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ちょっと年上の女の子  作者: らすく
第5章 変化
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「ご安心ください。夏目さんがお困りになる様には致しません。」

 「お久し振りです。夏目様。」

 極めて日本人としては長身の彼。その視線は当然高く、僕を見下ろしてきました。それでも露骨な威圧感はありませんでした。しかし彼の瞳の奥底には、何かが潜んでいそうな不気味さがありました。

 「何の用ですか。」

 今まで僕は彼から逃げていたのです。それについては言い訳は思い付きません。だからまともに視線を合わしかねますし、彼に対しての相槌も自然と素っ気ないものになるのでした。

 「急な訪問、申し訳ありません。日頃より弊社、BABELの製品をご使用いただきまして、心より感謝いたします。」

 そう言って彼は深々と頭を下げてきたのでした。そんな彼の予想外の行動に対して、文字通り僕は拍子抜けをしました。

 それではこの刻露清秀さんは、一体何の目的でここに現れたのでしょうか。その答えはすぐに出るのでした。

 「そろそろ御入り用の時期かと存じ上げます。」

 気がつくと彼の傍には、段ボールが置かれていました。


 「な、何ですか、これは?」

 恐る恐るその段ボールを指さしながら、僕は刻露さんに尋ねたのでした。そりゃあもっともな事でしょう。自分はこの刻露清秀さんの言うことに反発して、今は工場でテニスに打ち込んでいるのです。そんな自分に対して一体何の用事があると言うのでしょうか。しかもこの段ボール・・・・。これは最早、悪い事しか想像出来ないのでした。

 そんな僕の気持ちを察したのか、刻露さんは微笑を浮かべていました。そこがまた不気味極まりなかったのでした。

 ===== ガサッ =====

 彼は段ボールを抱え上げました。

 「どうぞ夏目様。」


 「え?」

 未だに自分は、この段ボールに対して疑心暗鬼の眼を向けていました。しかしこのときの行動において、自分には選択肢が無かったのです。だから直ぐ様、僕はこの段ボールを刻露さんから受け取ったのでした。そして速やかに段ボールを開けるのです。するとそこには・・・。

 「こ、これは・・・。」

 それは今の自分にとっては目映いばかりの物なのでした。まさかこんなものを僕に対して持ってくるなんて・・・。

 そこには新しいテニスラケットが何本も入っていました。それとラケットに張るためのストリングも沢山あったのです。それらは自分の妄想などではなく、本当にキラキラと輝いて見えたのでした。

 これらは確かに自分が喉から手が出る程欲しかった物達・・・。だがしかし僕は、この目の前の刻露清秀さんを裏切った男・・・。

 「どうしてこれを僕に・・・?」

 その戸惑いを隠さずに、率直な疑問を彼に対して表したのでした。

 しかし刻露さんからは、とても意外な反応があったのです。

 「当たり前ですよ。」

 

 「え。」

 これは一体どうゆう意味なのでしょうか。ちゃんとした言葉が出てきません。そこで刻露さんは続けたのでした。

 「夏目様はBABEL社の製品を使用していただく契約となっています。これは今も変わりません。」

 確かに僕が渡米する前の手続きに、それは含まれていたのかも知れません。しかしそうだとしてもこの状態では、自分の方が契約を破棄した扱いにならないのか、と思うのでした。

 さらに刻露さんは重ねて言います。

 「何もご心配には及びません。このまま夏目様はテニスを続けていらして宜しいのですよ。」

 

 「そうなんですか?しかし自分は刻露さんとの話し合いを途中で投げ出したのですよ。そんな自分に支援をしていただく理由が、今一つよくわからないのですが。」

 そうなんです。この僕の一連の行動は、咎められこそすれ助けられる道理はないのでした。すると刻露清秀さんは軽い溜め息をつき、腕を組んでいました。そしてチラッと天井の方を見やりました。

 「実を言うとこれは私だけの意思ではありません。上層部からの意向なのです。」

 「上層部?」

 この彼の台詞から、何やら背後に大きな力があることが伺えました。ただし引っ掛かるのがまだプロ選手にもなっていない自分に対して、この謎のこだわり何なのでしょうか。これは今に始まったことではありません。そもそも自分がニューヨークにいること自体、外部からの力が働いているのです。この刻露清秀さんはBABELの営業職にとどまらない、別の役目を持っているとしか考えられないです。

 

 「ご安心ください。夏目さんがお困りになる様には致しません。」

 そのときの刻露清秀さんは笑顔でした。その彼のそんなところが、さらに僕の不安を煽るのでした。

 

 「有難うございます。刻露さん。でもどうしてここが分かったんですか?」

 思い切って隅の方にあった疑問を彼にぶつけてみました。しかしそれは藪蛇というものを呼び出しかねない危険な行為だったのでした。何故なら僕は薄々と感じていたのです。今まで自分は誰かの掌で踊らされているに過ぎないという事を・・・。そしてその張本人は刻露さんではないという事を・・・。


 「今回はこれだけでは無いのですよ。夏目様・・・。」

 「え・・・?」

 その刻露清秀さんの右手には、一つの封筒状のものがあったのでした。

 これは一体・・・・。

 今の自分の心理的状況は、期待半分・不安半分といったところなのでした。

 はてさて今度はどちらに転ぶのでしょうか・・・。

 それは神のみぞが知るところ・・・。

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