロッカーは本当にピカピカに磨かれて綺麗なのでした。

 「こちらにごさいます。」

 ===== ガチャ =====

 その扉は開かれたのです。

 「あ。」

 ロッカーの中には、見るからに立派なスーツとカッターシャツ、ネクタイがあったのです。しかも下着も・・・。

 「勝手ながら仕立てておきましたので、是非これを着用してください。」

 いかにも誠実そうな顔で、彼は僕に促したのでした。

 ボクは驚いていました。何故なら・・・。

 どうして刻露さんは、この僕の身体のサイズを知っていたのでしょうか・・・。でなければこれだけの衣類を揃えられる訳がありません。

 「有難うございます。」

 感謝の言葉を述べましたが、勿論この自分の真意は別のところにあります。実際は感謝よりも懐疑・・・。この刻露清秀が、いかに不気味な男なのか・・・。改めて思い知ったのです・・・。

 恐らく僕の全ての情報は、彼に掌握されている事でしょう・・・。

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